君は耐えられるか?『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』 倉阪鬼一郎 著
『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』プレビュー
「
あっ、今日は開店しているな、とドアを押して
「えっ?」と動きを止めるしかない。が、いつまでも固まっているわけにはいかない。時は動き出す。
「そ、そうですね。まあ、そんなに怒ることってないほうですけれど、心が広いかといわれると……どうでしょう?」
すると谷藤さん、眼鏡の向こうで目を細めて、
「すみません、変なこと訊いちゃって。でも、心配いりませんよね。永城さんがいい人だっていうことは、何度もお会いして十分わかっています」
「ど、どうもありがとうございます」
「そんな永城さんだからこそ、私はこの作品を自信を持ってお勧め出来るのです」
谷藤さんは、両手で持っていた本を僕に向けて差し出した。新書サイズの本だった。
「これが今回の谷藤さんお勧めミステリですか。何だか長いタイトルですね」
「はい、
~あらすじ~
東亜学芸大学のファインアート研究会に所属している
「何だか壮大な、スケールの大きいミステリみたいですね」
「そうなんです。これは今まで永城さんが読んでこられた、どんなミステリとも違うと思いますよ。私はこの作品について、読前の方に対してあまり多くを語りたくありません。とにかく読んでみてほしいと言うしかないんです」
僕は谷藤さんから本を受け取って、
「そうなんですか。谷藤さんのお勧めであれば間違いはないですよね。それじゃあ、今回もこれを購入させていただきます。これ、古本ですね?」
僕は手にしていた古本の『三崎黒鳥白鳥(以下略)』を谷藤さんに一旦返した。
「はい、そうなんです。これは、すでに出版社取扱終了作品、いわゆる絶版というものですね。本当に嘆かわしいです。こういった名作が発行から十年も経たずに入手困難になるなんて。出版文化の末席を汚す人間としてですね、あまりに嘆かわしい」
谷藤さんは憤慨しながら、古本相手であってもいつものように手早く、だが丁寧にカバーを掛けていく。
「その本、新書ですけれど、文庫化はしていないんですか?」
谷藤さんの手がぴたりと止まった。カバーを掛けかけの手元からゆっくりと顔を上げると、谷藤さんは、
「ええ、この『三崎黒鳥(以下略)』は〈さる事情〉があって文庫化はしていないんです。そして、これからもされることはないでしょうね」
「えっ? どういうことですか? 何か
僕の質問に答えてくれることなく、カバーを掛け終えた谷藤さんは、価格を告げて僕に本を差し出す。代金と引き替えに僕は、真新しいカバーに包まれた古本を受け取った。
「毎度ありがとうございました。感想、お聞かせいただけるのを楽しみに待っています」
笑顔の谷藤さんに送り出されて、僕は店をあとにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます