第34話
ロイド歴三八八六年一二月
久賀下城を包囲しているとホウオウの義父殿がカワウチの国を落としたと報告があった。そしてその直後にミナミ家から使者がやってきた。
「キミオキ・権大納言・ヒノコウジである。こちらはソウシン・左近衛大将・カモン殿だ」
「ミナミ家家臣、カクノシン・ハヤテに御座います」
ヒノコウジと俺が並列で上座に座り見下ろすは屈強な体つきであるがミナミ家の家宰として長くミナミ家を支えてきた老齢な男だ。
「権大納言様、左近衛大将様のご尊顔を拝し恐悦至極に御座います」
ヒノコウジは嬉しさを隠しきれないのか鼻をピクピクさせ時々眉尻が下がる。相当嬉しいようだ。
「して、何用にて?」
俺が言葉少なくカクノシン・ハヤテに用件を催促する。
「は、当家は王家への無礼をお詫びしたく権大納言様、左近衛大将様にお取次ぎをお願いしたく」
「王家へのお取次ぎ、相分かった。但しカワウチ、セツは召し上げ、レイセンも境は召し上げる。その上でご当主シュゼン殿は我らに同道を許す」
「……ははぁっ、主、
納得は行かんだろうが、我を通したミナミ家の末路だ。受け入れるしかあるまい。
このカクノシン・ハヤテとしてもこの程度は織り込み済みでやって来たのだろうし、ごね得なんてないのだから早々に手打ちにしたいのだろう。
ヒノコウジの名で停戦を他家に通達し、シュゼン・主馬首・ミナミを連れ立って京の都に帰還した。それ以前にカモンの義父殿には王家に対し根回しをして貰ったので停戦を受け入れた。
ミナミ家当主のシュゼンは隠居させ、その上で新当主をレイセンの国守代に任じ飴と鞭を使い分けた王だが、その陰には十仕家のコウブ家が動いている。まぁ、コウブ家を動かしたのはホウオウの義父殿とカモンの義父殿だし俺も一枚嚙んでいる。
コウブ家当主はイシキ家が京の都に攻め込んで来た時に怪我をした為に王とは別行動でイドの国に隠れていた。王が京の都に戻ると治り切っていなかったが、挨拶に昇殿しそれ以後は治療を理由に屋敷に籠る。そんなコウブ家の当主にはカモンの義父殿の姉、俺にとっては叔母にあたる方が嫁いでいるのでカモンの義父殿は十仕家の中でもコウブ家とは可成り親しく付き合いがあった。
ミナミを降し気分の良い王はホウオウの義父殿をカワウチの国守、ヒノコウジをセツの国守、俺をレイセンの国守とした。戦に出たニバ三家は所領も変わらず俺に借金ができ、更に農民を兵として徴兵しているので農民も損なって踏んだり蹴ったりだが、それはヒノコウジの様に向上心を持って戦に挑まなかった罰だろう。
まぁ、借金は向こう十年は利子も取らないとしているので三家は気軽に考えて居るようだが、十一年目からは三〇パーセントの年利を取るから放置すればするほど三家の首は締まって行く事になる。
ロイド歴三八八七年正月
何とか昨年の内に戦を終わらせることが出来たので今日は朝に新年の挨拶を受け、午後から新年会だ。
キシンもコウちゃんや側室たち、そして子供たちを連れて上京している。
先ずはカモンの義父殿が挨拶をし、続いてキシンが挨拶する。そして俺が挨拶して宴会が始まる。
アズ姫やコウちゃんも居るので最初は大人しいものだったが、夕方近くになり嫌がるソウコを連れて女性陣が下がると何時ものドンチャン騒ぎが始まった。
家臣たちはカモンの義父殿、キシン、俺の順で酒を注いで回る。二人は何とか家臣たちの酒を全て受けたが轟沈した。
今年は元服したフジカネ(幼名フジオウ)も参加しているが、2人の次はコイツを潰そう。大人の階段を上るのだ!
予定通りフジカネを潰すと次は俺に挑む強者を募集する。俺に挑むと言っても飲み比べはしない。
大盃を持ってこさせ俺の前に置く。今回は四升の酒が入る特大だ。以前の三升用で二人も飲み干しやがったので作ってしまった。
「分かっておろうが、この盃の酒を飲み干した者には先のミナミ家の戦で私が帯刀した『ミズホ鋼の野太刀』か『六鋼板当世具足』を下賜するぞ!」
『おおおおおおっ!』
アズマ家、カモン家の家臣が入り乱れて大盃のミズホ酒を飲み干そうと俺の前に現れては消えて行く。一〇人ほどが消えて行った所で動きが無くなる。
「どうした?もう居らぬか?」
そして動いたのが本命の一角、ヒョウマだ。アズマ家の二酒豪の一人で、俺が初めて参加した宴会で俺に対抗し最後まで残った二人の内の一人だ。
「いざ!」
掛け声をかけグビッ、グビッと喉を鳴らしミズホ酒を胃袋の中に流し込むヒョウマ。時々息継ぎをしながら飲み進めて行く。おお、もう少しだ。バタン!倒れた。残念。
「ヒョウマは残念だった。あと一息だったのだがな。……他には居らぬか?」
「おうっ!」
「クロウか、真打登場だな!」
クロウはアズマ家随一の酒豪だ。俺がカモン家の家督を継いだから一応はアズマ家ナンバーワンの酒豪の座に収まっている。
クロウは大盃を両手で持ち上げるとそれをズズズと口の中に吸い込んでいく。良い飲みっぷりだ。流石はクロウ!後半勢いは衰えたものの全てを飲み干しドヤ顔のクロウが俺を見つめる。
「流石はクロウ!さぁ、どちらが良い?『ミズホ鋼の野太刀』か『六鋼板当世具足』か?」
「どちらもいり申さん!ただ、ソウシン様の書が頂きたい!」
「私の書?」
「『天下第一の酒豪』、書をお願い申し上げる!」
「……はははは!クロウの心意気、天晴である!書は必ず贈ろう、これを持って行け!」
俺は手に取りやすい『ミズホ鋼の野太刀』を手に取りクロウに渡してやった。クロウは書を頂くからと断ってきたが、それはそれ、これはこれなので『ミズホ鋼の野太刀』を贈った。
「さて、他には居らぬか?」
クロウが感無量で涙を流しながら下がって行ったので次の挑戦者を募集するとスクッとキザエモンが立ち上がる。
「クロウ殿ばかりに酒豪の称号は与えませぬ!」
何時もクールなキザエモンが燃えている!
「良く言った、飲むが良い!」
キザエモンもクロウに負けじと飲み進めて行く。途中かなり苦しそうな表情をするが最後まで気力を振り絞り飲み干す。
「カモンの家にキザエモン在り!『六鋼板当世具足』を与える!」
「私にも書を頂きたく!」
「分かった!クロウと共に贈ろう!」
それを聞くとキザエモンはぶっ倒れた。その顔はニヘラとだらしない顔だった。
キザエモンを最後に大盃に挑戦する者は現れなかったが、宴会は楽しく終わって行った。
ロイド歴三八八七年一月
俺はカモンの義父殿とキシンと連れ立って昇殿した。王に新年の挨拶をする為だ。
「昨年の左大将の働きは見事であった。フダイは良き子を迎えた。そして左京大夫よ、良き子を育てた」
「有り難きお言葉に御座いまする」
代表してカモンの義父殿が応え、俺とキシンは「はははー」と頭を垂れるだけだ。その後はカモンの義父殿が全て受け答えしてくれるので終わるのを待つ。
数日後、キシンがミズホに戻って行った。コウちゃんたちも一緒に戻ったが何故かソウコが俺の元に残った。
キシンは相当反対したがコウちゃんたちが間に入っておさめキシンは泣く泣く帰って行った。
「父上が涙目だったぞ」
「だって、アズマの家は退屈なんですもの。やつぱり兄様の傍の方が面白いじゃないですか?」
ミズホの国の大平城に居るとキシンが蝶よ花よとチヤホヤするからウザいのは分かるが、それが親ってものじゃないか?
キシンが帰ってからはソウコは水を得た魚のように羽根を伸ばした。ミズホに居た時はキシンの目があったので出来なかった鉄砲の射撃訓練を毎日欠かさず行い、最新式の鉄砲をアッと言う間に使い熟した。
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