第47話
ロイド歴三八八八年一〇月上旬
フジカネの婚約者であるサンジョウ家のミツナ姫をアズマ家の京屋敷に迎え祝言が挙げられた。祝言には俺とカモンの義父殿も出席し盛大に祝われた。
本来はミズホの大平城で祝言を挙げるのだろうが、京の都の治安が良く、更にアズマ家と縁のあるカモン家が京の都の治安維持をしているのでサンジョウ家も出席できるように京の都で祝言が執り行われたのだ。
フジカネがかなり緊張していたのが手に取るように分かった。顔面蒼白で
フジカネは職業が【槍士】なのでよく鍛えられた筋肉質で身長も俺より高いので武将としての才能は俺よりも遥に上なんだろう。
最近は幼かった頃とは違い落ち着いてきたし書も嗜むようになり教養も少しずつ身に付けているようだ。
このまま良い方に成長すればいずれはアズマ家を継ぐことになるだろう。だから宮廷貴族と縁を結ぶのはフジカネにとっても良いことだとは思う。
だから、もっとしっかりしろよ!
妻となるミツナ姫はフジカネと同じ一六歳で昔の日本であれば美人と言われるような顔立ちの少女だ。背は一四〇センチメートル程度で背の高いフジカネとはかなりデコボコな感じではあるが、フジカネはミツナ姫を結構気に入っているようだ。
まぁ、前世の記憶を持つ俺とは美的感覚や価値観が違うのでフジカネが良いのであれば構わないけどね。……なんか酷い言いぐさのような気がしてきたな。
よし、この話は止めよう!
ロイド歴三八八八年一〇月上旬
シゲアキ・左近衛少将・マツナカ
アサクマが軍事物資を集めていると報告があった。しかしアサクマの領地は冬になると雪が振り行軍に支障がでるほどに積もるはずだから攻めて来るのは春になってからだと考える。
しかしアサクマが兵の準備をしているのであれば、ニシバタケも動くだろうし、下手をすればヒノコウジも動くので各家の動静を注視する必要がある。
殿はカモン家から軍事行動を起こすのは固く禁じられたが、アサクマが動いた以上は我らも素早く対応する必要がある。
先ずはオチゼンからの進軍経路であるアワウミ北部の諸将に警戒を呼びかけねば。特に矢面に立つであろうトシマサ・マツナミ殿にはすぐにでも警戒をよびかけよう。
それと北部を統括するキザエモン殿の塩津城に中筒隊を送るように殿に上申するとしよう。中筒隊は三〇人の小部隊なので誰も軍事行動だとは気づかぬだろう。
殿はトシマサ・マツナミ殿を何やら警戒しているようだが、あの男は使えると思う。殿があの男を遠ざけている理由は野心家故のものだと思うのだが、殿におかれてはあの男に何かを感じているのだろうか?
翌日にはニシバタケの動向も報告があった。
予定通りにヒサアキ・ツツミに援軍を送る段取りをつけたニシバタケは領国であるキエの国と内紛中のツツミ家が治めるダイワの国の国境近くに兵を終結させつつあるらしい。
この報を受け殿はロクロウ・ツツミ様に援軍を送る決断をされすぐにザンジ・オオツキに兵を与え出兵をお命じになった。
また、
後は太平洋艦隊を動かしイゼの国やスマの国、キエの国の海上封鎖を行えば進軍したキエの国の軍の支援どころではなくなるだろう。
更に翌日に意外な報が齎された。
ビハリの国のサトウ家が家臣筋のノブナガ・オダによって蟄居させられたと言うのだ。
このノブナガ・オダと言う人物はビハリの国の国人でサトウ家の奉行の家柄であり、二年前に代替わりをしたばかりの家だ。しかもこの二年の間に弟を誅殺して家内の地盤を固めるような非情な男でもある。
こんな戦国の世なれば骨肉相争うこともあるが、僅か二三歳の若さで弟を殺し、主家を追い落とし下剋上をするその精神力と野望は末恐ろしく感じる。
今回の下剋上でノブナガ・オダはビハリの国を完全に支配したわけではないが、最大勢力となったのは間違いない。アズマ家がミズホの国に面した御牧城付近を支配しているし、海側に行けば海に突き出した半島の大部分をミズノ家が支配している。
オダ家がビハリの国の支配権を得るのはアズマ家とも争うことになるので注視が必要だと殿も気にされていた。
ロイド歴三八八八年一〇月中旬
不味い。今まであまり気にもしていなかったが最近になって前世で存在した歴史上の人物が蠢動しだした。
しかも最悪なのはビハリの国のノブナガ・オダだ。まさか第六天魔王織田信長が現れるなんて勘弁してくれ。
しかもイルガ、トオウミ、ミヤマの三ヶ国を支配するキュウガワ家が大軍をもってビハリの国に進軍する準備を進めていると報告も受けている。
キュウガワってやっぱり今川だよな……桶狭間の戦いが再現されるのか……できればキュウガワが勝ってくれることを祈ろう。その方が対処しやすそうだし。
キシンはサンジョウ家のミツナ姫とフジカネの祝言の後、今回のノブナガ・オダの下剋上を聞き予定を繰り上げてミズホの国に帰って行った。
その際、俺の元にまたソウコが残ったのだが、キシンももう諦めモードで背中に哀愁を漂わせ帰って行った。
それからドウジマルを俺に預けてくれた。俺の養嗣子にしてカモンを名乗らせるのは来年になってからだが、家臣団には今から顔を覚えさせていこう。
ドウジマルも今年で一一歳なので体も結構大きくなっている。フジカネも大柄だが、ドウジマルも一一歳にしては大柄だと思う。俺はそれほど体が大きくないが、キシンも大柄なので血筋なのだろう、特に戦闘職の子はね。
ツツミ家の援軍に送ったザンジ・オオツキから報告があった。
敵のニシバタケとヒサアキ・ツツミの連合軍凡そ一五〇〇〇がロクロウ・ツツミの支配地域に大挙して押し寄せてきたがホウオウ家とザンジ・オオツキの援軍と合流したことで戦力はほぼ互角となっており現在は睨み合いが続いていると言う。
さて、ここで問題となるのが他の二勢力だ。俺は他の二勢力にロクロウ・ツツミの傘下に入り忠誠を誓えと使者を送ったが、曖昧な返事が返ってきた。
「ダイワの争乱を早急に収めるには矢張りイゼを攻めるが良いのか?」
「はい、ニシバタケにとってイゼは最重要地。このイゼに侵攻されたとなればキエの軍を引かせイゼの援軍に向かわせる可能性が高いと思われます」
確かに本国が攻撃されているのに他国の紛争に構っている暇はないだろうけど、イゼの国を完全に抑えてしまったら王の警戒心を呷ることになりかねないんだよな。
「既に北イゼとイドの国に四〇〇〇〇の兵が準備できております。また太平洋艦隊もいつでも動かせますので一気にイゼ、スマ、キエを切り取りましょう」
シゲアキは中々好戦的だ。かなり怒っているのだ。
何故ここまでシゲアキが怒っているかと言えば、ここ最近俺の周辺に暗殺者が何度も現れているからで、それがニシバタケとアサクマの差し向けた忍者だと分かっているからだ。
確かに今のカモン家と正面きって戦えば大貴族であるニシバタケとアサクマであっても勝てる保証はないし、勝ってもかなりの損害を覚悟しなければならない。
だから俺を暗殺した方が早くそして損害が出ないので暗殺を選ぶのは分かるが、俺が暗殺で一度死にかけてからは暗殺について過剰なまでの対策をしていると、あの二家は知らないのだ。
「それと殿を暗殺しようとあの二家が動いていると噂を流しましょう」
「噂? どこで流すのだ?」
「イゼ、スマ、キエ、オチゼン、カナ、ノウト、京の都で広めます」
「二家の領国の他に京の都でもか?」
「王の耳に入るようにし、我らの正当性を訴えるのです」
コウベエもかなり怒っているようだ。この二人を怒らしたニシバタケとアサクマに南無阿弥陀仏だ。
それは良いとして、俺はビハリの国のノブナガ・オダが気になる。ノブナガの情報もしっかり集めるように指示をしておこう。
「噂はそれで良いが、ビハリの国のノブナガ・オダについてもしっかりと情報を集めよ。それとマツナミの行動にも気を配れ」
「ノブナガ・オダは兎も角、トシマサ・マツナミ殿に何か謀反の動きでも?」
コウベエが何故マツナミを気にするのか確認をしてくるが、それは前世の記憶を持っているからとは言えないな。
俺の記憶ではトシマサ・マツナミは前世で言う斎藤道三のことだと思っている。道三の父親は松浪と言う姓だったはずで油売りをしていた頃は庄五郎と名乗っていたが、その後長井家に仕え分家を相続した時には利政と名乗っていたはずだ。
織田信長のように直球ではないが、名を何度も変えている場合は一番有名な名前ではない場合もあったとしても不思議はないだろう。
それに本人は隠しているようだが、マツナミの職業は【謀略家】なのだ。あまりに斎藤道三のイメージにピッタリな職業なので注意しておくに越したことはないだろう。
「……あの目が気になるのだ」
職業が【謀略家】だけあって成り上がろう、下剋上を起こそうとしているような野心満々の目が気になるのは確かだ。
「相分かり申した。マツナミ殿の動静にも気を配りましょう」
シゲアキが了承してくれた。これで少しは俺の心配事が解消されたと思いたい。
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