第63話
ロイド歴三八九〇年六月中旬
鉄騎府大将軍となった俺は武によって全国統一を果たすよう王から命じられた。
しかし今年中は全国の大名や国人衆に圧力と懐柔を織り交ぜて交渉することに方針が決まった。
クサカの乱と名付けられたクサカ家討伐以外は軍事行動をしない。
軍事行動は来年以降とすることを家中に徹底し、更には来年の軍事行動の折には全将兵一丸となってカモンの天下を盤石のものとするようにと申しつけている。
他国を攻める前に色々しなければならないこともあるからだ。
その一つが全国の情勢、大名や国人の内情や敵対勢力をつぶさに調べることだ。
忍者たちには毎回のことだが無理な指示を行う。
そして何より幕府を運営するにあたっての取り決めを作成することだ。前世で徳川幕府が作った『武家諸法度』みたいなものだ。
今後、大名や国人を分ける分類として、俺が鉄騎府大将軍となる以前よりの家臣には譜代、それより後に家臣となった者を外様と定義付けた上で、一〇万石以上の領地を有する者は大名、一〇万石未満一万石以上の領地を有している者を中名、一万石未満の領地を有している者は小名とすることとした。
また、領地を有していない者で将軍家から扶持を得ている者は旗本と称することにした。
そして大名、中名、小名の各家が召し抱える家臣は武士とした。
前世で使い古されている呼称もあるがそれは仕方がないだろう。
身分制度の士農工商は決めない。
俺にとって商(商人)は重要な職業なのだ。だから商人を悪しざまにした身分制度は作らない。
次は俺がワ国統一を成し遂げた時の話だが、大中小名には軍役を課す。
これは御所や重要拠点の防衛を大中小名に負担させるというものだ。
名目は王家や将軍家に対する奉公だが、本来の目的は経済的負担をかけることで将軍家に反旗を翻す力を削ぎ落す意味がある。
参勤交代のように江戸に出仕するのではなく、近い場所にある幕府の拠点や王家の警護を実費で行ってもらう。
勿論、大中小名では負担は違うし遠方ほど負担を減らし不満が出にくい制度にしようと思う。
法度の内容は次の通りに決めたいと思っている。
一、武芸や学問、芸術を嗜むこと。
二、大中小名は御所及び幕府重要拠点を守るべく将兵を出仕させるを定めるものなり。
大名は一千石あたり兵三〇人を出仕させることとする。
中名は一千石あたり兵二〇人を出仕させることとする。
小名は一千石あたり兵一五人を出仕させることとする。
出仕にかかる費用は大中小名の負担とする。
役目は身分にふさわしいものにするものなり。
三、大中小名が有する城砦は一ヶ所であり複数の城砦を所持することを禁止する。また居城の修改築が必要となる場合は幕府に申し出て許可を受けること。
四、京の都や幕府において何か事件が起こったとしても、幕府からの命令なく国元又は出仕先を離れることを禁ずる。
五、王家、幕府に対し謀反を企てることを禁止ずる。
六、大中小名、及びその家臣は私闘をしてはならない。
また、大中小名は日頃から注意しておくこと。もし争いが起きた場合は幕府に届け出たうえで指示を仰ぐこと。
七、大中小名間の婚姻は幕府の許可無く勝手に行ってはならない。
八、罪人を召し抱えてはならない。もし召し抱えた後、罪人と判明した場合は元の主人、または幕府へ引き渡すこと。
九、大中小名は幕府お膝元へ妻子を住まわせること。屋敷などの維持費用は大中小名が負担すること。
一〇、領地での政は清廉に行い、常に民の為の政を行うべし。
一一、大中小名は道路や橋、船などの整備を行い、人や荷の往来を途絶えさせてはならない。また幕府の許可なく関を設けてはならない。
一二、寺社の荘園を不当に横領してはならない。
一三、大中小名の領地における租税は農業と畜産業は一幕四公五民、商業と漁業、工業は一幕二公七民とする。
これらに当てはまらぬ場合は幕府へ指示を仰ぐものなり。
一四、全てにおいて幕府の法度に従い、全てにおいてこれを遵守すること。
他にも決めなければならないことが多いが、取り敢えずはこんな感じの法度を定めるつもりだ。
過去の幕府が使っていた法度が古すぎて今の情勢に適用しずらいこともあるので他のことは少しずつ決めていくつもりだ。
ロイド歴三八九〇年六月下旬
とうとうゼンダユウが腹を切った。
息子たちも同様に切腹して果てた。
生き残った者は殆どいない。餓死するか自暴自棄になり突撃をして討ち取られている。
俺はクサカ家の居城を廃城にするように指示をする。
やせ細り恨みがましい。
首だけになってもゼンダユウは相変わらず太々しい。
俺はゼンダユウの首をフジカネの墓前に供えてフジカネの供養をする。
「愚かなゼンダユウに唆され無駄死にをしたフジカネの御霊もこれで成仏できるだろう」
「首はこの後如何いたしまするか?」
「こんな首を弔うのもバカバカしい。誰も赴かぬ山の中にでも埋めてやれ」
ゼンダユウを厚く弔うなど俺はしたくはない。
道端に放置したいくらいだが、それだと道行く人々に迷惑だろうからしない。
死んでもムカつく野郎だ。
話を変えよう。
全国の土地持ち大中小名で俺に恭順の意を示さない家への対応は兵は出さないがだからと言って何もしないわけではない。
圧力をかける。先ずは近場から経済を圧迫していく。
近場と言えばニバの国に執着しているウラツジ家だ。
ニバの国二八万石の内、七万石を領有しているがどうして俺に対抗できると思ったのか……俺ってそんなに嫌われているのかな?
元はミズホの国の小勢力のアズマ家の嫡男で成り上がり者だけど今は十仕家のカモン家当主なので王や宮廷貴族には受けが良い、と思っているよ。……そう思いたい。
ウラツジの領内への物流を意識的に制限させる。
境港の拡張工事が終了したのでヘル・シップを主軸とした艦隊を寄港させすぐ目の前にあるスウジの国を治めているオガワ家に圧力をかける。
この威圧行為は四国の勢力にも伝わるはずだかそれで少しでも俺に服従してくれると面倒が少なくて良いのだけどね。
それから新しく得た領地の農地改革と産業改革を行った。
農業改革はアワウミやキョウサなどの元々の領地ではすでに行っており、米の収穫量は約三倍にもなっている。
これはその土地にあった米を作る為に俺のスキルで品種改良をしたことで約倍の米の収穫量となった。
更に治水工事や開墾によって増えた農地もあるのでこれだけの収穫量を叩き出しているのだ。
そして産業改革では海外で人気がある石鹸、ワイン、乾燥ナマコ、乾燥フカヒレ、養蚕業(絹織物)、シイタケ栽培を奨励している。
こうして足元を固めつつ反カモン勢力を締め上げていく。
ロイド歴三八九〇年七月上旬
ソウコがフジタロウ・トミオカのもとに輿入れをした。
鉄騎府大将軍である俺の妹の輿入れなので盛大な式を挙げ参列した諸国の使者にカモンの財力を見せつける。
「馬子にも衣装だな」
「殿、ソウコさんに失礼ですよ!」
「そうですよ、ソウコさんに謝るべきです」
俺がソウコの白無垢姿を見て呟いた言葉に両横に座っているアズ姫とカナ姫が反応を示す。
そんなに怒らなくても良いじゃないか。カナ姫はお腹の子に悪いから機嫌を直してくれよ。
「う、うむ、そうだな……」
「殿も北の方様とダイワの方様の前ではタジタジですな」
「左様、カモン家の本当の実力者はお二人で御座いますからなぁ~」
「尻にしかれており申すな」
お前たち聞こえているぞ!
まったく、幾ら何でも俺が尻にしかれているなど、あまりにも……しかれていないよな?
この婚儀の前にはトミオカ家の居城となる六陽城を改修している。ソウコが住む館の増築や防御力を上げる改築だ。
そしてカモン家の準一門衆としてフジタロウ・トミオカに正六位下
カモン家が天下を統一すればシュテンとアツノリを含め嫌でも官位は上がるだろう。
ロイド歴三八九〇年七月中旬
全国から色々な情報が集まってくる中、幕府にとって非常に重要な情報が
東国の雄、ブデン家が動き出したのだ。
ブデン家は現在シナノの国(長野県)の半国を領有しているのだが、このシナノの国を完全に掌握しようとオガサワラ家に戦を仕掛ける準備が完了したそうだ。
今頃は凡そ一万五千の先遣隊をもってシナノの国北部に侵攻しているだろう。
ブデン家はシナノ半国以外にも四ヶ国を領有している大国なのでオガサワラ家としては存亡の危機である。
だからオガサワラ家が頼ったのがこの俺で今頃は使者がアワウミの国に入ったころだろう。
もっと早く俺の臣下になっていれば、俺が手紙を出した時に動いていれば、オガサワラ家もここまでひっ迫した状況にはならなかったものを、と思う。
この情報を戦略衆のシゲアキに投げ幕府がどう動くかを考えさせる。
俺としては今年は大人しくして軍を出さないと決めていたのでオガサワラ家を見捨てるか、物資を援助して来年まで持たせるか、それともヒメの国(飛騨)のモリバヤシ家に援護をさせるか……モリバヤシ家の兵では足りないか……
やっぱり物資を援助をして籠城をさせるのがベターだよな?
シゲアキたち戦略衆がどのような案を考えるか、それを聞こう。
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