第41話
ロイド歴三八八八年四月
炎暦寺の僧兵との戦闘が発生したと報告を受けた。僧兵どもは京の都方面に現れ包囲網を破ろうとしたらしい。
基本は包囲だが、その包囲を破ろうとする者には容赦するなと徹底していたこともあり結構大規模な戦闘になったらしい。それで良い。
今回の戦いで戦端を開いたのは僧兵の方で、広く浅く包囲網を築いていたカモン家の兵に対し奇襲に近い一撃を加え包囲網を破ろうとしたようだが、タナカ衆によって事前に情報を得ていたダンベエがいち早く対応したことで逆に僧兵を包囲網の中心部に引き込み鉄砲の十字砲火を浴びせ二〇〇〇人以上を打ち取り五〇〇人ほどを捕虜としたようだ。
「戦となった以上は躊躇する必要はない。全戦力を投入し炎暦寺を滅ぼす」
「お、お待ちください!」
「ジゴロウ・ガンモか、何だ?」
炎暦寺征伐に反対の者は家中にそれなりに居る。だが、その反対派は基本的に旧ハッカク家家臣に多いこともありあまり大きな声にはならない。
俺は家臣であってもカモン家の法に触れず、カモン家の方針に反することがなければ言論を統制する気はない。甘言よりも苦言を呈する者を遠ざけたりはしない。
「炎暦寺は天満宗の総本山、京の都の鬼門を守る意味もある地で御座います。寛大なるご処置をお願い申し上げまする」
俺に平伏し強の都の鬼門と言う場所的意味も考えろと苦言を呈すジゴロウ・ガンモ。しかし俺の方針は既に決まっている。炎暦寺が武装解除し元坂を俺に譲渡する以外は炎暦寺の滅亡を意味する。
決して驕っているわけではないが、奴らが俺の領地内で俺の邪魔をするのは許せん。俺の堪忍袋は十分我慢したと思うんだ。
「今回寛大な処置をしたところで、あ奴らは直ぐに我らに牙を剥いてくるぞ?ソナタもそれは分かっておろう?」
「は、故に武装解除を絶対条件として交渉を」
「ふむ……だが、それだけでは足りぬ。武増解除の他に僧兵の追放、元坂の譲渡が条件だ」
「そ、それは……」
「武装解除しても直ぐに反旗を翻そう、故に僧兵の追放は絶対条件だ。そして財力があれば再び武装するだろう、故に元坂の譲渡も譲れぬし今後は我がカモン家の法に従って貰う。それでもジゴロウ・ガンモは炎暦寺が降伏すると思うか?」
「……」
例えジゴロウ・ガンモと西城上人が懇意であったとしもこれらの条件は飲むことはないだろう。奴らは
「まぁ良い。ソナタに時間をやろう。炎暦寺が素直に要求を飲めば態々滅ぼす必要もない故な」
「は、有り難きお言葉!」
ロイド歴三八八八年四月下旬
タケワカが可愛くて仕方がない。
そんな俺にキザエモンがこう言った。
「殿、側室をもたれませ」
「は?」
「タケワカ様がお生まれになり、お方様も正室としての面目が立ち申した。以後はカモン家の繁栄の為に多くの子を残すのが殿の責務で御座います」
「……」
子供を産んだ事で家臣からお方様と呼ばれるようになったアズ姫、そのアズ姫以外に妻を娶れと言うキザエモンの言うことは分かる。分かるが……
「キザエモン殿の進言には私も賛成です」
「ハルまで……」
俺の乳母で今ではカモン家の奥を統括しているハルも側室を持てと言う。家臣たちからすれば俺の血族による繁栄は主君たる俺の最大の責任だ。その為には俺の子が多い方が良いのは分かる。
「今すぐにとは言いませぬが、近い将来側室をお迎え下さい」
「……考えて、おこう」
今は炎暦寺との戦の最中なので明確な返事はしなかったが、側室の話はその内必ず再燃するだろう。
アワウミ、キョウサ、レイセン、イド、の四ヶ国の国守であり、北イゼの半国守の座を王へ上申している最中の俺に妻が一人なのは少ないと考える者も少なくないのだ。
北イゼの半国守の件はそろそろ決着するだろうと思っていた処に炎暦寺を包囲することになったので王も許可に二の足を踏んだ感じだ。炎暦寺め、ウザイ。
数日後、京の都から使者が俺の元を訪れる。使者は正三位権大納言でニバの国に所領を与えてやったキモナカ・オモテツジだ。北イゼの半国守の件か、それとも炎暦寺の件か、さて、何がでるやら?
「恐れ多くも王におかれましては此度の炎暦寺とカモン家の争いに心を痛めており、ソウシン・左近衛大将・カモンに速やかなる撤兵をとの意向でおじゃる」
ふむ、想定の内のことだ。しかし勅使でないのでこれは王の正式の命令ではないとも考えることができる。カモンの義父殿に確認をするべきだな。
「権大納言殿には態々京よりのお越し、ご苦労で御座る。されど撤兵は現時点では考えて居りませぬ」
「む、左大将殿は王の御心を蔑ろにされるおつもりでおじゃるか?」
「然にあらず、我が領内を通行する商人や旅人の身の安全を守るは国守たる我がカモン家の責務。されど、野盗が元坂の町を根城に商船を襲う事案が発生しており我らは炎暦寺に野盗の捕縛と引き渡しを要請しもうした。されど炎暦寺は野盗を放置しており仕方なく炎暦寺と元坂を包囲し野盗の封じ込めをしているので御座る」
俺は上座に座るキモナカ・オモテツジを見据え炎暦寺包囲の正当性を理路整然と申し述べる。
さて、キモナカ・オモテツジは何と言うかな?
「ならば何故数千人にも及ぶ僧を殺したのでおじゃるか?」
「僧?何を仰っておいでか?」
「炎暦寺の僧を殺したでおじゃろう?」
「おかしな事を申される」
「何?」
「そも、我がカモン家は炎暦寺や炎暦寺の荘園に一歩たりとも兵を入れては居りませぬ。僧を殺すなど言いがかりで御座ろう!」
キモナカ・オモテツジは俺の勢いに気圧されるも、何とか持ちこたえたようだ。そしてその額には汗が滲む。
「されど四月初旬に僧との戦闘がおじゃり、二〇〇〇人もの僧を殺しておじゃろう!?」
「権大納言殿が申される者どもは我が領内へ武器を所持し徒党を組んで押し入り我が兵に対し武力行為を行った者であります。その様な者を僧と言うのですかな?権大納言殿はそのような仏の教えに背くような者どもを僧と言うので御座ろうか?」
「む、むむむむ」
正論は時として最大の武器となる。しかし正論ばかりでは世の中は回らない。だから俺はキモナカ・オモテツジに譲歩をする。
「されど、権大納言殿には態々お越し頂いたのだ、手ぶらで返すのは忍びない。どうだろう、権大納言殿に炎暦寺との橋渡しをお願いしたい」
「橋渡しでおじゃるか?」
「左様、我がカモン家の要望は炎暦寺の武装解除、僧兵の追放、そして荘園の譲渡で御座る」
「な、そのような要望を炎暦寺が飲むはずがないでおじゃる!」
「そうでしょうか?そもそも僧兵なる者どもを養うのは炎暦寺が仏の教えを蔑ろにしている証拠であり、それを指摘すれば宜しかろう。そして荘園に関しては我がカモン家に返上して下されば毎年一万石の玄米と銭五千カンを寄進させて頂く事を約束致し申す」
最初に炎暦寺に荘園を返還したら一万五千カンの金を毎年寄進すると申し入れている。だが、商船を襲いカモン家の兵を動かした以上は当初の満額をやる気などない。
これで手を打てば良いが、長引けば長引くほど条件は悪くなっていく。
「権大納言殿の仲介の労には銭一千カンを進呈いたしたく思っており申す」
札束などないが、札束でキモナカ・オモテツジの横面を張る行為だが、このキモナカ・オモテツジは金の亡者だからウンと言うだろう。
案の定、キモナカ・オモテツジは銭一千カンにつられ炎暦寺との仲介に動く。もはや王の意向など無視して自分の欲の為に動く。
そもそも王の意向と言うが勅使ではない時点で王が本当にそう思っているかは分からない。王の威を借る何とかと言う輩だと考えて良いだろうが、カモンの義父殿には確認をしている。
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