首切りトリック最高傑作『首無の如き祟るもの』三津田信三 著
『首無の如き祟るもの』プレビュー
「今日は私ですね、ちょっと
「ど、どういうことですか?」
開店していた
「今回、私がお勧めするミステリは……これです!」
「あ、厚い!」
谷藤さんが差し出してきたのは、目分量で厚さ二センチは優に超える文庫本だった。
「
~あらすじ~
奥多摩深くの山村、
「何だか骨太なミステリみたいですね……うわ、登場人物が多い!」
僕は谷藤さんから本を受け取って、冒頭に掲載されている〈主な登場人物〉を見て言った。上下二段で二ページにも跨っている。そんな僕の顔を見て、谷藤さんは、
「心配いりません。メインで出ずっぱりのキャラクターは数人程度なので、戸惑うことなく読み進められますよ」
「そ、そうですか……。人物表の他にも、村の略図もありますね。これはかなり本格的な作品ですね。あ、シリーズものなんですね。本の裏に〈「
「はい、この『首無の如き祟るもの』は、怪奇幻想作家、刀城言耶が探偵役を務めるシリーズの第三作目なんです」
「三作目ですか。一作目と二作目を飛ばして、いきなり三作目から読んでも大丈夫ですか?」
「その点も心配いりません。基本、刀城言耶シリーズは各作品ごとが独立していますので。旧作では容疑者だった人物が、後の作品でレギュラーで登場する、なんていうことはありませんから(※現在のところは)。それにですね、刀城言耶シリーズを未読の方は、まずこの『首無』から読むという手もありなんですよ」
「どういうことですか?」
「それはですね、本作では探偵役の刀城言耶が、なかなか登場しないからです。シリーズを読み進めて、探偵役に愛着を持ってしまうと、シリーズものなのに探偵が全然出て来ない、ってやきもきしてしまいますから」
「ああ、なるほど。まだ知らない探偵なら、出番が少なくても気にならないということですね。それにしても、この厚さといい、登場人物の多さといい、これは読むのに骨が折れそうですね。谷藤さんが僕に、頑張ってもらいたいって言っていたのは、こういうことだったんですね」
「はい。でも、頑張ってほしいというのは、読むこと自体ではなくて、読むきっかけを頑張って作ってほしい、という意味です。こんなおどろおどろしいタイトルですけれど、一旦読み始めれば、すんなりと入っていけますし、事件も割合すぐに起きますから、絶対に退屈はさせませんよ」
「そうですか、谷藤さんのお墨付きなら、間違いないですよね。では、これをお願いします」
「お買い上げ、ありがとうございます」
谷藤さんは僕から受け取った本をレジに持っていき、いつものようにカバーを掛けてくれる。
「谷藤さんって、カバー掛けるの上手ですよね」
「えっ? そうですか。ありがとうございます。カバー掛けは、書店員のたしなみですから」
「実はですね、この〈谷藤屋〉が開店する前も、ここは本屋だったんですよ。そこにもカバーを掛けるのが上手い店主がいて、あ、谷藤さんとは違って、凄いお爺さんだったんですけれど……」
「はい、永城さん」
僕が言い終える前に、谷藤さんは綺麗にカバーを掛けた本を差し出してきた。
「あ、ああ、はい」
僕は慌てて財布を取り出して会計を済ませる。
「感想、聞かせてもらえるのを楽しみに待っていますね」
「はい。それじゃあ……」
結局、前の本屋についての話は続けられないまま、僕は谷藤屋をあとにして家路についた。
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