第三話 「勇者様というのはどうして――」

 獣耳女盗賊は不満そうな顔をして、話を続けた。


「……カメルーン出身のカメラおたくは駄目なの? なんか不味まずかった?」

「いや、あの、その、というよりお前、なんでヤンキーにそんなに詳しいんだよ。この世界にはいないだろ」

「あれ、前に言わなかったっけ。私も転生者だよ。で、なんでカメルーン出身のカメラおたくは駄目なの? ねえ、なんで?」

 獣耳女盗賊は納得がいかないという顔で、俺を問い詰める。

 ――こいつ、正直不平不満が多くて、うざい。

 俺は溜息をついた。

 ――尻尾とてのひらの肉球がなかったら、迷宮で置き去りにするところなんだがな。

 そこで、美少女剣士が急に口をはさんだ。


「ところで、勇者様というのはどうして皆『カズマ』という名前なのだ?」


 どうして、なぜこのタイミングで、そんなどうでも良いことを俺に聞くのか分からない。というか、一歩間違えると敵を大量に作りかねない、大変に危険な発言である。

 しかし、獣耳女盗賊の問いをかわすためには、背に腹は代えられない。俺は美少女剣士の「場の空気を読まない発言」に全力で食いついた。

「いや、そんなことはない! 他の名前の勇者もいるだろ!?」

「そうなのか? いや、私にはなんとなく駄目勇者イコール『カズマ』という図式があるように思うのだが」

「そんな法則はないの! しかも何気に駄目勇者とか――」

 そこで俺の言葉にかぶさるように、幼女魔法使いが目を輝かせて話に加わった。

「あぁ、あるよねぇ。執事と言えばセバスチャン、みたいなぁ」

「ギルドの団長と言えば、何とかフォードか、何とかバードだな」

「別にぃ、セバスチャンという名前の団長がぁ、いてもいいのにねぇ。そもそもぉ、魔剣には固有名詞がついているのにぃ、私たちの名前がぁ、全然出てこないのはどういうことですかねぇ」

「それは良いではないか。私としては、いきなりエリザベスとか、あきらかに世界観がおかしい名前で呼ばれるよりも有り難い。転生者でもない異世界地元民の名前が『マリア』だと、頭がどうかしているんじゃないかと思う。だからといって、異世界風に『ミステラニュイン』などという、変に複雑すぎて趣味の悪い名前の場合もあるではないか?」

 そこで、さらに獣耳女盗賊が話に割り込む。

「あははぁ、そうだよねぇ」


 瞬間、場がこおりついた。


「駄目ですよ、人の口調を真似しては」

 幼女魔法使いが真面目な口調で注意する。

「どうせ適当な物語だし、詳細なキャラ設定と名前をいちいち考えるのが面倒だから放置しているけど、発言者を区別できないと分かり辛いから、仕方なく登場人物毎に微妙に口調を変えているんじゃないですか。それを真似したら分からなくなりますよね。だからこそ、私は本当は嫌なのですが、わざわざ語尾に小文字入れているわけですよね。その、私の努力が台無しになるとは思いませんか。ねえ、そうですよね。年長者が無理をして頑張っているところなのに、それを後ろから指摘して台無しにするようなものですよね。違いますか――」

 鬼の形相になった幼女魔法使いは、涙目になった獣耳の女盗賊を、そのあと小一時間ほど言葉攻めにしそうな勢いで怒り出す。

 しかしそこで、メイド忍者が口を開いた。

「あのちょっとよろしいでしょうかわたしもなんだかおかしいなとおもってはいたのですがなかなかごしゅじんさまにおはなしするひまもなく――」

 俺は止めた。

「あ、君はいいから。話が混乱するから、その通常よりフォントサイズが小さそうな声で話すのはやめてくれ」

 メイド忍者は涙目になってうなづく。

 そこで俺は別なことに気がついた。

 ――あ、だからか。

 ヤンデレ爆乳魔女が全く聞こえない声で呟いているのは、人数が多すぎて書き分けが難しいせいではなかろうか。


 メイド忍者のおかげで幼女魔法使いのつっこみがとぎれたので、獣耳女盗賊はここぞとばかりに話を切り替える。

「それにさあ、迷宮探索に露出の多い服って、これもなんだかおかしくない?」

「魔法使いわぁ、仕方がないんだけどねぇ。力の源泉を集めるためにぃ、出来る限り自然の中に素肌を晒さないとぉ――」

「だから、その設定自体がおかしくない? どうして全身で皮膚呼吸みたいなことをやっているの? それに、だったら全裸でいいんじゃないの。駄目なの?」

「それはぁ……全裸のほうがぁ都合がいいんだけどぉ……魔法使いの掟でぇ……」

「ほら、それ。なんで無茶な理屈で後付した服装設定を、さらに根拠のない掟で制限するかなあ。いいじゃん、いさぎよく『神は女の子の裸をお望みだ。しかし全裸はちょっと』とか、はなから割り切ってもさあ」

 むしろ攻守が交代した様子であるが、まあ、本来はこれが正しい役割分担であるから仕方あるまい。

 そんなことを俺が考えている傍から、獣耳女盗賊の話が変わった。


「ところで、カズマは三年前にこの世界に来たんだったよね。それなのになんで、大人で、異世界の言葉を流暢に話しているのよ? 『急成長』とか、そんな便利な能力の持ち主だったっけ?」

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