『猫には推理がよく似合う』ネタバレありレビュー
「やられましたよ、
ドアを開け、レジ前に谷藤
「喋る猫が堂々と出てくるなんて、おかしいなとは思っていたんです。引っかかってしまいました」
「あ、『
そう。読み終えたばかりの当該作品の感想を聞いてもらうため、僕は谷藤屋を訪れたのだった。
「谷藤さんがあまり語りたがらなかったわけですよ。あれじゃあ、事前に入る情報の何がネタバレに直結してしまうか分からない」
「楽しんでもらえたみたいですね」
「はい。派手な殺人事件や舞台装置のない作品ですけれど、こういうのもいいですね。ちょっとしたからくりで唸らせられる。おしゃれですよね。エピローグ最後の余韻もいい読後感を残してくれました」
「『ねえ、
「あと、作中でスコティが〈見立て殺人〉や〈ダイイングメッセージ〉といった本格ミステリ定番ガジェットについて、『なにがおもしろいの?』って主人公の
「時刻表トリックがめんどくさい、とかもありましたね」
ああ、ありましたね、と僕は谷藤さんとひとしきり笑ってから、
「でも、悔しいですね。一人称の文体や、あちこちに散りばめられた手掛かりから、この作品に仕掛けられたトリックを見破ることは出来ていたはずなのに」
「
「確かに、そうかもしれませんね。『第一部』の秘密が明かされる場面。あれを読んでいるときは、得も言われぬ不思議な恍惚感がありましたからね。事前にあのトリックを見破ってしまっていたら、あの気持ちは味わえなかったでしょうからね」
「そうそう、そうですよ。トリックを見破るより、素直に驚けるほうがミステリの読者としては格が上なんですよ、きっと。永城さんは最高最強のミステリ読者です」
「ありがとうございます、谷藤さん」
思わずお礼を言ってしまったが、裏を返せば、トリックのひとつも見破れない鈍い人間なんだということなのではないか?
何だか腑に落ちないままだったが、僕は谷藤さんの笑顔に見送られて家路につくのだった。
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