第7話オークのアジトで出会った彼女

 翌日、太陽が丁度てっぺんに差し掛かろうかというころ、僕たちは、オーク達のアジトの近くまで来ていた。付近は獣道になっていて、森の中は不気味なほど静かだった。

 森が深くなっているせいか、僕たちのところまで樹木に遮られ、陽光はほとんど届いていない。見上げても木々の葉っぱが見えるだけで、その向こうにあるはずの空はほとんど見えない。

 森の中は同じような風景が続いたが、今僕たちの目の前には崖を削って作られたような大きな洞窟があった。おそらくあそこがオークのアジトなのだろう。

「さて、あそこがアジトっぽいけど、どうするよ?」

 ニールがその洞窟を指差した。

「なんかちょっと嫌な空気だね。なんか濁ってる。と言うか、う~ん表現しづらいんだけど」

 僕は中の様子を窺うようにしてその穴をのぞき込んだ。

「そうだな。だからこそオーク達が惹かれて、こんなところに集まったのかもしれない」

 ニールが腕を組んで僕の言葉に同意を示す。

「でも、村の人達のためにここで、やっつけなきゃだよね!」

 ナナが気合いを入れるような胸の前で拳をぎゅっと握りしめて、洞窟に突入しようとした。そんな考えなしのナナの行動に、さすがに僕は彼女の腕を掴みんで制止させる。

「待って! 待って! なんか様子がおかしい。普通こういうとこって、見張りとかいるんじゃないの?」

「まあオークだし、そこまで頭が回らないんじゃないか。さて、ここまで来たわけだけど、ユウヤどうするつもりなんだ?」

 つまらなそうにニールがぼやく。

「まず、僕が様子を見てくるよ」

「まあ、その方がいいかもな。昨日みたいに油断すんなよ」

「ユウヤ、大丈夫?」

「うん。僕の帰りが遅かったら助けに来てね。オーク相手に、後れは取らないと思うけど」

「どの口が言うんだか……」

 ニールが鼻で笑って肩を竦めた。

 言い返してやりたいけど、後れを取った事実は僕の心の中にもはっきりと残っているので言い返せるはずもない。

 突入前に昨日と同じようにまずは自分の身体に「身体強化クイック」の魔法をかけておく。

 今日は洞窟に入ってからここに戻ってくるまで、一瞬たりとも気を抜いたりはしない。

 それに洞窟の中は敵の本拠地であり、そんなところで油断できるほど僕は大物じゃない。

「じゃあ、行ってくるよ。この辺にも潜んでいるかも知れないから、油断しないでね」

 ナナの心配そうな視線を背に受けながら、僕は洞窟へと足を踏み入れた。

 洞窟の中は、所々に燭台があるおかげで視界に不自由はなかった。もしかしたら昔は山賊とかがアジトとして利用していたのかもしれない。

 分かれ道などもなく、僕は道に沿ってまっすぐ進んでいると、やがて開けた広場のような空間に出た。

 気を張って慎重に進んでいたが、これまでの道のりでオーク達とすれ違うことすらなかった。

 そこには、十体ほどのオークの屍が転がっていた。

 何が起きているんだろう? そんな不安を抱きながら広場の中央に目を向けると、女の子が燦然と佇んでいた。

 黒のロングヘアを腰のあたりまで伸ばしていて、背は僕と同じくらい。その横顔を見る限り、年齢も僕とさほど変わらないように見えた。その横顔がゾッとしてしまうほど美しいと同時に、男の僕が憧れてしまうほど凜々しくて、一瞬だけ目を奪われていた。

 半袖のシャツにベストのような上着。そして、丈の短いズボンを着用している。

 おそらく転がっている死体も彼女が作りだしたものだろう。

 彼女は両手にグローブを嵌めており、グローブの拳の部分には銀色の刃のようなものが付いていた。その刃の部分でここに転がっているオークの命を葬ってきたのだろう。

 ほっそりとした女の子の四肢、すらっとした手足の持ち主の彼女は、とてもじゃないがこれだけのオークを相手にしている人間には見えない。

 とはいえ、大半は彼女の手によって倒されてしまったようだが、オークたちまだまだ残っていて、彼女はオークの集団に囲まれてしまっていた。彼女は目の前のオークに集中していて、僕が広場の入り口に立っていることには気付いていないようだった。

 助けを求められていないとしても、あの状況は間違いなく危険だということがわかる。見ず知らずの女の子とはいえ、こうして立ち会ってしまった以上見殺しになんてできるわけがない。

 助太刀に入ろうとした瞬間、彼女の後ろに回っていたオークが彼女に襲いかかった。しかし彼女は前方に気を取られていて後方のオークに注意が向いていない。

「やばい! 急がないと」

 オークと彼女の間に割り込もうと、力の限り思い切り大地を蹴りあげた。クイックの効果もあり、彼女の後ろにいたオークまで一瞬で詰め寄って、斬りかかる。

 僕の刃に斬りつけられたオークは、彼女に斬りかかることができずに地面伏した。

「間に合った。大丈夫?」

 いきなり現れた人間に彼女は驚いたように、目を白黒とさせていたが、前方からオークが襲いかかってくるのを確認して気を引き締めてオークに向き直る。

「助かった。一応礼は言っておくわ」

「いやいや、問題ないよ。それよりどういう状況?」

 お互いに背中を預けて、向かってくるオークを二人でなぎ倒しながら、彼女と会話を続ける。

 女の子の方を見ると、遠くからは見えなかったが剥き出しになっている膝や肘から血が出ていた。これだけのオークを相手にしているのだ。無傷なはずがない。

「最近のオークの過激な行動をどうにかするために、あたしはガウルの町で依頼を受けてここにきたの。だけど思いのほかオークの数が多すぎてね……。あなたの前方に見えるオークの群れ、あの奥に一回り大きいオークがいるでしょ。あれが奴らのボスみたいよ」

 会話の間にも、向かってくるオークを引き付けて屍へと変えてやる。

 間違いなく初対面なのに、彼女に背中を預けるということになんの違和感も覚えないし、驚くほど息のあった連携が取れていた。

「ってことは、あいつを倒してしまえば、大人しくなるかもしれない?」

「そういうことになるわね。でも、数が多すぎて、あたしじゃあそこまで辿り着けない。何かいい手はないかしら?」

「そういうことなら。僕にお任せあれ」

「大丈夫なの?」

「へーきへーき。僕の魔法は自分のスピードを上げる魔法。オークをスピードで手玉に取ってあげるよ」

「えっ!? スピードを上げる?」

 女の子の驚いている声を尻目に、もう一度「身体強化クイック」の魔法をかけなおす。

「さて、いこうか!」

 宣言と同時に、一気に地面を蹴りあげる。さっきまで感じていた彼女の温かい背中が遠ざかるにつれて、オークのボスに近づいていく。

 オークの群れはボスを守るように僕に攻撃をしかけてくるが、なにぶんヤツらの行動は遅すぎる。僕が通り過ぎた虚空に向かって攻撃するばかりだった。

 間もなくして、後ろの方で高みの見物をしていたボスの手前までたどり着いた。

 僕はそのままの勢いで、ボスに向けてブロードソードを突き出した。ボスも抵抗を試みているようだったが、所詮はオークだ。僕の動きについてこれるはずもなく、胸に刃が突き刺さった。

 結局、勝負は一瞬だった。ボスは小さくうめき声を上げて、その場に倒れ込んだ。

 ボスがやられたのを見ると、下っ端たちは自分達が何をすればいいのか分からない、といった感じで、キョロキョロと周りを見ながらその場に立ち尽くしていた。

 やがて生き残った彼らは恐怖に駆られるように、洞窟のさらに奥に一目散に逃げていった。

「ふう、とりあえずこれでオッケーかな」

 僕はヤツらを追うことはせずに女の子へと近づいた。

 女の子は僕を見ると、天井に向けて腕を大きく上げ人差し指を立てた。

 女の子の動きに釣られて、天井に何かあるのかと見上げてみるが、その指の先には洞窟の天井が広がっているだけでそれ以外に何もなかった。

「……?」

 僕が疑問符を浮かべた顔をしていると、女の子は腕を下ろして下を向いた。

「これで一件落着かな。ところでえーっと……」

 なんとなく気まずい感じになってしまった気がして、僕は慌てて言葉を紡いだ。

 僕の言葉に女の子は顔を上げて僕を睨んだ。もしかしたら睨んでいるつもりはないのかもしれないけど、彼女の切れ長の目つきが、どうしてもするどくて見えてしまう。

 あらためて正面から見ると、とても綺麗な顔立ちをしている女の子だった。

 ナナとは雰囲気が正反対なほど異なっていて、ナナが可愛い系の女の子ならば、目の前の少女はそれとはまったくタイプの違う、美しいという表現がぴったりと当てはまる。

 それでも若干の幼さというか、あどけなさを残した容姿は、美人というよりも美少女と形容するほうがしっくりくる気がする。

 シュッとした輪郭に、理知的な切れ長の瞳からはオークのアジトに単身で飛び込むほどの気の強さを感じる取れるし、形のいい唇からはなんというか色気みたいなものを感じる。

 それからシャツの下に隠れている二つの膨らみは、衣服の上からでもわかるくらい突き出していた。全体的にほっそりとしている感じなのにその部分だけは、なんだか異次元といった感じだ。

 顔の一つひとつ、身体の一つひとつのパーツが整いすぎているくらいに整っている女の子だった。

「僕はユウヤ」

「そっか……」

 ユウヤが自己紹介すると、女の子はなにか納得したように一言呟く。

「あたしの名前はアスカ」

 アスカはどこか寂しそうな口調で答えた。

「あなたはこんなところで何をしているの?」

「まあ色々あってね。その辺の事情は後で説明するよ。奥に逃げ込んだヤツらはどうする?」

「オークって、本来は攻撃的な性格じゃないらしいの。親玉のオークだけなんだか毛並みが違ったでしょ。あいつがこのあたりに来てから、オーク全体がおかしくなったらしいの」

「なるほどねえ。オークたちも体のでかいオークを見て、気がでかくなっちゃっただけなのかな。それじゃあ追いかける必要はないかな」

 そんなこんなで、山のように積み上がったオークの死体を超えて、僕たちは広い空間を後にしたのだった。

 帰り道、洞窟を歩いているうちにアスカとはかなり打ち解けることができていた。

 人見知りをする方ではないけれど、こんな風に初対面の人と打ち解けられるほど、対人スキルが豊富なわけでもない。

 なんだかとても不思議なことなんだけれど、アスカとは何やら他人の気がしないのだった。

 あれ? この感覚どっかで味わったことがあるような、だけどどうしても思い出せない。

「なんか。アスカとは初めて会った気がしないなあ。もしかしたら、前にどっかで会ったりしてない?」

 素直にそのことを口にしてみた。

 もしかしたら僕が記憶を失う前に会ってるんじゃないか、なんて期待も多少は込めつつ。

「ナンパのセリフとしては三流ね。けれどそういうことにしておいてもいいわ」

 アスカは目を細めて、明後日の方向を見つめて答えた。僕も彼女の視線の先を見つめてみたが、その視線の先には何もなかった。

 少しの間地面と靴が擦れる音だけが響き、何かを思い出したようにアスカが口を開く。

「そういえば、あなたも旅をしてるって言ってたわよね? あなたは何のために旅をしてるのかしら?」

「ちょっとしたおつかいかな」

「おつかいねえ……。ひょっとして世界を救う壮大なおつかいかしら?」

 何か話がかみ合っていない。だけどその質問をしたアスカは真面目な表情をしていて、僕はどう答えるべきか少し迷ってから言葉を返した。

「何をどう勘違いしたら、おつかいが世界を救うことに繋がるのかはわからないけれど……。そもそも今は平和だよ。最近は王都で悪魔騒動なんて物騒な事件があるけどね。それだって、世界を揺るがす大きな事件とは思えない。もしかしたら、僕が田舎者すぎて世界の情勢がわかってないとか、馬鹿にしてる?」

「まあ、馬鹿にはしているわ。それは置いといて。もし世界が今危機に面していて、あなたが世界を救う勇者だと言われて信じる?」

 僕の事を馬鹿にしてるのかよ……、きっぱり言う人だなあ。

 雰囲気は大人っぽい感じを漂わせているが、そういう勇者が出てくるような子どもっぽい話が好きなのかもしれない。僕も十八歳にも成ってそういう話が大好きだから、人のことは言えないけどさ。

「信じない」

 もちろん憧れはある。けれど十八年間も生きていたら、自分の力の限界というものもわかってくる。まあ僕の記憶は五年分しかないんだけどさ……。

 ふとした時に自分は何者でもなくて、ただの田舎育ちの凡人に過ぎないんだって実感するんだ。

「じゃあ、あたしが勇者だというのは?」

「それも信じない」

 きっぱりと言ってやった。

 僕の憧れである勇者たるもの、オークの巣穴に単身で乗り込んで、無傷で累々たる屍を築き上げるくらいのことはやって欲しい。

 確かにあれだけのオーク相手に渡り歩いていたアスカがすごいというのは認めるけど、最後は苦戦しているアスカに僕が手助けをした。そう考えると、やっぱりアスカが勇者というのも自分の中では納得がいかない。

「勇者といえば、世界の危機に面したときに現れて、世界を恐怖に陥れる魔王をやっつける存在だ。昔々には魔王が現れていた時代もあったらしいけど、この辺で魔物といえばオークくらいしかいないしね。それに魔王が復活してたら、魔物が活性化だろうし、やっぱり世界が危機なんてのはちょっと想像しづらいよ」

「まあ冗談よ。忘れてちょうだい。仲間を待たせてるんでしょ。こんな辛気くさいところ、さっさと出ましょう」

 アスカはそう告げると、歩く足を速めて洞窟の出口へと向かった。

 勇者。その響きは甘美なるものだ。

 昔、魔王を封印した勇者の話を聞いた時、自分もあんな風になりたいと純粋に憧れた。

 僕の喪失した記憶には勇者としての記憶があるんじゃないかと妄想したこともある。そんな妄想をして、記憶を取り戻した僕が世界を救う。といった物語を頭の中で書きあげ、胸を躍らせたこともあった。

 アスカに世界を救う勇者と言われたとき、最初にそのことが頭をよぎった。

「そうそう、一つ教えておきたい事があるんだけど、いいかしら?」

 そう言うと、アスカはその場に立ち止まった。

「ん? 何?」

 僕の言葉に答えることもなく、アスカは擦り剥いていた右ひざに手を当てる。すると、みるみるうちに傷が治っていく。

「え? なにそれ?」

 僕は驚きに目を見開いて、彼女の膝小僧を凝視した。その膝はつい数秒前まで、擦りむけて血が流れていたはずなのに、綺麗に修復されていた。

「これが、あたしの魔法。自分の怪我を治療することができるの。魔力を送り込み、その魔力を使って、体を治癒するもの。あたしは治癒魔法ヒール、と呼んでるわ」

 なんという医者泣かせの魔法なのだろうか。

 魔法なんてのは、剣や弓等と同じで相手の命を奪う手段でしかないはずなのだ。そんな魔法の中で、傷を回復して命を救うという魔法は明らかに異質だと言えるだろう。

 とは言っても、僕の魔法も人のことは言えないくらい特殊なんだけどさ……。

 大抵の人間は自分の得意な属性の魔法というものが割り振られ、その属性の魔法のみが使えるようになる。ナナだと火、ニールは雷。

 そしてアスカの魔法は傷を回復させる魔法らしい。

 目の前で実際に見せられた以上、そんな魔法が存在することも信用するしかない。

「なんで、おかしなそんな魔法使えるの?」

「それは秘密。あなたの魔法だって十分変よ。自分の事を棚に上げて、相手を非難するのはどうかと思うわ」

 まあアスカからしてみれば僕の魔法の方が特殊なわけで、そう考えるとお互いにどっちもどっちなのかなって気はする。

「べ、べつに、非難してるわけじゃないよ」

「だったら、いいのだけれども……それと、一つお願いしていい? この魔法。あたしは治癒魔術が使えるってことは、黙っておいて欲しいの? 勿論、あなたの仲間にもよ」

「どうして?」

「色々と珍しい魔法でしょう。それに治癒が出来るってなると、傷ができてもすぐに回復してしまうわけだから、命を軽く考えがちになりそうだしね」

「そういうことならいいけどさ。なんで僕に話してくれたの?」

「なんとなくよ。助けてくれたお礼ってことでもいいわ。秘密にするって約束さえ守ってくれれば、いざとなった時に助けてあげるわよ」

「それはありがとう。でも、あんまり無茶しないように心掛けるよ」

 そう言うと、アスカは嬉しそうに口元を綻ばせた。

 その顔を見た瞬間、なぜか切なそうな表情をしている彼女が浮かんで、心の奥にちくりとしたものが刺さった気がした。

 洞窟の外に出ると、少し視界が明るくなったが、森の奥にいるので太陽の光はあまり届いていない。洞窟の前では、洞窟に入った時と同じように近くの木により掛かって二人が待っていた。

「おーい。戻ってきたよ」

 手を振って二人に呼びかける。

「ユウヤ。おかえりなさいっ! どうだった?」

 ナナが僕らの姿を確認すると、駆け寄ってくる。

「無事退治してきたよ。怪我もなかったしね」

「おお、おかえり。思ったより早かったな。ところで、そちらの綺麗な方は?」

 ニールは顎に手を当てて、アスカのことをまじまじと見つめている。

「こいつは――」

「あたしは、アスカって言います。ちなみに洞窟の中のオークはほとんどあたしが倒しました」

 紹介しようとする僕を制して、アスカが一歩前に踏み出してくる。なんだか僕と話していた時より、口調が軟らかい気がするのは気のせいではないだろう。

 まあ僕なんかより、ニールの方がかっこいいし、魅力的だしね。しょうがないよね。なんて自分に対する慰めの言葉を呟く僕。ちょっとむなしい。

「へえ。すごいな。俺はニール。そしてこっちがナナ」

「よろしくねっ!」

「中には結構な数のオークがいたろうに。少なくても十匹以上は――」

 ニールはちらっと僕の方に一瞬目を向けた。どうせ、僕は十匹倒すのに手間取る男だよ……。

「しかも、体に傷一つない。かなりのやり手だな」

 ニールが彼女の身体を観察しつつ、感嘆の声を上げる。

 実際は、アスカは自分に治癒魔術をかけただけで、さっきまでは身体中にオークの爪痕が残されていたのだが、道中で治癒したおかげで傷はすべて塞がっている。

 彼女が無傷であることには、そんな裏話があるのだが、アスカに口止めされているので種明かしはしないでおく。

 お互いに挨拶を済ませたところで、僕たちは改めてガウルへと出発しようとすることになった。アスカもガウルに向かうみたいでそこまで一緒に行くことになった。

 アスカが僕に近づいて来て、前を行く二人に聞こえないように小声で囁いた。

「ところで、あなた。随分楽しそうに旅をしているじゃない。ナナちゃん、随分可愛らしい子ね」

 とても小さな声量に込められた、言いしれぬ迫力に思わず鳥肌が立った。

 なんで、急にナナの話が出てくるんだよ。なんてことを思ったが、これ以上深入りして話を続けるとややこしいことになる気がしたため、話題を変えることにした。

「と、とりあえずさっさと町に向かわないと……」

 アスカをなだめて、街へと出発する。

 こうして僕たちは新たに一人の仲間を迎え、辛気くさい森の中を進むのであった。

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