画家にさようなら

@tsukayama-kana

第1話 「描き覗く者」

 アパートの端に敷かれた布団の上に寝っ転がりながら、椎名は天井に絵を描いていた。それは風景画で、散歩した日に見た掘っ立て小屋である。

 牧椎名は、そういったクセがあった。毎朝7時に鳴るスマホのアラームの20分前に覚醒し絵を天井に描く。そうしているうちにアラームが鳴りそれを止める。彼は中学生の頃から、そういった朝の過ごし方をしている。朝、まだ頭がまわらないうちにしかし思考は道具が無くても絵を描こうとする。


その時、決まって視線を感じる。


 視線をキャッチすると椎名は誰かに怒られたみたいに、着替えを始める。ズボンを履き、シャツのボタンをはめる時にはもう視線は無い。


夢の続きか。はたまたまだ夢をみているのか。


 彼はさっさと上着を羽織って、アパートを出る。いつものジョギングを開始する。朝のまだ冷たい風を浴びて彼は走る。

 ふと気付いた。アパートの鍵を閉めていない。椎名はゆっくりとアパートを振り返り、


振り返り、見た。


 鍵を閉めてないドアから覗く顔。能面のような顔。そして、にたにたっとわらう。


口を開いてこう言った。確かに話した。


「わスレてィなァい?」笑いながら話す顔。椎名は目を。


 スマホのアラームが鳴り響いた。それより前に彼は目をしっかり開いている。アラームを止める。誰かに急かされるてるみたいに服を着替えて上着を羽織ってアパートのドアを開ける。


 朝の冷たい風を体に受けて、牧椎名の1日が始まる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る