第61話

 


 ロイド歴三八九〇年二月下旬


 新城を築城する場所の目途がついたとコウザンがやってきた。

 場所はアワウミの南で京の都のほぼ真東となる場所だ。

 湖桟山城よりも京の都に近くなるし、拠点にするには良いだろう。

 恐らくだが前世では大津辺りだと思う。

 京の都にも近くアワウミの湖畔なので海運の便も良い。ここにアワウミを少し埋め立て城を造ると言うのだ。

 面白い、こんな埋め立て技術も発達していない世界でその発想ができるコウザンを素直に褒めた。

 ただ、言うは易く行うは難し、なので埋め立ての方法についてしっかりと確認をし概ね問題ないだろうと思うので許可を与えた。


 そしたらキザエモンが目くじらをたてて喰い付いてきた。

 まぁ、巨大な城を築くのに態々アワウミの一部を埋め立てると言うことはそれだけ膨大な費用が掛かるわけで、その費用を捻出するキザエモンとしてはキレても仕方がないだろう。

 だけど俺は妥協しないよ。







 ロイド歴三八九〇年二月中旬


 カナ姫が懐妊したと報告を受けた。

 アズ姫が次男を生んだことでカナ姫に子作りをせがまれた結果だ。妊活だな。

 男でも女でも良いので無事に生まれてくれればと思う。


 そして三月に入ったらオダ家は隣国のミヤマの国(三河)に侵攻すると連絡があった。

 連絡があっただけで援軍を出して欲しいという話は出なかった。

 ノブナガは己の力だけでミヤマの国を切り取る気のようだ。

 しかしミヤマの国を治めているキュウガワ家はミヤマの国以外にも領国を従える大国なのでミヤマの国を切り取るのは簡単ではないだろう。


 俺はカザマ衆に命じオダとキュウガワの戦いの情報を集めさせると共に鳥型偵察ゴーレムバードスカウトを飛ばしてリアルタイムで情報を得る段取りをした。


「さて、オダ殿の思惑通りにことが進むでしょうかな?」

「オダ殿はカモン家との同盟によりほぼ全ての戦力を投入できるがキュウガワはそうは行かぬ。戦力は互角と見るべきだろう」


 トシマサとシゲアキがオダとキュウガワについて話し合っている。

 たしかに戦力は互角だろうが、ノブナガは俺から購入した旧式の鉄砲だけではなく境港でも大量の鉄砲を仕入れていると報告があった。

 つまり俺同様に鉄砲を主とした戦い方を考えているのだろう。

 それに対しキュウガワはあまり鉄砲を揃えていないので旧来の戦い方となるのが予想できる。

 新旧の武器でお互いどう戦うか……この二人に予想させているのだ。


 それから最近落ち着いてきたので領国内から人材登用を積極的に行っている。

 その中で前世の記憶と照らし合わせ有能だと思われる者を紹介しよう。


 最初はカツタケ・シマ。恐らく嶋左近(島左近)だと思う。生真面目な性格で前線指揮官としては非常に優れてていると思い登用を決めた。

 次はスケキヨ・タキガワ。滝川一益だと思われ才知溢れる感じだったので登用を決めた。

 三人目はヨシナガ・カニ。可児才蔵だと思われ自慢の十文字槍を軽々扱う武を見て登用を決めた。







 ロイド歴三八九〇年三月下旬


 カモンの義父殿から上京するようにと言われたので赴く。

 何事かと聞くと内々の話ではあるが、俺に王の摂政を、と言う話があるのだと言う。


「それは何処から出た話で御座いましょうや?」

「どうも王自ら望まれたという話でおじゃる」

「王が……」


 基本的に王が政治を行うことはない。政治を行うのは太政官である俺たち貴族なのだ。

 その太政官の長官が太政大臣でそれを左大臣や右大臣などが補佐をするのだ。

 しかし王家はヤマミヤの国しか直轄地がない。それ以外になると各地に散らばった荘園もあるが、荘園の殆どはその地を治める者が横領している。

 勿論、俺の領内にある荘園は返上しているが代官はカモン家から出しているので太政官がどうこうと言うのはない。

 つまり太政官と言っても政治を行うのはヤマミヤの国だけなので、摂政もくそもない状況なのだ。


「一体どのような思惑があって……?」

「それでおじゃる、恐らくはカモンが大きく成り過ぎた故でおじゃるよ」

「大きく成り過ぎた?」

「うむ、今のカモンは畿内の殆どと東海北陸にも領国を有する大貴族でおじゃる。それ故、カモンにワ国全土の差配をさせ王の権威を上げようとする何者かの入れ知恵でおじゃるよ」


 ……つまり……幕府を開かせようと言うことか?

 それに何者かの入れ知恵?誰が?


「何とも……」

「そうでおじゃるな。されど、この話は今でこそ十仕家の中で収まってはいるでおじゃるが、その内広まるでおじゃるよ」

「噂が広まればカモンは話を断れない……」

「そうでおじゃる」


 もし噂が広まってしまえば、カモンはこの話を断れない。そんなことをすれば王の顔を潰すことになるからだ。

 そして王に入れ知恵をした者は間違いなく噂を広げるだろう。それでその者がどのような利益を得るかは分からないが自分の思惑を押し通せるのだから。

 俺としては面倒な話だ。


「古来、ヒラ家が王に代わり政を司ったことがあるのでおじゃる。その後暫く時をおき、ソクリ家が同様に政を行ったのでおじゃる。一度政を司れば数代に渡ってこれを行うのが通例でおじゃる」

「義父殿はどう思われますか?」

「ここまで大きく成った以上は然もありなんでおじゃるよ」


 幕府か……

 一体全体どこからそのような話が出て来たのだか。

 そんなことより幕府を開かなければならない状況に追い込まれていると言うことが問題だ。

 俺としてはそんな面倒なことはしたくない。

 幕府を開けばそれこそワ国全域に「俺の命に従え」と言わざるを得ないのだ。

 それに従わなければ戦となるのは火を見るより明らかであり俺はまた忙しくなってしまう。

 一体いつになったら外国へ行けるのか?

 ん、待てよ。今の俺は多くの国と多くの家臣を抱えて外国に行ける状況ではない。これを放り出して外国に行くわけには行かないほどの多くの責任が俺にはあるのだ。

 だが、ワ国を統一し、そのころには王も成長されているだろうから政権を王に返還すれば……そして隠居して家督を譲れば……俺は自由だ!

 今のキシンの様に悠々自適の隠居生活がおくれるのだ。キシンは妾たちの間を渡り歩いているとコウちゃんが呆れていたな。また俺の弟か妹が増えると思う。

 いや、キシンのことより俺の隠居のことだ。今からしっかりと人生設計を立てる必要があるな。


 カモンの義父殿の話を聞き湖桟山城に帰った。

 御所内のことは義父殿に任せて俺は家臣たちと今回のことを話し合う為に湖桟山城に戻ったのだ。


「それはまた大事になりましたな」

「真にもって」


 シゲアキとトシマサはまるで他人事だ。いや、こいつらこの事態を予想していたな。


「領国は安定しております。今であれば対外的に二五万の兵を、最大で三五万の兵を導入できます。王がそのおつもりであればワ国を統一なされば宜しかろうと存じます」

「左様、殿は既にその資格を得たと言うことで御座います、これを機に一気にワ国統一を」


 まぁ、こう言うと思っていたよ。


「取り敢えず、王のお言葉次第でしょう」

「左様、王から勅令を賜ってから対外的に動けば宜しかろうと存じます」

「それよりも先に例の件を」


 例の件と言うのは情報網の再構築だ。

 領国が大きくなり過ぎたので忍者の配置を考え直さなければならなくなったのだ。

 だからタナカ衆には領国内の情報収集と不穏分子のあぶり出しに排除。

 カザマ衆はカモン家の領国より東(主に関東)を担当。

 イドの忍者軍団は中国、四国、九州と西を担当させることになった。


 それから忍者衆の石高について纏めておく。

 タナカ衆はこれまでの功績で今は一五〇〇〇石(実質三二〇〇〇石)の土地と扶持米二五〇〇〇石を与えている。

 カザマ衆には一〇〇〇〇石(実質二八〇〇〇石)の土地と扶持米二〇〇〇〇石を与えている。

 イドの忍者軍団は四〇〇〇〇石(実質一〇〇〇〇〇石)の土地が与えられている。

 一見するとイドの忍者軍団が優遇されているように思うだろうが、そうではない。

 イドの忍者軍団はタナカ衆とカザマ衆を足した数よりも多い規模の忍者を抱えているので規模が違うし、扶持米はたったの一〇〇〇〇石だ。

 これまでの活躍の度合いが違うので扶持米の差は仕方がない。


 

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