第59話

 


 ロイド歴三八八九年七月中旬


 夏本番と言わんばかりにくそ暑い中、ノウトの国を平定した。

 カナの国でアサクマ当主を討ち取り主だった一門衆を捕縛し、ノウトの国で残っていた一門衆も一掃した。

 途中でアサクマに泣きつかれた王家が介入してきそうになったが、先にカモンの義父殿に頼んで手をまわしておいた。

 今回は俺の弟が討ち取られているので敵討ちだ、これを邪魔する場合は誰であろうと許さない。と義父殿に伝えたので、義父殿はそれをやんわり・・・・と王や貴族たちに根回ししてくれたのだ。

 その為、王の介入はなく、アサクマは滅ぶことになった。


 そしてアサクマとの戦いを邪魔した一揆衆だが、とことん戦い攻め滅ぼすことにした。

 アサクマとの戦いはキシンのアズマ勢を主としてシュテンに二万の兵を与えて援護させたので、俺が六万の兵をもって一揆衆を尽く打ち倒す。

 爆破大弩を一〇〇機用意しておいたので間断なく撃ち続け、爆死させた。


 宗教と言う隠れ蓑を利用して人々を争いに導く新綜門願寺派しんそうもんがんじはなどは滅ぼした方が世の為人の為だ。

 そして俺が北陸で一揆衆と戦っていると炎暦寺もそれに呼応するように俺に牙を剥いてきた。

 前回穏便に済ませてやった恩を忘れ再び俺に牙を剥くとか信じられない蛮行だ。

 一揆衆も炎暦寺も奴らが居るだけで戦いが起こるのだから俺は決して手を緩めるつもりはない。

 必要であれば上空から大きな岩を落とし天罰だと言いふらしてやろう。そうだ、そうしよう!


 俺は【世界創造】で創った空間を一揆衆が多く立て籠もっている城の上空に開き大岩を落としてやった。それを三ヶ所で行いタナカ衆に天罰だと言いふらさせた。

 この大岩攻撃には流石に盲目的な一揆衆も目を覚ましたのか俺に降伏して来る者が多く居たので改宗を条件にこれを赦し、農民に戻る者と兵として召し抱える者に分け管理する。


 北陸で蜂起した一二万の一揆衆の内、凡そ七万人を滅ぼした。

 滅ぼした者の多くは大岩を落とす前の死者であり、大岩を落としてからは徹底抗戦を訴えた数千程度の狂った一揆衆を滅ぼした程度で済んだ。

 奴らは死ぬのが怖くないどころか死ねば極楽浄土に行けると喜んで命を投げ出してくるので、俺は奴らの為に皆殺しにしてやた。

 これで死んでいった奴らは自分たちが信じた宗教に殉じ極楽浄土に旅立てたわけだ。最高の人助けだと思っておこう。


 前世で信長も一向一揆と激しく戦っていたが、俺と同じ気持ちだったのだろうか。

 俺は宗教を否定はしないが、それは人々の心を安らかにする為であり争いに駆り立てるような宗教などは決して認めない。

 このように一揆衆だけではなく周囲の国や貴族たちに俺の書状を送りまくった。こうして俺の正当性を主張するのだ。

 もしこれでも俺のことを魔王だとか何だかんだ言う奴がいたらいつでも相手になってやろう。その前に経済封鎖をしてやって後悔させてやるがな。







 ロイド歴三八八九年八月中旬


 王の譲位の話が遅れていている。

 その理由がアズマ・カモンによるアサクマ討伐だったが、それでもここに来て王が五之宮に譲位すると表明した。

 もっと早く譲位する子を明確にし表明していればニシバタケとアサクマは滅ぶことはなかっただろう。

 例えその相手が一之宮だったとしても、二之宮だったとしても最初から譲位する子を名指していればここまで多くの血は流れなかったはずだ。


 そして俺の関心は誰が次の王になるかではなく、俺の領内で蜂起した一揆衆と炎暦寺だ。

 北陸からとんぼ返りで帰って来た時にはアワウミの一揆衆は鎮圧が完了していたので、炎暦寺を囲む。そして炎暦寺にも大岩を落としてやった。

 そうしたら天罰論が世間を駆け巡った。

 炎暦寺は僧でありながら権力や欲にまみれた者たちが立て篭もる魔境となりはてていた、と言う噂をあらかじめ広めておいたからだ。

 これで炎暦寺もあと腐れもなく決着がついたのでそのままイゼの国に向かう。

 そうしたら王家から和睦の使者がやってきた。


「——————————と言うわけで新綜門願寺派と和睦をと王は仰っております」

「何と!我がカモン家に何の警告もなくいきなり攻撃してきたあの罰当たりめらを赦せと言われるのか!?」

「それが王のお心で御座いますれば」


 使者はキンタケ・ロクバ。正六位上弾正大忠で昇殿も許されていない下級貴族だ。

 王家はそんな彼を差し向けて俺を抑えるつもりなのか?

 彼も可愛そうだが俺がここで折れる必要はないと思う。


「なれば、一揆衆は全て我が領内から立ち退き、一揆衆は今後我がカモン家とは敵対しないと起請文を提出すること、で手打ちにしましょうぞ」

「それは……左大将様は彼らから土地を取り上げるおつもりか?」

「何時蜂起するかも分からぬ者たちを領内に住まわせるなどあり得ぬと思いませぬか?」

「……」


 結局、使者殿は俺のその条件を一揆衆に持ちかけたが、撥ねつけられ調停は失敗に終わることになった。

 そして俺はその報を受け一揆衆を根絶やしにする為に進軍を再開したのだ。


「仏敵カモン!魔王カモン!」


 一揆衆は俺を仏敵や魔王と罵りながら攻撃をしてくる。しかし世の中ではお前たち一揆衆の方が罰当たりなやつらだと言っているぞ。

 お前たちは王の仲裁も蹴っているし宗教を背景に無茶をやり過ぎたのだ。

 だから奴らが籠る城に盛大に大岩を落としてやった。

 その光景は新たに来た王からの調停の使者の目の前で行ったので口をアングリと開けた使者は真っ青な顔をして帰って行った。

 このことは使者から王に伝わるだろうから俺が止めを刺したのではなく、神罰が下ったのだと王をはじめ宮廷貴族どもは思うだろう。


 根が残らないようにしっかりと除草剤を撒いた俺は悠々と京の都に登り王に対し今回のアサクマ討伐、そして炎暦寺と一揆衆の根絶やしについて報告した。


 アサクマ討伐によってキシンが実質的な支配者となったオチゼン、カナ、ノウトの三ヶ国の国守を賜り、俺は大宰帥だざいのそちを贈られた。

 この大宰帥は九州を束ねる地方長官のような官職で、なぜ今この時期に俺が治めてもいない九州の長官職を贈られたのか頭を悩ました。

 しかし考えてみれば大宰帥には外交権限があるし大陸との交易についてはこの大宰帥の管轄だ。恐らくそこら辺があって俺にこの官職を贈ったのだろう。


 取り敢えず太宰大弐だざいだいにを俺の部下から誰か任官してもらい太宰府に送っておこうと思い誰が良いかと思案する。

 大宰帥が大宰府の長官なら、大宰大弐は次官的な立場なので大宰府の仕事はこの大宰大弐が仕切っているのが通例だ。


 軍事だけではなく外交を含め行政全般を卒なくこなせる者となれば……キザエモンの部下のヒサトキ・アマザキで良いか。

 このヒサトキは職業こそ文官系なのだが剣をもってもかなりの使い手なのだ。しかも職業が【交渉官】なので揉めごとや面倒ごとはその能力で穏便に解決してくれるだろう。

 しかしそうなると家中でも上の方の官職となってしまうな……上司のキザエモンより上は拙いな……キザエモンを大宰権帥にでもしてもらうかな。よし、そうしよう!









 ロイド歴三八八九年九月中旬


 一揆衆と炎暦寺を平らげ、今回の転戦に次ぐ転戦の論功行賞を行う。

 まず、北陸の三ヶ国だが、オチゼンの国についてはカモンとアズマで分け、カナの国とノウトの国はアズマ家が治めることになった。

 その為、オチゼンでは鶴賀港を含む南部をカモン家が領有することになった。


 キシンはカモンが大軍を持って援軍したことで三ヶ国を手に入れたのだからせめてオチゼンをと言って来たのだが、元々俺は三ヶ国ともアズマ家に領有させるつもりだったのでこれを断ったのだ。

 しかしそれではキシンの気が済まないと言うので最後はオチゼンの南部をカモンがそれ以外をアズマがと言うことで落ち着いたのだ。


 これによりアズマ家はミズホの国、カナの国、ノウトの国の三ヶ国とオチゼン半国、ビバリの国の一部を領有する大貴族の仲間入りをした。その総石高は一五〇万石以上にもなる。


 そしてカモン家はアワウミの国、キョウサの国、イドの国、イゼの国、スマの国、キエの国の六ヶ国にニバ半国、オチゼン半国、セツの国の大部分を領有し、表向きの石高は二六〇万石以上となっている。


 今回の論功行賞は大規模となった。何と言ってもヒノコウジ・ツキノコウジ連合軍と戦いその領地の殆どを奪い取り、アサクマを滅ぼし、一揆衆と炎暦寺を俺の領内から駆逐したのだから、家臣の殆どが参戦していのだ。

 ただ、全員が参戦しても功績がない者には褒美を与えることはしない。


 代表的なのはシュテンだな。シュテンにはセツの国の城を与え、セツの国の差配をさせることにした。

 そして若いシュテンを補佐させるために家老としてゼンジ・ウエムラを付ける。ゼンジは俺の譜代の家臣でありキザエモンやダンベエたち同様に最古参の家臣だ。

 ゼンジであればシュテンを良く助けてくれるだろう。


「兄上、有難うございます!」

「ゼンジ、シュテンを頼むぞ」

「は、この命に代えましても」


 次はフジタロウ・トミオカだ。

 今回、彼はなんちゃって騎馬鉄砲隊を率いて逃げ惑うアサクマ勢を待ち伏せてこれに大ダメージを与えている。

 その功をもってソウコの婿とすることと城を与えることにした。


「フジタロウ・トミオカ、此度の働き天晴である!故にその方をソウコの婿に向かえ、更に六陽城を与える」

「そ、某のような若輩者に過分の……」

「今後も励めよ」

「は、ははーっ!」


 緊張しっぱなしのフジタロウとソウコの婚儀は来年の良き日を選んで行われる。これでコウちゃんも納得してくれるだろう。

 そして他の者たちにも加増や金品での褒美を与える。

 金品の場合は銭か渡来物の珍しい品、もしくは俺のガラス製品を与える。どれもその功に見合っただけの物を与えている。


 更に今回の戦で遅れていた王の退位と五之宮の即位は来年正月に決まった。

 そしてイシキ騒動で蟄居謹慎を言い渡されたウラツジ家とセイワ家に新王の名で恩赦が与えられる段取りとなっているので、それを待ってシュテンの婚儀を行う。

 更にその翌月にシロウとイチ姫の婚儀を行う予定となった。ソウコの婚儀はその後になるだろう。


 後は俺のことなのだが、アズ姫が第二子を懐妊したという嬉しいこともあり一一月には二人目の子が生まれるのだ。

 これでフジカネが生きていれば言うことはなかったのだが、今となっては後の祭りだ。

 カモン家では昨年から大戦おおいくさが続いたし、弟のフジカネを亡くしたのであまり大騒ぎをせず粛々と生まれて来る子の為に準備をしようと思う。


 キシンが北陸の仕置きを終えて湖桟山城に入った。

 今回の戦で嫡男であるフジカネを亡くしたので五男のゴロウをアズマ家の嫡男とするか、それともシュテンやシロウをアズマ家に戻し嫡男とするか話し合うためだ。

 しかしキシンからは意外な言葉が放たれた。


「アズマ家の所領はソウシンが受け継ぐこととする」

「は?」


 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 キシンはフジカネの死で気がおかしくなったのか?と思ってしまう。


「ワシも良く考えてのことだ。ただ、シュテンを始め、ソウシンの弟たちには一国を差配させてやってほしい」


 いやいやいや、弟って……キシンの子は男子だけでも俺が把握しているのが……一一人もいるんだぞ、その弟たちに一国を与えたら一一ヶ国も要るじゃないか!


「父上……シロウなりゴロウなりにアズマを継がせれば良いではないですか」

「最初はワシもそう思うておったがな、重臣たちとも話し合った結果、ソウシンにアズマ家を預かってもらうことが一番良いと皆も言うのだ」

「皆が……」

「ソウシンの子にアズマ家を継いでもらえればワシもご先祖様に対しても申し訳が付くとおもうてな」


 む~、確かにアズ姫のお腹には第二子がいるが、その子が男の子だと言う保証はないし、今後俺に男の子が生まれる保証もないのだ、それを……


「今すぐ返事をしろとは言わん。よく考えてくれ」

「分かりました、考えるだけ考えます」


 

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