ドグマ44「冥界に降るピアノの旋律」
『 』
天上からピアノの音が流れ出して、光の狭間から一羽の鳩が舞い降りてくる。
白い鳩は、ゆっくりと頭上の光を切り分けながら羽根をひらめかせつつ降りてきて、自分のちょうど目線の高さの、粉砕された石段の金具に止まる。
Soldier.
思わず呟いた言葉は、誰の意志だっただろう。
前方の光の中心にゆっくりと手をのばすと、指先で青白い魔洸炉の光が分かれていき、まばたきの力さえ失われた自分の前に、暗闇と閃光の陰影がデルタを描く。
それはオーロラのように流れて、直後、衝撃が頭蓋を撃ち抜いた。
『 』『 』『 』
絶叫が分裂していき、七重のイメージが炸裂する。
それが七つ目の弾丸なのだと気づいたのは、長い、とても長い時間がたってからのことで――その瞬間、自分は自分の未来の光景を目にした気がした。すべての終わりをみた気がした。始まりを手にした気がした。
視界が、白く染まった。
時間が巻き戻って、リアルタイムで計測される情景が、どっと流れこむ。
天上からこぼれてくる、幾条にも幾条にも割かれた蒼白い魔洸炉の火。
白。橙。緑。黄。赤。紫。藍。灰。それが虹色の衝撃に点滅する。
轟然と撒き散らされる光に、色がぬけるほど輝く白銀の髪が、
少女の髪にボタボタとこぼれていく斑状の黒い染みが、
自分の胸から矢のようにのびていく漆黒の闇が、
顔の周りでぱちぱちと弾ける緋色の液体が、
白い鳩の足に巻かれた新しい手紙が、
真紅色のストッキングが、
黒いセーラー服が、黒い瞳が、黒い銃が、あかい唇が、回転しながら流れていき、一種後には衝撃に世界がブレた。遅れて音が聞こえた。自分が倒れたのだと気づいた。
目をあけたときには再び天上を見上げていた。
自分は撃たれたのだ、ともう一度思った。
これで終わりだ、と思った。
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