第35話
ロイド歴三八八七年三月
アワウミを経由してキョウサへ入り新しい港の普請を見守る。
五月になれば完成するので新港をメインで使うであろう船の建造が佳境を迎えていた。
船はガレオンが良いだろうか?それともキャラックか?と考えた事もあるが名前しか知らないので何がガレオンで何がキャラックなのかさっぱり分からん。
今のワ国で使われている船で大きい船は安宅船でこの船では遠洋航海は向かないし、そもそも航海術がお粗末で遠洋に出るのは自殺行為らしいから大型で遠洋航海が出来、軍艦としてだけではなく、商業船としてベイロードも意識して船の設計をさせた。
流石に船の設計など俺には出来ないので船大工を全国から呼び寄せ設計図を描かせる。その設計図の中から気に入った物を基に俺が船を試作して航行試験を繰り返す。
試作した船が横からの高波で沈没した。安定感がイマイチだ。
試作は全て俺が創り出した世界で航行試験が行われる。この世界なら天候や波の高さまで全て俺の思うままだから航行試験が捗る。
流石に試作した船は両手の指の数を超えたが、問題点が分かりやすい様に小型の模型を創り水槽に浮かべるとその問題点を船大工たちに実際に見せ改善を指示する。
この模型が意外と好評で船大工たちは問題点が分かりやすいと言う。
そんな船大工たちの創意工夫もあって試作十三回目にして俺の航行実験に耐え得る船が出来上がったのが昨年の一〇月の事だ。
それから半年近く経ち船大工たちが完成させた船は三隻になるが、どれも設計通りと言えなかったので造り直させている。この造り直しも経験となるので妥協せず造らせる。
ロイド歴三八八七年四月
雪も融け陽が暖かい。今日は一日日向ぼっこでもしてノンビリ過ごしたいものだ。
「殿、今月の予算が余りましたので港町の開発に回します」
「うむ」
「殿、京の都に駐留していた軍と交代する為の軍がヤマミヤに入りました」
「・うむ」
「殿、大筒の開発が大詰めを迎えているそうです」
「・・うむ」
「殿、ヒメの国より優秀な駿馬を買い付け、現在アワウミへ向かって居ると報告が参りました」
「・・・うむ」
「殿、「今度は何だ!」」
「え、……あ、あの、ハル殿がお目通りを願っております」
「ん?ハルがか?……通せ」
暖かく良い日なのでノンビリしたいと思ってもこれだ。全く!
「何やら癇癪を起されたとか?」
開口一番がそれかよ。
「小姓が涙目でしたよ」
「……小姓には俺が詫びていたと伝えてくれ」
「それは構いませんが、何がありましたので?」
「暫く休んでおらなんだからな、それで気が立っていたのだろう、小姓には特に落ち度はない」
「まぁ、まぁ、それではこの話は後日にしましょうか」
何だよ、勿体ぶらずに言えよ。
「……聞きたいですか?」
「ハル、私にその様な意地悪をするのはお前位だぞ?」
「ほほほ、ソウシン様が私めの乳を美味しそうに飲んでおられた頃が懐かしいですね」
「私ももう直ぐ一七歳だ、その話は止めよ」
「はい、はい」
「ったく、で、話は何だ?早く話せ」
ハルは大層嬉しそうに俺の顔を見る。乳母だし俺が熱を出して寝込んだ時は寝ずの看病もして貰ったから頭が上がらないんだよな。
そう思っているとハルは深々と頭を下げる。何だ?
「おめでとう御座います。アズ姫様ご懐妊で御座います」
「……………………今、何と、言った、のだ?」
「アズ姫様ご懐妊と」
「お、おおお。デカしたぞ!何をしておる、アズ姫の所に行くぞ!早くしろハル」
気付いた時にはハルの手を引いて奥のアズ姫の部屋に向かっていた。
アズ姫の部屋の前まで行くと障子がスーっと開き三つ指付いたアズ姫が俺を迎えてくれた。
「デカしたぞ、アズ姫!」
「有り難きお言葉」
俺はアズ姫の前にドカッと座るとアズ姫の両手を取り顔を上げさせる。
「その様な格好で腹の子に障ったらいかん。うむ、起きていて大丈夫なのか?ハル、アズ姫に床を」
「兄様、アズ姫様は病気ではありませんよ」
「ん?ソウコも居たのか」
「ソウコも居たのか、って随分な扱いですね!」
「大声を出すでない、子が驚くではないか!」
「な!」
「お二人とも黙らっしゃいっ!」
ハルに軽く叱られ、そして病気ではないのだから床は不要だとまた叱られた。
その日はキョウサに居る家臣を集めアズ姫の懐妊祝いをした。久しぶりに心地よい酒が飲めた。
ロイド歴三八八七年五月
キンモチ・大納言・ホウオウ
アズ姫の懐妊の報を聞いたのが四月中ごろだった、丁度キョウサの新港の開港式典に呼ばれており旅の支度や祝いの品も揃っていたので出発を前倒しし急いでキョウサのカモン屋敷を目指したのだが、まさかここまで巨大な港を築いているとは思ってもいなかった。
婿殿が築いた新港は『嘉東港』と命名され、船が沖で入港を待ちわびている。
港町も真新しく、一等地にはカモン家とアズマ家の出入り商人であるミズホ屋とイズミ屋が店を構えている。どちらも京の都でさえないほどの大きな店だ。
「義父殿、どうですかな、この港は?」
「想像以上に巨大な港だ。今更ながらカモン家の財力に感嘆するの」
婿殿は満足そうな表情をする。あまり感情を表に出す男ではないので珍しいことだ。それほど気分が良いのだろう。
「この嘉東港が齎す富はどれ程でおじゃるか、麿などにはソウシンの考えは測れぬでおじゃるよ。ヌホホホ」
ワシがあの時ミズホに落ち延びていれば、今頃はワシが笑っておったかも知れぬ。いや、今更言ってもせん無き事だな。
それにワシも今ではカワウチの国を治める国守だ。二年前には考えも及ばぬことだ。それもこれもソウシン殿を婿に選んだワシの先見の明と自画自賛しておこう。
「ソウシン、あれは何だ?」
婿殿の実父であるキシン殿が何やら目を細め沖を見ている。ワシも見てみる……岩があるのか?ん?岩が動いた?何だ?
「父上は目が宜しいですな」
婿殿はあれが何か知っているようだ。
……間違いない。あれは動いている。ドンドンこちらに近づいて来る……あれは……まさか……船……なのか?
「あれは船かっ!」
「何じゃとあれが船だと言うのでおじゃるか?」
「何だあの大きさは……」
暫くして寄港するその船を見て開港式典に訪れた来賓や一般客たちから歓声があがる。
大きすぎるだろう。何だあの船は、以前に境の港で見た大安宅にも驚いたが、それよりも巨大な船体を見てワシは息をのむ。
「あれは『ヘル・シップ』と言う新造船です」
「あんな船まで建造しておじゃるか」
フダイ殿の呟きが聞こえてきた。いったい婿殿は何を目指しているんだ?
「あの船は海を渡り他国へ向かわせます」
「大陸にか?」
海の向こうにはこのワ国の国土よりも遥に広大な地が広がっていると聞く。婿殿はその大陸と……交易をするのか……まさか戦か?
「ホウオウの義父殿の仰る通り大陸と交易をします。故にホウオウの義父殿とカモンの義父殿に相談が御座います」
聞くのが怖いが聞かぬわけにも行かぬか。
ロイド歴三八八七年五月
嘉東港の開港式典を盛大に行い、その場で『ヘル・シップ』をお披露目した。皆驚いていたので船大工たちに無理を言った甲斐があったと言うものだ。
ヘル・シップは全長八〇メートル、全幅二三メートル、大筒を最大二〇〇門搭載できる巨大な船だ。帆は四本で縦帆と横帆を備えており船体は木だが防水加工と称してフジツボなどの貝類が付かないように特殊コーティングをしている。
現在はこれらのヘル・シップを五隻所有しており、更に四隻建造中で大筒も生産を急がせている。前世の歴史で徳川家康などが使った大筒のようなズングリムックリの形ではなく、砲身の肉厚が薄いスマートな大筒を作らせている。
これはミズホ鋼を使っているから出来る事であって他家には一切販売する事はない。
港の普請が終わったので次はこの嘉東の港を見下ろせる高台に城を築こう。港の守り用の城で、海軍の拠点となる城を築こう。
それにキョウサ街道のアワウミ側の高島城と港を改築してアワウミの物流拠点にしよう。
そうなると問題はアイツらだな。出て行って貰えないだろうな……攻め滅ぼすのは簡単だが、その後が面倒だから幾らでも金を恵んでやるので出て行って欲しいな~。
俺も前世の織田信長よろしくアイツらと戦う事になるのかな?
あ~、めんどい。
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