第4話襲いかかるオークたち
そうして僕ら三人は村の外へと旅立った。
ダリアの村の周辺は森に囲まれていて、石畳を敷き詰めて作られる人工の道、というのは存在しない。木と木の間、人が通れる場所が自然と道になる。しかもその幅は馬車一台が通れるくらいしかしない。
樹木が並ぶ隙間を縫うようにして陽光が差し込んでいる。
僕が五年ほど暮らしていたダリアという村はとても小さな村で、人口が百人ほどしかいない。一方でこれから僕たちが向かう王都ガーデルにはその一万倍の百万人程暮らしていると言われている。
はっきり言ってどんな規模の街なのか想像もつかない。
そんな田舎者が王都に行って、周囲から浮いたりしないだろうか、それが少し心配だった。
「相変わらずこの辺は道がせまいな。馬車がすれ違ったりする時はどうしてんだ?」
ニールが辺りを見回しながら訪ねてくる。
「そんな心配は無用だよ。こんなへんぴな村に馬車を引いてくるもの好きなんて、一日に一人いるかいないかだよ。最近は、オークの盗賊団とか出てるし、お得意さんくらいしか来ないからね」
「なるほどな。でも、その分村に着けば、都会では大した価値がないものでも、その価値がわからない村の人は買う。だから商人は多少無理してでも村まで来る。でもそんな商人はあんまりいないし、自給自足が基本の我が村では一部の人以外は商人を必要としない。う~ん、商人が命をかけるに値するかは微妙なところだな」
「それに人間は本当に危機が迫らないと行動しないから、ガウルまでの道を整えようとしないだよね。最近は僕が前もって、ガウルまで行って商人を迎えに行ったりもするけど……」
「ふーん。なんかよくわかんないけど、この辺は危険だよってこと?」
ナナが感心したように頷きながら、僕とニールの会話に入ってくる。
「まあ、そんなとこだよ。だから戦う準備だけは怠らないで。オーク達は頭が弱い分、力が強い。隙を突かれたら、僕らは不利だ……。っと、どうやらさっそく奴らが来たみたいだ」
木々の間から隠す気のない敵意がはっきりと自分たちに向けられている。
彼らがもう少し賢い生物だったら、敵意を隠してこっそり襲ってくるものだ。が、オークの力にそんな知能が備わってしまったらやっかい極まりないので、そんなことにならないことを切に望む。
「オークの奴らだよ。戦闘準備して」
腰に差してある剣の柄に手を当てて、敵意の方向をしっかりと見据える。
「おいおいユウヤ、随分仕切るようになったじゃねえか」
「よし。私、今までの練習の成果見せちゃうよ」
向こうの出方を探ろうと待っていると、ナナが小声で僕に聞いてくる。
「ねえ、どこに敵がいるの?」
「木の陰に五人ほど隠れてる。木の上にも一人いる」
僕はそちらに視線を向けて、ナナに敵の居場所を教える。
「わかった」
そう告げると、ナナはいきなり手を伸ばし掌を敵の居場所に向けた。
「私の炎よ。悪人を真っ黒焦げにしちゃえ! ファイア!」
ナナは掌から炎の玉を生み出し、それが敵の位置へとまっすぐに向かっていき、破裂音ととも小規模の爆発が起きる。敵も不意を突かれたのか、まともに食らってしまったようだった。
炎の消えた跡を確認してみると、そこには豚の丸焼が完成していた。
脳の回転が遅いオークたちはしばらく呆然として、その場から動かずにいたが、どうやらナナの一撃を僕達の攻撃を宣戦布告と判断したらしく、オークたちは一斉に飛び出してきた。
「グオオオオオオオオ!」
オークの一匹が僕らに向かって吠えた。僕とニールが相手の襲撃に備えて身構えていると、ナナが一歩前に踏み出し、次の一撃に備え呪文を唱えている。
「おい、ナナ! あんまり前に出すぎないで!」
僕がナナに向かって注意するが、さっきの一撃で気分がよくなっているナナは、
「大丈夫、大丈夫。私にまかせて!」
「ナナは実戦が初めてだから、ちょっと興奮してるっぽい。ユウヤ! 俺らはフォローに回るぞ」
「わかった。ナナ! 外した時はこっちでなんとかするから、思いっきりやって」
僕の声に、ナナは了解と弾んだ声で返事をする。
その瞬間、ナナの掌から二つの炎の球が出現し、
「やっちゃえ!」
そんな弾んだ声とともに、火球がオークへ向かっていく。二発ともオークに直撃し、直撃を食らった二匹はその場に倒れた。ナナは間髪いれずに残り二匹を撃退するため、さらに二つの火の玉をオークに投げつける。
一匹はこれまでと同様に命中し倒れるが、残り一匹に避けられてしまった。
激高したオークは突進するようにまっすぐにナナめがけて走り出した。僕はナナのフォローに向かうためオークとナナの間に割って入ろうとしたが、その時にはもう決着がついていた。
「遅いぜ!」
ニールが向けたその言葉は、フォローが遅い僕に向けられた言葉なのか、オークに向けられた言葉なのかはわからない。
気づいたときには、ニールの剣によって真っ二つになったオークの死体が転がっていた。
初めての戦闘を無事に終えたナナは緊張から解放され、ほっと一息ついていた。最後は仕留め損なったとはいえ、初めての実践であそこまで力を発揮できるのは実際たいしたもんだと思う。
僕なんて初めてオークと対峙したときなんか……。
思い出すと悲しくなるからやめておこう。
「さて、行こうか。ガウルまではまだかかるからな」
事もなげにニールが告げる。
こうして初めての戦闘が無事に終了し、僕達はガウルに向かって歩きだしたのだった。
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