第30話
ロイド歴三八八五年一一月中旬
「間違いないでおじゃる」
「我らは兵部卿様とのお約束をお守り申した。兵部卿様にも」
「分かっておる。このソウシン・カモン。約束は守る。だが、キョウサの各城の受け渡しに抜かりがあれば分かっておろうな?」
イシキ家当主だったカンキチの首をアサクマ家に身を寄せている王家に届けることと並行して念願のキョウサの各城を貰い受ける為に俺はキョウサに進軍し、それぞれの城主は抵抗もなく俺に城を明け渡した。
イシキ家の石高が一気に半分どころか四分の一になってしまったし、交易の窓口であるキョウサを俺が押さえたことでイシキは家臣に知行を保障できなくなった。そこで登場するのが俺だ。
イシキ家の家臣でニバの国とキョウサの国に知行地を持つ家臣で俺に仕えたいと言うものが居たら受け入れることにしており、そこそこの数が俺の家臣になった。
京の都は王家を迎えるには耐えられないほど荒れていたので本当はキョウサを開発したかったが、京の都を再建することに金銭を惜しみなく投入した。
ロイド歴三八八五年一一月下旬
王がホウオウの義父殿を始め他の十仕家を引き連れて焼け野原になった京の都に向かったと連絡があった。早すぎるって!
仕方がないので京の再建はキザエモンやシゲアキに任せ俺はアワウミの国でカモンの義父殿と王を待つ。
アサクマが治める国は来月になれば雪が降り雪で閉ざされる為、王の護衛もアワウミまで来たらトンボ返しで戻って行った。
「ソウシン・兵部卿・カモンに御座いまする」
「そちが、中納言の跡取りであるか。まだ若いの、幾つになるか」
「は、一五に御座いまする」
「うむ、此度の働き大義であった」
ほんの少し言葉を交わすだけで俺は下がった。後はカモンの義父殿が全てやってくれるだろう。
そしてもう一人、俺の義父が居る。
「始めて御意を得ます。ソウシンに御座いまする」
「そう畏まらなくても良いぞ。ワシは堅苦しいのは好きではないからの、婿殿」
「はい、有難う御座いまする」
「それにしても此度の働き真に天晴で御座った。アズ姫を婿殿に嫁がせて正解であったわ! アズ姫は元気にしておるか?」
「はい、七月に出陣しました故、最近は顔を見ておりませぬが、手紙では変わりないと聞いております」
「そうか、今後もアズ姫のことを頼みましたぞ、婿殿」
ホウオウの義父殿はカモンの義父殿とは違いおじゃる麿ではなかった。眉毛も普通だったので十仕家全てがカモンの義父殿のようなわけではないようだ。
最近は慣れたので笑いを普通に堪えることができるが、最初は笑いを堪えるのに必死だったからホウオウの義父殿が普通の見た目で助かった。
ロイド歴三八八五年一二月上旬
何とか御所だけは再建して王を迎えることができた。十仕家の屋敷の再建に俺の屋敷の建築を急いではいるが、御所再建で職人たちに無理をさせたのでここは職人のペースで良いと言っておいた。
御所に王が入って早々、俺はアワウミの国とキョウサの国の国守に任じられ、従三位左近衛大将、兵部卿となった。近衛の最高位なので宮中には自由に出入りができるし、警備も俺の役目となってしまった。面倒臭い。
他に俺の部下やアズマ家にも官位官職が贈られた。
シゲアキ・マツナカは正五位下左近衛少将。
コウベエ・イブサは従五位下侍従。
キザエモン・クロサキは従五位上主計頭。
ダンベエ・イズミは従五位上左衛門佐。
コウザン・イブキは従五位上右衛門佐。
エイベエ・イズミは正六位下兵部大丞。
ゼンジ・ウエムラは正七位上左衛門少尉。
リクマ・ナガレは正七位上右兵衛少尉。
ダイトウ・タナカは正七位下少監物。
コウタロウ・カザマは正七位下玄蕃大允。
そしてキシンには従四位下左京大夫が贈られた。
「某の様な者にまで官位を頂けるとは、このコウタロウ・カザマ、改めて殿に忠誠をお誓い申す!」
「このダイトウ・タナカ、これまで以上に殿の御為働かせて頂きまする!」
「お前たちの忠勤は分かっておる。今回の叙任はこれまでの忠勤に対する褒美だと思ってくれ。これからも頼むぞ」
『ははぁぁぁ!』
今回の戦の褒美として王から官位を頂いたので家臣を集め宴会をしている。
忍者の地位は低いので官位を貰えるとは思っていなかった二人は感極まり泣き出してしまった。こいつら泣き上戸か?
相変わらず家臣たちは俺に酒を勧めてくるが、俺は全ての酒の酒精を分解し只の米水に変えて飲む。それと家臣は俺の側近ばかりではない。イシキ家から俺に降った者やハッカク家から降った者もいるので毒には気を付けている。何れにしろ只の米水に変えてから飲んでいるので問題はない。
「婿殿、この味噌田楽というのは旨いのぉ」
「ホウオウの義父殿のお口に合い祝着でございまする」
ホウオウの義父殿は焼き豆腐に味噌を載せた味噌田楽焼きが気に入ったようだ。大豆から作れる豆腐も最近は商品にしているが、豆腐は味噌や醤油と違い足が早いので現地生産をさせている。
「ほほほ、ソウシンは珍しい食材を考案するのが好きなようでおじゃる」
「食が豊かになりますれば人は自然と笑顔になりまする故、私は妥協は致しませぬ」
「ほほほ、頼もしい限りでおじゃる」
カモンの義父殿はすっかり出来上がっており、頬だけではなく、鼻の頭も真っ赤になっている。
「殿、ささ一献!」
「ダンベエ、私を潰そうとしても無駄なことだぞ」
「ははは、そのようなことは致しませぬ! このダンベエ、殿の寝顔が見てみたいだけで御座る!」
それを俺を潰そうとしている、って言うんだぞ。逆にお前を潰してやる!
俺は返盃に大きな盃を取り出しダンベエに渡すとナミナミと酒を注いでやった。顔が引き攣っていたが、ダンベエは何とか大盃の酒を飲み干すとそのまま後ろに倒れた。
まぁ、三升は酒が注いであるから飲み干しただけでも褒めてやろう。
「誰か、ダンベエを奥に運んでやってくれ。他にこの盃を飲み干す自信が有る者は居らぬか? 飲み干してなお意識を保っていた者にはソウシン愛用の太刀を褒美として与えようぞ!」
俺の後ろに置いてあった『ミズホ鋼の野太刀』を右手で掲げて宣言をすると「おおおおお」と皆が声を挙げる。盛り上がってまいりました! ヒャッホー!
最初は旧ハッカク家家臣だった者で半分ほど飲んでぶっ倒れた。次は旧イシキ家の家臣でこいつは飲み干した瞬間に白目を剥いて倒れた。そんな感じで五人がぶっ倒れると流石に皆腰が引けて来た。
そこに現れたのがキザエモンだ。こいつアズマ家ナンバーツーの座を密かに狙っていた酒豪だ。勿論ナンバーワンは俺だ! 反則したって分からなきゃ良いんだよ!
「お、キザエモンか。真打登場だな!」
大盃をキザエモンに渡しナミナミに酒を注ぐ。さぁ吞め、一気に吞め! わっしょい!
「しからば!」
キザエモンはグビッ、グビッと喉を鳴らしながら大盃を少しずつ傾けていく。やっぱアズマ家ナンバーツーの座を狙っていただけある。「ブッハー」と大盃から口を離したキザエモンは流石に苦しそうだが、しっかりと俺を見据えている。
「でかした! やはりキザエモンは酒豪である! 愛用の『ミズホ鋼の野太刀』を贈ろう、受け取るが良い!」
「有り難き幸せ!」
『ミズホ鋼の野太刀』を受け取るとソソクサと下がり座ると貰ったばかりの刀を抱えながらニタニタする。普段はしかめっ面ばかりしているキザエモンがニタニタしていると気持ち悪い。いや本当勘弁してくれってほどキモイ。
「他には居らぬか? 我が愛用の『ミズホ鋼の野太刀』はキザエモンに贈ってしもうたが、次に飲み干した者にはこの扇子を与えようぞ!」
俺は手元に置いていたやや小さめの金の扇子を掲げる。見た目通りの純金製の扇子だ。小さいけど全部純金で出来ているのでかなり重い。見た目重視で創ったけど重いので普通の扇子に変えようかと思っていたんだ。
「どうした誰も居らぬのか?」
「それは奴隷でも良いのか?」
「ん? ソナタはソウエモンだったか?」
「ああ、ソウエモンだ」
「これ! 殿に向かって何という言葉遣いだ!」
「構わん、酒の席のことだ。それと奴隷であっても約束は守ろう」
このソウエモンは六人の冒険者奴隷の一人で【剣闘士】の男だ。他の奴隷たちが引き止めるのを振り切りソウエモンは俺の前まで来てドカリと腰を降ろすと大盃を手にする。
「うむ、しっかり飲むのだぞ」
ナミナミと酒を注ぎ切った俺はソウエモンに呑むように促す。ユックリとだが着実に酒を胃袋に納めていくソウエモンは途中飲むのを止めたものの最後まで呑み切り、虚ろな目で俺を睨む。
「でかした! 扇子を贈ろう!」
俺の手から扇子を受け取り他の冒険者奴隷が居る座まで下がった処でぶっ倒れたソウエモンに俺は拍手を送っておいた。ソウエモンを気遣う冒険者奴隷の仲間たち。その中で一人だけソウエモンを介抱すること無く俺を見据える魔法使いの女。
俺を恨んでいるとかではない、だけど気を許しているわけでもない、その視線を俺は振り払う。
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