『首無の如き祟るもの』ネタバレありレビュー
「これは、とても面白かったですよ、
開店していた谷藤屋の出入り口をくぐって、僕は本棚の整理をしていた谷藤さんに声を掛けた。もちろん、読み終えたばかりの『
「そう言っていただけると信じていました」
本を並べる手を止めて、谷藤さんは笑顔とともに振り向いた。そのまま僕の前まで歩いてくる。谷藤さんが立ち止まるのを待ってから、僕は、
「面白かったというかですね、凄かったです。あの首無し死体のトリック。犯人はどうして死体を首無しにする必要があったのか。持ち去られた首が出てくるタイミングとその理由。一見、全く不可能で、猟奇的な脚色をつけるという以外に意味がないとしか思えない犯行が、最初の最初にまで遡って、ある欺瞞が解かれると、連鎖的に全てに合理的な説明がついてしまう。しかも、本格ミステリだから当然、それを暴くための手掛かりは抜かりなく提示されていた。お見事、としか言えませんでした」
「芸術的でさえありますよね。この作品が初登場したのは2007年と、比較的新しいのですが、まだこんなに凄いトリックがあったのかと、ミステリファンは、みんな驚きました」
「そういう観点から考えても凄いですね。それと、メインの正統派トリックだけでなく、この作品が過去の記録をもとに連載小説という形で書かれていた、という構成にも、ひとトリック仕掛けてありましたね」
「そこまでするか、という感じですよね」
「全体の構成も、ひとつひとつの謎や事件に強烈なインパクトがあって印象に残りやすいから、読んだ内容を忘れにくい。これだけ分量のある小説ですけれど、そうとは感じさせないくらいにすんなりと読み終えられましたね」
「読者の読みやすさに配慮されて書かれていることが分かりますね」
「あと、読む前に谷藤さんが言ってくれたことは、全くその通りでした。探偵役の
「そうなんです。犯人の『奴は何者なのだ……?』という語りですね。最後に犯人のもとを訪れて事件の謎を解いた人物は誰だったのか、本当に刀城だったのか、成長した
「ビジュアルも音声もない文章だから、僕たち読者も判断出来ない。叙述トリックの要素もありますね」
「こういった、全ての謎に合理的な説明がついたはずなのに、何かしこりが残るという幕の引き方は、ホラー作家でもある作者、
「そうなんですか。この『首無』では、ほとんど出番がなかったので、他の作品で刀城言耶のことをもっと知りたいですね」
「刀城言耶は、いいですよ。普段はちょっと頼りないですけれど、犯罪に対しては毅然とした態度を取って、謎解きの段になると見事な推理を披露する。普段は三枚目、いざというときには二枚目という、とても親しみの持てる探偵ですよ。このシリーズは陰惨で恐ろしい事件が多いので、彼のキャラクターが清涼剤になっているところがありますね。ひとつの癒し系ですね。話にメリハリがつくんですよ。作者がどう考えているかは分かりませんけれど、
「なるほど」
「刀城言耶と
「とうじょうげんや。えいじょうげん。そ、そうですね……」
「私、永城さんは、刀城言耶に雰囲気が似てるかなーって思うときありますよ」
「えっ? 本当ですか?」
「私、刀城言耶好きですよ」
「えっ?」
谷藤さんは、眩しいくらいの笑顔で僕の顔を見つめてきた。
「あ、ぼ、僕、用事があるので、それじゃあ……」
どうして店を出てしまうんだ、永城
「今さら戻ったら、かっこ悪い……」
度胸のない僕は、そのまま家路についてしまうのだった。
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