第62話

 


 ロイド歴三八九〇年四月上旬


 上京して何度目かの御前会議に出席した。

 俺は正三位権大納言なので昇殿し御前会議に出席できる身分だ。

 基本的には従三位以上が昇殿を許されているが、唯一四位でも昇殿が許されているのが参議だ。

 まぁ、ここらへんの官位官職の話は置いておいて、態々俺が昇殿して御前会議に出席した理由だが、それは俺の摂政就任の話である。

 王は正式に俺に摂政、または摂政に殉じる官職を与え御国おくにの政を差配するように、と仰られたのだ。つまりワ国の政はお前に任せると仰ったことになる。


「此度のカモンがこと、鉄騎府大将軍と相成りまして御座いまする」

「……」


 関白のソウジョウ・ナカトミが代表し簾の向こうに鎮座しておられる王に声を掛ける。

 この御前会議での発言権があるのは太政大臣、左大臣、右大臣、内大臣、准大臣、大納言、権大納言、蔵人別当くろうどのべっとう、中納言、権中納言、弾正尹だんじょういん、左近衛大将、右近衛大将、大宰帥だざいのそち、参議であるが、関白は発言権はない。

 但し、関白には御前会議で殿上人が話し合って決めたことを王に言上する役目が与えられており、関白が納得しなければ言上拒否の権限があるのだ。

 そして王は関白が言上したことに対してのみお言葉を発すると言う何とも面倒臭い仕来りがあるのだ。


「恐れ多くもお上におかれましては、鉄騎府大将軍がこと、御許しになられました」


 勿論、王の言葉を殿上人たちに伝えるのも関白の権限であるが、この権限の中には王の言葉を殿上人に伝えないと言う拒否権はない。

 まぁ、当然だけど王の言葉を伝えなかったり、歪めて伝えたりすれば関白は解任されることになる。


「有り難き幸せに御座りまする」


 俺の今日のお仕事はこんな感じだ。

 鉄騎府大将軍。これは王に代わりワ国の政を行う令外官りょうげのかんである。

 本来は太政大臣をトップに太政官たちによって政は行われるのだが、今のワ国で太政官による政が行われているのは京の都がおかれるヤマミヤの国のみとなっている。

 しかもそのヤマミヤの国の治世も俺の兵力と経済力、そして領国経営のノウハウがなければ成り立たないことは太政官たちにとって悲しい事実だ。

 御前会議の最後に王の直筆の勅令を受け取る。

 これによりカモン家当主である俺は鉄騎府大将軍に正式に任命されたことになる。


 湖桟山城に帰った俺は先ず家臣たちを呼び集め鉄騎府大将軍となり幕府を開くこと発布した。


「おめでとう御座いまする」

『おめでとう御座いまする』


 家臣筆頭であるキザエモンが音頭を取ると家臣たちの大合唱となる。


「カモンにとって今後数年は激動の時となろう。さしあたっては法度を制定し幕府の役職を決め人事を行うことになるだろう。それと並行し全国の貴族たちにカモンに恭順を求めることになるだろう。皆にはそれらが明確になるまで今まで通りに頼み置くぞ」

『ははー!』


 こうして俺は鉄騎府大将軍として諸国に対し幕下に加わる様に手紙を書きまくり、送りまくった。

 これにすぐさま反応し俺に恭順の意を示したのはホウオウの義父殿、ツツミ家、オダ家の準一門衆だ。

 準一門衆と言ってもそれは俺が勝手に言っているだけで本人たちは知らないのだけどね。

 この三家の内、ホウオウ家とツツミ家は領国も安定しており治安がよいのですぐに当主がやってきた。

 まぁ、事前に俺が幕府を開くことになるだろうと知らせておいたしホウオウの義父殿などは俺と同様に御前会議に出席していたのだから対応が早いのは当たり前だな。

 オダ家に関しては今現在ノブナガが兵を率いてキュウガワと戦っているので使者をよこして恭順の意を示してきた。


 そして次に反応してきたのはカモン家と国境を接する国の者たちと遠国の九州や東北の貴族が恭順の意を示してきた。

 先ず隣国だが、レイセンの国のミナミ家、ニゴの国のイシキ家、ヒメの国(飛騨)のモリバヤシ家だ。

 ミナミ家とイシキ家はカモンと戦ったことがありカモンの実力を知っている家だし、ヒメの国のモリバヤシ家は小国なので反抗してもすぐに潰されると思ったのだろう。

 そして九州や東北の国では遠国故に適当に恭順の意をという者もあるようだ。

 これらカモン家に恭順の意を示したミナミ家、イシキ家、モリバヤシ家は当主が挨拶にきた。ただ、九州や東北の国からは流石に遠方なので使者を立てて来たのだ。

 それ以外からは態度を明確にしなかったり酷い所では敵意をむき出しにして使者を追い返したという家もあった。


 今回、御前会議で俺が鉄騎府大将軍となるにあたり細かい決めごとも定められた。その最たるものを二つ挙げるとしよう。

 一つ目は領地を持っている者には全て鉄騎府大将軍の権限が及ぶ。

 二つ目は王家は代官を置き管理している荘園を全て鉄騎府大将軍がこれを管理し補填すること。また、ヤマミヤの国においても鉄騎府大将軍が管理すること、だ。


 一つ目に関してはワ国全土に対し俺の命令権が及ぶと言うもので、これについては十仕家であっても領地を持っていれば俺の家臣とみなすということを明確にしたのだ。

 つまりホウオウの義父殿やニバの国に領地を持っているナカトミ家(関白)、オモテツジ家(権大納言)であっても領地を持っている以上は俺の配下とみなされるというものだ。


 二つ目に関しては王家の直轄領であるヤマミヤの国と他国の荘園の全てをカモン家の所領とするが、その代わりに毎年玄米で七〇万石を王家に納めろというのだ。

 非常に狡猾な決めごとなのが分かるだろうか?

 これは王家や宮廷貴族は領地管理の労力もなく玄米で毎年七〇万石分の収入があるということだ。

 しかしこの決めごとの狡猾さは次にあるのだ。

 つまり毎年七〇万石の玄米を納めることができなければ鉄騎府大将軍を解任できるということだ。

 今では七〇万石の玄米程度の負担は大したことではないが、それでも将来カモン家が凋落し七〇万石を王家に納めることができなかった場合、王はカモン家から将軍職を取り上げ切り捨てることができるのだ。


 さて、ムカつく話をしよう。

 俺に忠誠を誓わずコケにしてくれたゼンダユウだが、ブゲン大叔父の軍勢に攻められ籠城の構えだ。

 徹底的に俺に反抗しようと考えている。ムカつく。


 俺はブゲン大叔父に城を包囲したら攻め込まず包囲を続けるように指示を出した。

 籠城というのは援軍があるか、攻める側の兵糧などの不安がある場合に効果を発揮する。

 しかしブゲン大叔父の軍に物資の面で不安はないし、今のクサカ家は孤立無援だ。


 俺が本腰を入れれば圧倒的物量と圧倒的兵力で踏みつぶされるのは分かっているし、俺が鉄騎府大将軍となったことで権威も最高潮だ。

 態々勝ち組側から負け組側の尻馬に乗る奴はいない。


 俺の狙いは兵糧攻めだ。

 降伏は認めない。皆が餓死するか自暴自棄になって城から打って出てくるまで包囲して動かない。

 ゼンダユウに付き従った者も諸共に葬ってくれる。








 ロイド歴三八九〇年六月上旬


 五月に俺は二〇歳の誕生日を迎えた。

 家臣たち、そして俺に従った貴族たちが祝ってくれたし、俺の家族たちも祝ってくれたので嬉しかった。

 今回は俺が鉄騎府大将軍となって初めての誕生日だったので盛大に祝った。

 来賓には日頃食べたこともないような料理を振る舞い、しっかりと返礼の品も持たせた。


 そしてワ国全域に遣わした使者が全員戻って来た。

 恭順の意を示さなかった者たちを討伐することになるが、どこから攻めるかだな。

 先ずは四国か中国だろう。東は西がある程度目途がついてからにしたいが、それはノブナガの動向次第かな?


「して先ずは何処を攻めるべきか?」

「さすれば、オモテツジを攻めるが良かろうと存じ上げます」


 キモナカ・オモテツジ。カモン家と同じ十仕家だ。

 ニバに七万石を領有するが俺に恭順の意を表さなかったので今回攻める口実ができたのだ。

 他の十仕家でニバに領地を持っていた関白のソウジョウ・ナカトミは以前ミナミ家討伐の為に俺が用立てた借金を帳消しにした上で毎年金一万カンと引き換えに俺にニバの領地を返上してきた。

 そしてセツの国のヒノコウジも同様に毎年金二万カンで領地を返上してきた。

 中々に狡猾で賢いやつらだ。


「うむ、オモテツジを滅ぼすは簡単であろう。問題はその後よ」

「は、ウスジの国が宜しいかと。彼の国は水軍の中継地として抑えるべき重要拠点で御座いましょう」

「スウジの国から四国、そして中国の瀬戸内を抑えるのが宜しかろうと存じ上げます」


 ウスジの国とは前世で言う淡路島だ。四国、中国の瀬戸内方面を抑えるのに非常に重要となる土地だ。


 シゲアキとトシマサは意外と相性が良い様で二人は俺が聞きたい答えを予め用意している。

 俺は強力な海軍を持っているので四国を早めに抑え、その戦力をもって中国を攻めるというのが考えていた案だ。

 その四国だが現在は群雄割拠状態で有力貴族が存在しない。

 四つの国に二〇以上の有力国人たちが犇めき合って日々小競り合いをしているのだ。

 しかもどの国人も俺に恭順の意を表していないのだから先見の明がないとしか言いようがない。我先にカモンの配下となり四国随一の大名として名を残すことだってできたはずなんだがな。


「されどここは閣下の懐の深さを世に知らしめることが肝要かと」


 今の俺は閣下と呼ばれている。

 王や王家がいるので上様や殿下などと呼ばれるのを憚ってのことだ。

 それに将軍様も気に入らないので前世の知識にあった軍隊で将軍を閣下と呼んでいたのを思い出してこれにした。


「そうですな、再度恭順を促した上でそれでも靡かない家を武によって倒せばよろしかろう」


 俺の懐の広さを世に知らしめ、それでも俺になびかなかった奴を討伐するということか。

 俺が楽隠居して外国旅行をしたいというのは皆には内緒だから皆は急がずゆっくりじっくり天下統一をすれば良いと思っている。

 ここでそれを否定しても良いけど、理由が不純だからな~。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る