第2話 「帰り振り向く者」

 昨日の朝はどんよりとしていたが、今朝は気持ちの良い天気だった。牧椎名は30分程走り、誰もいない公園で少し休む。公園にはいるといつも風が止む。

 ベンチに座って足を組みながら息を整える。少し考え事をしながら、前を向くと音が聴こえる。


【ギイィ…ギィイィ】錆びた鉄が擦れ合う様な音。


 公園といってもベンチしかない。遊具なんてない。だだっぴろい敷地内に木のベンチだけ。椎名は思い浮かべる。

 公園の中でひとりで彼はブランコに乗っている。そのうち女の子がやってきて隣のブランコに乗ってくる。


【ギイィ…ギィィイイ】ふたりでブランコをこぐ。


 女の子が妙な声をあげはじめる。椎名はそっちの方を見たいけど見れない。誰かに首を抑えられてるみたいに。


【ギイィイ…ギィイィイ】ブランコの音。

「嗚呼ぁあ…あゝぁああ」女の子の声。


 椎名は見てみたい少女の顔を。次の瞬間音が、声が混ざる。


【ギイィィいあゝああ嗚呼ぁ」

「ぎゃああああああああああ」

少女は泣いているのか、椎名は気になった。


「ぎゃああああああああああああああっッヱァっボッキリ】

【ゴキィバギメキ】

どうなっているのだろう。

椎名は見れない。首の手が外れない。


【ゴキャあっ】

【ボトッ】


 ブランコをこぐ椎名の膝に、少女の頭が。

落ちてくる。


落ちて、

 きた。


やっと椎名は少女の顔を見た。


 椎名はベンチから立ち上がり、公園の向かいの小さな料理屋に向かう。いつも『お茶漬け定食と日替わり和菓子 500円』を頼む。日替わり和菓子は今日はみたらし団子のはずだ。彼の好物だった。

 

 数分後、お茶漬けがでてきた。お湯は自分で。他にはきゅうりの漬物、味付け海苔、小魚。そしてみたらし団子。お茶漬けをゆっくりと食べ、ほのかな梅干しの味を楽しむ。後は感慨もなくさらっと平らげる。みたらし団子をしっかり味わい、店を出る。500円玉はカウンターのうえ。今日も客は椎名だけ。


 勿論公園を通り過ぎながら、帰路につく。遊具はないベンチだけの公園。そのベンチに猫が座っている。いつもの事だ。椎名は一瞬だけ振り返り猫と目をあわせると猫が姿を変えた。

 

 二人の男女がベンチに座ってこちらを伺う。そして

そして、


彼に手を振る。真顔で。


 その顔から、目玉が落ちる。静かに。

 また落ちる。そうして顔が溶けていく。


椎名はアパートに向かった。もう彼は振り向かない。 






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る