第8話

思い過ごしも恋のうち、か。


常夏ハワイと言っても北半球の四季はある。冬にあたるのは十二月から二月くらい、この時期はなかなか天気が安定しないが、ノースショアには恐ろしいくらいの大きな波が立つ。北極からの大きな「うねり」がハワイ諸島の岩盤にあたるのが原因らしい。

九月に始まった啓一のカイムキ中学校生活も一ヶ月が過ぎた。半年間の猛特訓で大きく向上した啓一の英語力だったが、さすがに異国での学園生活にはとまどうことだらけだった。

ボクも啓一の様子が気になっていた。先週の日曜日にサーフィンに誘ってアラモアナの沖に二人で出た。波間に浮かび良い波を待ちながら、ボクは聞いてみた。

「どうだい、学校は?日本とは全然違うだろ」

「もう、大変。信じられないことばっかりですよ」

「言葉は大丈夫かい?」

「もう、英語ばっかり話しているから、もう髪の毛が金髪になっちゃうよ」

そんな冗談を言えるくらいだから、啓一の学校生活の第一歩は順調だとボクは思った。


啓一が通うカイムキ中学は南国の太陽がキラキラ差し込んで、緑の芝生が眩しい校庭を持つ。登下校にはこの芝生の上をそれぞれ自由な服装で通ってくる。登校初日、啓一がハワイアンと白人の混じった担任の先生、ジョアンナから聞かされたこの学校の注意事項には驚かされた。

「ケイイチ、ウチの学校は服装には厳しいのよ。水着での登校は禁止。かならずタンクトップ以上のシャツは着てくること」

つまりは裸で来てはダメということだった。

次の金曜日、クラスでまず仲良くなったサモア系の少年ビリーが裸足で登校してきた。

「ビリー、なんで裸足?」

「そりゃ、ケイイチ、べらぼうに気持がいいからだよ。お前も試してみろよ」

いたく単純な答えに、翌週、啓一も裸足でと思ってアパートを出ようとすると、ちょうどテレビ局に出勤するキャシーに玄関でばったり会えば、外には絶対に靴を履いて出かけるように怒鳴られた。



啓一が極めて楽しく学校に通うその理由、つまりは恋。いや、まだ恋に似た淡いモノか。サマースクールで一緒だったジェーンが同じクラスになったからだ。クラスメートはみんな初めての顔だったが、ジェーンだけは違った。知った顔がそこにいることは啓一にとっては大いに気持が救われる思いだった。

始業式の日、皆がそれぞれ自己紹介した。

啓一が両親は既にこの世を去り、思い切って世界を広げにハワイに一人で来たことをゆっくりした英語で説明すれば、「オー」とクラス全員から感嘆の声があがった。

ジェーンはハワイでは珍しくない日本、中国、スペイン、ロシア、ポルトガル、それにハワイアンの血が混じっていて、趣味はサーフィンとフラダンスのどこにでもいる普通のハワイ娘です、と自己紹介、四月までは父親の仕事の関係で沖縄に三年間住んでいたという。

啓一はこの時、小学校三年の時にお婆ちゃんや叔母さん家族と一週間の沖縄旅行に行った幸運を人生まんざらではない!と咽び喜んだ。淡い栗色、おそろしく長い脚、小麦色の肌に深く青い瞳、啓一はジェーンとのサマースクールでの出会いから同じクラスへの神様のお導きは昔、お婆ちゃんから聞いた小指に結ばれた人には見えぬ赤い糸の話を思い出した。


人間は「人」を好きになると、その思いを誰かに伝えたくなる動物である。黙っていられなくなる。啓一がこの思いを吐露するに値する一番有効有益な相手とは誰か、啓一は頭に一人、一人、適当に思い浮かべた。クラスの友達は皆、ライバルに映る。山村夫妻、アン、すぐに頭の中でバツをつけた。ヨシダの爺様は、たぶんいつもの「当たって砕けろ」だろう。カパラとチャチは、「押し倒せ、男は力」、そう言うに決まっている。異国の女子との上手くいく方法の相談、やっぱり、あの三人しかいない。ケイト、チェルシー、キャシー、いつもの三人組に決定した。



三人組の作戦第一弾はコミュニケーション。とにかくチャンスを見つけて話すこと、仲良くなること、共通の何かを見つけること。

「そうだ、オキナワでいこう!」

話題は決定した。この話題であれば並いるライバル達では絶対に話せないだろう。つぎは「場」を作らなければならない。突然、「沖縄の話でもしよう」とニコニコして寄って行っても気持が悪い。ケイトがどこで仕入れた情報か沖縄のドーナッツ「サーターアンダギー」を思いついた。すぐに沖縄ルーツのヨシダの爺様に聞いてみた、

「おー、そりゃ、サーターアンダギー、よう知っとるのケイトも。真ん丸のボール型のドーナッツじゃ。黒糖の渋い甘さで美味しいの。それがどうしたんじゃ?ケイト」

「ジイチャンは作れる?」

「ノーノー。沖縄県人会館にいつも誰かが作って持ってきよるからの、作る必要もないの」

「ねね、今度、持ってきてよ。ちょっと食べてみたいから」

ケイトが言えば、キャシーもチェルシーも同調する。

「みんな揃って何言うかと思えば、沖縄ドーナッツ食べたいっちゃ、変った娘達じゃの。ま、お安い御用じゃ。明日にでも土産に持って帰ってくるわ」

ヨシダの爺様が、沖縄名物を持ってきてくれることになった。

「なんで?その沖縄のドーナッツがどうなるっていうの?」

「ま、聞きなさい。順序だって考えましょうね」

さすが小学校の先生だけの説得力はある。啓一の疑問にケイトが解説を始めた。


二人の共通の話題はオキナワ。女の子の好きなものはスィーツ、つまり甘い物。どんな女の子でも美味しいスィーツには目がない。特に中学生ではまだまだダイエットの自制は効かない。この意見には他の二人も納得する。

一、とあるランチ・タイム、啓一は沖縄ドーナッツを袋に入れて持つ。

二、啓一はドーナッツを一つ手に取り口に入れながら、何気なく女の子達がいる方向に歩みを進める。

三、「あらっ」と気が付くジェーン。でも、たぶん、彼女はお喋りに夢中で啓一には気が付かないから、「あっ」と気が付くのは啓一の方。

四、「そーだ!ジェーンはこの前まで沖縄に住んでたんだよね。このドーナッツ、サーターアンダギーっていうの知ってたぁ?」と啓一は話題を振る。ジェーンが知ってようが知るまいがここは関係なし。

五、思い出したように啓一は、そこにいる女の子達にドーナッツを配る。女子達喜ぶ。

六、そこでジェーンが言う、「ケイイチもオキナワ知ってるの?」で二人の話題が合致してコミュニケーションが深まる。

「どう?」

とケイトがみんなの顔を見た。

「うん、まぁ無難な線ね」

とキャシー。チェルシーが疑問を呈し、

「でも、その何とか言うオキナワのドーナッツって美味しいの?」

確かにそれが肝心だと、明日にでもヨシダの爺様が持ってきてくれるであろう、サーターアンダギーを試食してから、本作戦の実行を決行するか否かを決めることにした。


翌日、みんなで食べたサーターアンダギーは美味しかった。

翌週の月曜日の昼休み。啓一は不自然にいつもの仲間の席を立ち上がって、ドーナッツを頬張りながらジェーン達のいる集団を目指した。無論かなり不自然に。

一回、彼女達の横を通過した。大方の予想通り、誰もこのヨシダの爺様がわざわざ沖縄県人会館から運んできたこの沖縄名物に気がつかなかった。廊下の突き当たりにある自動販売機でセブンアップを買った。ドーナッツと緊張で喉がカラカラだった。ぐっとスプライトを半分飲んでジェーンの方へ再び向かった。大きなゲップが二回出た。改めてジェーンとの距離を詰める。三メートル、二メートル、一メートル・・・

「しまった、通り過ぎてしまった」

啓一はキッカケを掴めずに黙々と歩きながら、そのドーナッツを口に押し込んだその時、恋の女神は微笑んだかのようにみえた。

「ね、ケイイチ。それなーに?」

クラスでも一番の巨漢を誇るジャスミンが大きな声で啓一を呼び止めた。おデブちゃんの貪欲なスイーツに対する高い好奇心に啓一は感謝した。

「オキナワって日本の南にある島のドーナッツだよ。食べる?」

もちろんジャスミンがノーと言うはずはなかった。そこで何とか台本に戻った啓一はジェーンに声をかけた。

「そ、そ、そーだ、ジェーンはオキナワに住んでたんだよね」

「ウン、ケイイチもオキナワ知っているの?」

ジェーンの問いに、思わず啓一は、

「ウン、ボクもオキナワにいたことあるんだ」

と行ったことがある、と言おうと思ったが、住んでいたことにしてしまった。嬉しがるジェニーの矢継ぎ早の質問、質問、質問に嬉しいも寂しいかな啓一の沖縄の知識はムーンビーチと国際通り、ひめゆりの搭、みんなで食べたソウキソバだった。

「やっぱり、基地に住んでいるアメリカ人と普通の日本人、全然違う生活なんだね」

寂しそうなジェーンの結論でこの話に終止符が打たれた。

しかし、ジャスミンのおかげで会話に多少の盛り上がりに成功し、ジェーンはクリスチャンであること、日曜日には必ず教会に出かけて、その後、昼過ぎからカイマナビーチ、それもちょっと沖の「トングス」という名のポイントでよくサーフィンをやっているらしい情報を入手した。



作戦第二弾、偶然の出会い。

翌週の日曜日に四人はカイマナビーチに出かけた。ケイトの車の上には二枚のボード。もっとも今日の目的は波乗りではなく「偶然の出会い」。四人は十二時過ぎにビーチサイドに到着した。が、さすがに日曜日のこの時間に簡単には車が止められない。カピオラニ公園の駐車スペースを探して広い公園を三周もしてやっと場所を確保した。ケイトとキャシーはどこから手配したのか首から大きな双眼鏡をかけている。ライフガードの監視台の横に陣地を設営し、ライフガードの男にケイトが聞いた。

「ね、ね、毎週来てると思うんだけどさ、髪の毛栗色サラサラ、目はダークブルーの十三、四才の女の子、今日はもう入ってる?」

「さっき見たなぁ、そんな感じの子・・・二人くらい」

オレンジ色の監視台から、置いてあった双眼鏡を手にとってライフガードは沖を見つめた。数秒後に三人娘の尋ね人を発見したらしく、

「一人はあの左サイドでテイクオフした子だ。今、乗った子。もう一人は・・・」

と言って右に双眼鏡を移して指を刺した、

「あそこ、あそこで波待ちしている、ピンク色のラッシュガードの子」

お礼を言い二人の位置を指先で確認し、ケイトとキャシーは沖に双眼鏡を向けた。二人の位置をそれぞれ確認すると、ケイトは啓一に双眼鏡を渡した。

「ケイイチ、見て。ジェーンはいる?」

啓一は右でパドリングして沖に向かう女の子を見た。背中しか見えないので、どうもあれがジェーンかどうか確認できない。双眼鏡を右へ波待ちの女の子を見た。

「オー、ジェーンだ、ジェーンだ」

能天気に啓一は口元を緩めた。偶然の演出はこうだ。

一、ジェーンが最後の波乗りを決めて陸に戻ってくる。

二、そこに何気なくボードを抱えて海に向かう啓一。

三、すれ違いざまに声を掛ける啓一、出会いを驚く二人。

四、しばし波乗りトーク、友好を深める。

五、来週、一緒にサーフィンしようと別れる。

六、翌日、学校で会う。ジェーンは何だか啓一に新鮮な魅力を感じ始める

チェルシーがこれしかない理想的展開とばかり今日の作戦を説明した。双眼鏡を代わり代わりに手に取ってジェーンの行動を注視した。その姿は三人の小姑に囲まれた少年、危ない四人組の集団ストーカーという観も否めない。さっきジェーンを見つけてくれたライフガードも、派手目のいい女達の奇妙な行動に頭をひねった。一時間も眺めていてケイトが一言、

「彼女、上手いわ」

と評価を下した。それが一般論としてか、十三才の女の子としてなのか、はたまた啓一比較の評価なのか、何の基準にしたものかは啓一には不明であった。

突然、チャルシーが叫んだ、

「やばい!上がってくるわよ、あの子」

「じゃっ、ほらっ!」

ケイトが啓一の背中をドンと叩いた。啓一にも、だんだん近づいてくるジェーンの姿が確認できるようになってきた。

「すれ違い様の勝負!」

一瞬、啓一の脳裏に一抹の嫌な予感。ジェーンの後ろにぴったり付くもう一枚のボード。

「ねねね、誰か一緒・・・」

「関係ないわよ、ゴーゴー」

完全に行けの指示が下っている。啓一の足先をサラサラの波がゆっくり触れる。ジェーンはボードを降りた。二人の距離は五十メートル、ジェーンはまさか数時間前から自分を狙うストーカー集団がビーチにたむろしているとも思わないから、もちろん啓一には気が付いていない。

「あ、まずい」

ジェーンの横には年上の屈強な男がいる、高校生くらいだろうか。啓一は堪らずその身をひるがえして三人娘が揃う陣地にとって帰った。

「ダ、ダ、ダメだ。オトコ、オトコ、ボーイフレンドも一緒だ」

啓一がそう叫んで並んで、座る三人娘の後ろに滑り込み、砂の上にうつ伏せに隠れた。三十秒後、啓一にしてみれば、もう一時間にも感じられる長い時間、ジェーンと連れの男がオレンジ色の監視台の横の集団を不思議そうな顔をして通り過ぎた。三人娘は、感心しながらエキゾチックな美少女に見とれていた。が、顔を砂に埋めて平穏な時の流れを祈る啓一を見て一転、お腹を抱えて笑い転げた。

見事に作戦は失敗に終わった。微笑ましくも啓一は両肩を落としガックリ。帰りの車は啓一を励ます三人娘の気休めの嵐、啓一にはとてつもなく空しく。その日、初めて胸の痛みを知った啓一であった。

 


作戦第三弾、サーフィン。

ついに戦線にカパラとチャチが加わった。この二人の参戦については三人娘で議論があったが、どうにも噂を聞きつけた男二人は止められなかった。

「男の恋の仕掛けは、男しか解決できぬ」

「ケイイチ、恋はチカラ、男は情け」

などと予想通りの体育会的恋愛論をぶちまける。ビール片手に妙に意気投合するカパラとチャチの妙な盛り上がりには、啓一も行く先大いなる不安を感じ取った。


次の日曜日、同じ時間。

啓一に三人娘の四人に、カパラとチャチを加えたミックス・プレート軍団はカイマナビーチにバーベキューに出かけた。特大フランクとスペアリブがこんがり焼けて、周囲には抜群の香りを発散する。今日は単純にサーフィンで空腹、美味しい食べ物、嬉しい、啓一最高、恋の夜明け、という理論展開だ。

集団ストーカー達が沖を眺めれば、この前とは違う鮮やかな蛍光ブルーのラッシュガードで海に入っているジェーンをすぐに見つけた。

「行けケイイチ、海の上で声をかけろ、バーベキューに誘い込め、女はそれを待っている」

「そして、男は女に当たって砕けろだ!」

などと頼もしいというか、無責任というか、二人は啓一を応援してくれる姿勢は嬉しいが、どうにもこの二人は既にほろ酔い気分であった。ハワイでは公園やビーチではアルコール禁止。ゆえに啓一の一世一代の勝負の為には勢いつけねば!と、カパラとチャチは朝からビールを啓一の部屋でガバガバあおっていた。出発時間にみんなが顔を揃えた時はもう二人はもうほろ酔い気分、ケイトは飽きれてカパラ達を怒る気力も失っていた。

「ケイイチ、ゴー、ゴー」

「カッコ良いとこ見せてやれ!」

ついにチャチとカパラに押し切られた啓一はボードを沖に漕ぎ出した。沖に目を向ければ良い波がサーファー達を乗せてうねっていた。その中でも青いラッシュガードの少女は今日も輝いていた。

ポイントまでは十五分ほどかかった。啓一の腕はパンパンだ。波間に揺れて一息つくと、三十メートル先にジェーンを発見した。あと一息と、ゆっくりジェーンに近づいた。


波を待つサーファーはある一定の方向を見つめてボードの上に座って静かに浮いている。この時静かに浮いているように見えるが実は脚はアヒルの水かき同様にパタパタやって微妙にバランスを取っている。何気なくパドリングして、カパラに言われた通りに沖側をパドリングしてジェーンの目の前に回りこむ・・・あくまでも何気なく、大事なのはゆとり表情。二十メートル、十メートル、

「も、もうすぐだ」

啓一は気合を入れ直した。

目が合った。啓一を見つけて驚くもニッコリ余裕の笑顔のジェーンがいた。あくまでも、偶然を装い、ゆとり、爽やかな笑顔で挨拶を交わそうとした時、海の神様も罪な奴だった。

いやはや、最高の波が来た。しかし、不幸にも啓一にとってはいささか大き過ぎる波だった。

啓一は情けなくバランスを失い撃沈した。波に激しく揉まれて海面に瀕死の状態で浮き上がった時、はるか遠くをジェーンは三回目のカットバックを決めて、大きな波を巧みに掴んで優雅にライディングを続けていた。一方、啓一は塩水を飲み過ぎ咳が止まらず。肩を落とし、自分を遠く離れた陸地から能天気に眺めているであろうの五人組を思い、深く溜息をついた。

その後、みんなで食べたスペアリブの味はやけに苦かった。カパラもチャチもすっかり正気を取り戻し、啓一を気遣う。が、一同の結論は寂しいかな「サーフィンでナンパはまだ早い」だった。



一連の作戦失敗で相当落ち込むであろうと周囲の予想に反し、啓一は明るさを放出していた。「恥ずかしさ」というものが消滅し、いちいち細かいことを気にしていては何も始まらないことに気がついたのだった。

これはハワイの気候がなせる業か、周りの激励の賜物か。ヨシダの爺様が口を酸っぱくして言う「ゴー・フォー・ブローク」、つまり「当たって砕けろ」に洗脳されたのか。根性は座り、男への変貌の一歩を示そうとしていた。

沖縄ネタはもう尽きた。サーフィンネタもやばかろう。映画にも誘った・・・ごめん先週それ、もう観たわと言われた。ブラッディの船にも誘ってみた・・・私、船ダメなのと言われた。ここまで来れば、啓一の恋路に怖いもの無し。

三人娘が立てた最終作戦は、「説得」だった。幸運にも十月二十八日がやってくる。啓一の誕生日だ。アパート総動員の説得パーティの仕掛け作りに着手した。クラスの仲間を根こそぎ誘った。巨漢ジャスミンを女子の幹事に仕立てたのは正解だった。クラスの男はほとんど、ジェーンを含めたクラスの半分以上の女の子も来ることになった。



パーティは、ブラディの持ってきたロブスターにマヒマヒ、山村家からちらし寿司、ケイトがたっぷりタレに漬け込んだコリアンビーフ。アパート上げての大判振る舞いだ。

ケイト、キャシー、チェルシーを啓一は誇らしげにみんなに紹介すると、

「あっ!最近、日曜日にカイマナビーチにいますよね。カッコ良いなぁと思ってたんです」

特にジェーンが、狙い通りに反応した。それもそうだろう、毎週、彼女達はジェーンを付け狙っていたのだから、と啓一は溜息をついた。ビーチで啓一の存在は希薄であっても、素敵な御姐様方はしっかり印象に残っていたということだった。憧れお姉さまオーラを放出するオリエンタル・チャーリーズ・エンジェルがパーティの主役の華となるも、一応、主役の啓一を中心にパーティはまわる。男女の組みに分かれてのジェスチャーゲームに大笑い。もちろんカパラのウクレレは、その場を大いに盛り上げる。ウクレレカラオケ合戦で啓一の歌ったサザンの「愛しのエリー」は大うけだった。チェルシーとアンがフラダンスを始めれば、女の子達はみんな流暢に加わった。ヨシダの爺様の詩吟に皆が目を丸くし、山村さんの手品には嬌声が飛んだ。


とっても楽しいパーティだった。みんなが帰った後、残り物整理を兼ねた遅めの夕食、焦げた野菜を突っつきながらケイトが言った。

「そう、そう、いい知らせ。ケイイチ」

「なに?また、ろくでもない話じゃないの?」

「違うって。ほら、いつも一緒にサーフィンしてる男の子いるっしょ、兄貴だってよ」

チェルシーが、

「よかったじゃん、兄貴ならさ。ま、ひと安心ね、ケイイチ」

啓一、照れを隠してチェルシーから目線外すも嬉しい気持。キャシーが思い出したように言う、

「ケイイチと付き合ってくれって頼んでおいたよ!」

啓一赤面。

「ななななんてことを・・・・」

大胆な直球勝負と啓一がビビれば、ケイトが、

「でも条件付きだけどね」

「え、どんな?」

「今度、ケイイチはホノルル・マラソンに出るからって。で、彼が五時間以内でマラソンを完走したらデートしてあげてってね」

アパートの住民一同が啓一に視線を投げかける。

「ケイイチ、ちゃんと頑張れよ。ガールフレンドとの初デートもかかってんだからな。」

カパラの言葉にみんな大笑いだった。

笑えぬは本人だけで、啓一は突然立ち上がり部屋に戻り、ドアを乱暴に開け、あわててビーチサンダルからジョギング用のナイキに履き替えてカピオラニ公園目指して飛び出した。

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