第46話

 


 ロイド歴三八八八年九月下旬


 コウベエ発案のカモン家とツツミ家の縁組は俺の意志とは関係なく進んでいる。

 何故か奥にも手が回されアズ姫やハルからも了承が得られているらしい。……俺の意志は?

 そんな折にキシンがフジカネ、ドウジマル、ソウコを連れて湖桟山城にやってきた。これは予定されていた行動でフジカネの嫁取りの話に絡む行動だ。

 フジカネの妻となるのは宮廷貴族のサンジョウ家の姫で名をミツナ姫と言う。

 サンジョウ家は十仕家の下の格式である清廉家の一家で領地は持っていない代わりに王家から五〇〇石相当の俸給を受けているはずで、決して裕福な家ではない。だからサンジョウ家はアズマ家に姫を嫁に出す決断をしたのだろう。


 ここで十仕家とか清廉家せいれんけなどの説明をしよう。

 まず十仕家だが、これは王家を除く貴族家の頂点にある十家のことを言う。十仕家は中納言以上の官位官職をほぼ独占している家柄で内大臣、右大臣、左大臣、太政大臣、関白に任官される家柄でもあり、早く言えば十仕家以外で大臣職は滅多に出ない。

 清廉家は十仕家のすぐ下の格式の家柄で能力と運があれば大納言や大臣になることができる家柄だ。因みにアズマ家も本来はこの清廉家だが、長く低迷していたのでキシンの官位官職はそれほど高くはない。他にはアサクマ家やニシバタケ家などもこの清廉家で領地持ちの場合の多くは京の都に近い国の国守なんかを歴任しているし、サンジョウ家のように領地を持たない宮廷貴族も多く居る。

 十仕家、清廉家の下には羽琳家、そして半家と言われる格式の家がある。

 羽琳家は京の都から離れた国の国守だったりが多いし、半家に至っては自称貴族と言われるような格式でミナミ家がこの半家にあたる。

 大まかに言えばこんな感じの格式となっているが、家は勃興することもあれば衰退することだってあるのだから名前だけの家だったり断絶した家だってあるのだ。

 細かいことを言えばもっとあるのだが、今はこの程度を知っていれば問題ないだろう。


「ソウシンよ、ソウコにも良い婿が……」

「ソウコの夫はソウコが選びます!」


 キシンが年頃の娘であるソウコの伴侶のことを言いかけたが、ソウコにキッパリと言い切られてしまった。


「父上もソウコも飽きないな」


 同じようなことを何度繰り返しているか、本当に飽きない二人だ。


「それよりもドウジマルを同行させたのは何故ですか?」

「うむ、折角上京するのでドウジマルの婚約相手を見つけられればと思ってな」

「簡単に言いますね」

「まぁ、ダメで元々、良い家と縁が結べれば幸い、程度に考えておる」


 考えればこれからキシンの子供は年頃を迎えるので婚約や結婚フィーバーになりそうだ。

 最近、コウちゃんからの手紙でキシンが外に何人も子供を作って困っているから俺からも一言言って欲しいと書いてあったな。

 精力絶倫キシン君、いい加減にしとけよ。俺の弟や妹は一体何人いるのだろうか?

 その後、解散となったので俺はキシンだけ残って貰った。


「父上、折り入ってお願いの儀が御座います」

「改まって何だ?」

「ドウジマルをカモンの分家として私に預けて頂きたいと思いまして」

「ドウジマルをカモンに、か?」


 そうだ、実を言うと優秀な家臣はそれなりに居るけど俺の配下に一族は居ないのだ。

 カモンの義父殿には1人娘しかおらず、その娘も今は遠方の貴族に嫁いでいるし、ホウオウの義父殿の親族は国持ちとなったホウオウ家で活躍しているので配下に引き抜くわけにもいかない。

 そんな感じで俺には一族の家臣がいないのでドウジマルをカモン家に迎え行く行くは城の1つや2つどころか国を任せても良いと思っている。


「ふむ、ソウシンの言は分かった。ドウジマルには良い話でもあるし前向きに検討をしよう」


 キシンには男子が何人もいるのでドウジマルをカモン家に貰っても大丈夫だろう。元々、カモン家は十仕家の中でも武門の家柄なので俺よりもドウジマルの方が当主には向いていると思えるしね。






 ロイド歴三八八八年一〇月上旬


 あれよあれよとツツミ家のカナ姫との縁談が纏まった。

 ツツミ家の当主ロクロウ殿は可愛がっているカナ姫の輿入れ先がカモン家であればと了承したらしい。

 但し、正室と言っても準正室扱いをし、生まれてきた子が男子だった場合は元服した暁には最低限城持ちにすると言うのが条件だ。

 既に俺と正室アズ姫との間に嫡男が居るので最低限この条件を飲んで貰わなければ嫁には出さないとかなり抵抗したらしい。


 そして王が次期王を指名する為の条件を明確にした。

 王は各宮(各王子)に対し横領された王家の天領を返上させるようにと条件を出したのだ。

 この天領とは王家の領地のことを言い、ワ国全域に大小幾つもの天領が存在する。だが、今現在天領として王家が税を徴収しているのは京の都があるヤマミヤの国と極僅かでしかない。多くの場合、天領を含む土地を支配している貴族が天領を横領し税を徴収しているのだ。

 王としては今の状況が我慢ならないのだろうが、まさかワ国全域に分散して存在する天領の復活を目論んでいるとは思っても居なかった。

 とは言え横領された天領全てを返上させるには各宮の影響力はそれほど大きくない。王家の権威には敏感な地方の貴族も天領云々という話には反応が悪い。まぁ、天領を返上すればそれだけ国力が落ちるので貴族にとっては死活問題だろうから難しい話ではある。


「これは荒れるぞ」

「しかし我ら五之宮を推す我らにとっては追い風となるでおじゃるな」

「うむ、幸いと言うべきか婿殿がヤマミヤの国を王家に返上し、更にカモン家とホウオウ家、アズマ家の領地内にある天領については王に税を上納し我ら三家は王より代官に任じられておるからの」


 そう、俺が得た領地にある天領は後々問題にならないように王に税を上納している。更にアズマ家がミズホの国を統一してからは俺同様にミズホ国内の天領からの税は王に上納しているし、カワウチの国を治めるホウオウ家も同様だ。


 ここで慌てたのがアサクマ家とニシバタケ家だ。

 この二家の領内にも当然天領があり、アサクマ家は三ヶ国の国守で都合一一八万石の大領を有しているのだが、実を言うと天領が二十三万石も存在するのだ。総石高の実に二割近い石高を天領が占めておりそれを横領しているのだ。これを王家に返上すればアサクマ家の支配力はガクッと下がり、しわ寄せを食った家臣に不満が溜まるのは分かり切ったことだ。

 そしてニシバタケ家も顔面蒼白になったと思う。

 ニシバタケ家が治めているイゼの国は北部を俺が領有しているのだが、実を言うとニシバタケ家が領有している南部にはイゼ大神宮と言うワ国の神社の総本山とも言える神社がある。

 このイゼ大神社は王家と縁深い神社で大宮司は独立した勢力でもあるが、イゼ大神宮の周辺がイゼ大神宮の荘園と王家の天領の巣窟とも言える土地なのだ。しかもイゼ大神宮の参拝に訪れる者は多く、関連して商売も頻繁に行われている為にこれらの天領の税収は計り知れないのだ。勿論、それらの天領はニシバタケ家が横領している。


「いやはや王も難題をお出しになられたものだ」

「ほほほ、ヒノコウジもどう出るか楽しみでおじゃる」

「ヒノコウジは自領内の天領を返上しただけでは到底足りぬし、かと言って他家に影響力があるわけでもない。右大臣であるツキノコウジが動いたとしても天領を横領している者をどれだけ動かせるか……関白ナカトミ、権大納言オモテツジもアサクマとニシバタケにどれだけ天領を返上させることができるか難しい。我らは一歩以上有利な立場にあるが何時何が起こるか分からぬ故、足元を掬われないように気を引き締めてかかろうぞ、フダイ殿」


 二人の義父は楽しそうに話し、最後に手綱を締めたホウオウの義父殿。


 

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