第31話

 


 ロイド歴三八八六年一月中旬


 キシンが官位を贈られたお礼言上の為に京の都を訪れた。キシンも昨年ミズホを統一を成したのでこれで晴れてミズホ国守として堂々と参内ができる。

 因みにミズホはブゲンの大叔父殿に任せてきているそうだ。


「父上、お久しゅう御座います」

「うむ、ソウシンも変わりないな?」

「はい、この通りです」


 ソウシンと一通りの挨拶をした俺は同道してきたコウちゃんとアズ姫に視線を移す。


「母上、お変わりなく、相変わらず美しゅう御座います!」

「まぁ、母親を捕まえて何という挨拶ですか! 一体誰の影響なんでしょうか?」

「ははは、アズ姫も変わりないか?」

「はい、御父上様、御母上様に大層良くして頂いておりました」

「そうか、そうか! 京にはホウオウの義父殿も見える故、後ほどお会いすると良いぞ」

「お心遣い有難う御座いまする」


 さて、問題は次の三人だ。

 ソウコは良い。ドウジマルも良い。何でフジオウまで居るんだよ。そんなに睨むのならミズホで待っていれば良いだろうに。


「フジオウ、ソウコ、ドウジマル。皆息災だったか?」

「はい、兄様も大変出世されたよし、おめでとう御座います」

「うむ、ソウコは少し見ない内に一段と美しくなったな。京の貴族共が放っては置かぬぞ」


 いやだ~、と言いながら俺の腕を抓るなよ。


「兄上、いつミズホに帰って来ますか?」

「うーん、ミズホには簡単には帰れぬ。ドウジマルには寂しい思いをさせてすまぬな」


 嫌だ、と駄々をこねるドウジマルは相変わらず可愛い弟だ。


「ふん」


 さいですか、俺もお前にかける言葉はないが、キシンの手前もあるし大人の対応をしてやろう。


「フジオウ、いや、フジカネと改名したのだな。フジカネ・右少史・アズマ! おめでとう!」


 フジオウは一三歳で元服しフジカネと名を改めた。そして俺が王家を京に迎えたこととほぼ同時だったのもあり官位官職が贈られたのだ。おめでとうと言って力を込めて肩を叩いてやった。涙目になるな、お前は戦闘職だろうが!


 その後はカモンの義父殿に挨拶をするキシンに皆がゾロゾロと付いていく。同じ敷地に内に住んでいるのだが、屋敷が広過ぎて歩くのも大変だ。

 これでも取り敢えず居住スペースを確保しただけなんだけどね。

 カモンの義父殿は満面の笑みで皆をもてなしてくれた。その後、キシンとフジカネとアズ姫を連れてホウオウの義父殿の屋敷に向かった。コウちゃんとソウコ、ドウジマルはお留守番だ。


「キシン・左京大夫・アズマで御座います。これは次男フジカネに御座います」

「キシンが息子、フジカネ・右少史・アズマで御座いまする。以後お見知りおきをお願い申し上げまする」

「キンモチ・ホウオウで御座る。堅苦しいのは好かん故、楽にしてくだされ」

「父上様、御久しゅう御座います」

「うむ、アズ姫良く参った」


 挨拶もそこそこにホウオウの義父殿は宮中のことをお話下さった。

 宮中では俺が力を持ち過ぎていると王に献言する十仕家がいるそうで、カモンの義父殿が心配していた状況になっているそうだ。


「それはカモンの義父殿とも相談しておりました。ヤマミヤの国を王家にお返しするのは無論のこと、更に十仕家の内四家にはニバの国を四つに分け献上することにしておりまする」

「ナント! それは本気ですかな、婿殿……して四家とは? 我が家とカモン家は除くとして、断絶中とイシキ家に組した家を除くとしても一家少ないと思うが?」

「今回はコウブ家を除いております。そしてホウオウ家にはアワウミに領地を用意いたします。故にホウオウの義父殿には他の十仕家にニバの国を与える旨を王にお許し頂くようにご助力願いたいのです」

「なるほど、コウブを……ははは、相分かった。しかし婿殿は気前が良いのぅ。ヤマミヤの国を王家にお返しするだけではなく、何の功もなかった我ら十仕家にも領地をくれるとは、気前が良すぎる気はするが、あの者たちを黙らせるにはこの上ない鼻薬よ。ははは」


 キシンとフジカネもそうだが、アズ姫も唖然としている。折角苦労して手に入れたニバの国を手放すのだから当然か。ニバの国の石高は二八万石なので四当分すれば一家当たり七万石が棚から牡丹餅状態だ。普通に考えれば手放すのが惜しい石高だ。数年前のアズマ家なら喉からが出るほど欲しかっただろう。


「さて、他の十仕家のことはそれで良いとして……」

「ミナミですな」

「うむ、ミナミはこの京の都を焼き払った張本人であり未だに参内し申し開きもせぬ不埒者である。王もえらくご立腹されておる故、秋の頃には討伐の勅令が発せられる可能性がある」


 分かってはいた。分かってはいたんだが、折角戦いが終わったのだから、解放してくれても良いじゃん。気に入らないのなら自分で兵を率いてミナミを討伐すれば良い、とは言えないな。


「できれば今年は出兵を避けて頂きたい。欲を言えば数年はそっとしておいて頂きたいのですが」

「無理だろうの……」

「アサクマ家は動かないのでしょうか?」


 俺たちの話にキシンが割り込んで来た。ホウオウの義父殿は首を横に振る。


「王はアサクマとニシバタケを動かそうとお考えのようだが、アサクマは京の出来事には不介入であろう。あの家は自分たちを守るのに力を注ぎ込んでおる故な」

「北ですかな?」

「北もそうだが、家中が纏まっていないのだ。当主や当主ではなくても一族が京に出兵すればこれ幸いと簒奪を企む一族衆が多過ぎる」

「何とも……」

「イゼの国のニシバタケも当てにはできぬし、結局婿殿にお鉢が回ってくるであろうな」

「私にお鉢が回ってきたとしてミナミを降らせた後、我が領地が増えたのをトヤカク言われるのは全くもって不本意なれば義父殿にお力添えをお願いしたい」

「ワシにか? して、どのような?」

「カモン家は十仕家にござる。ミナミ家討伐のご下命あればホウオウの義父殿にも兵を率いて頂きたい」

「ワシにか? ……なるほど、そういうことか。カモン家とホウオウ家、十仕家の二家が戦場に赴くとなれば領地を持つ四家も戦場に赴かねば面目が立たぬな」

「そ、ソウシン、それは……」

「ふっ、はははは。十仕家を矢面に立たせ領地を持つ十仕家全てでミナミに対しようと言うのだな?」


 ホウオウの義父殿が話が分かる方で良かった。


「他の十仕家も領地持ちの貴族なれば自分たちでミナミを降せば宜しかろうと存じます。さすれば他の十仕家の領地も増えましょう」

「相分かった、婿殿に出兵の勅令が発せられるとなれば、王にはそれとなく耳うちしましょう。くくく、はははは。面白くなってきたのう!」






 ロイド歴三八八六年二月上旬


 カモンの義父殿には京の都の再建を任せ、ホウオウの義父殿には宮廷工作を任せることにして俺はアワウミに居を移したいと二人に相談した。

 ハッキリ言ってアワウミとキョウサの二国を統治する者として京の都に掛かりっきりになるのは好ましくないと思う、と言う理由だ。勿論、二人が困らないように金は送る。


「婿殿の言は尤もだ。王には私からお伝えしよう」

「兵は常駐させてくれるのでおじゃるな?」

「コウザン・右衛門佐・イブキに一五〇〇〇の兵を任せ京の都周辺の警備に当たらせます」


 京の都の郊外にこれまでもカモン家の兵が駐留していたので、数は減るがそのまま駐留は続ける。


「ならば安心でおじゃるな。折角再建した京の町を再び焼くわけにはいかぬでおじゃる故にのぅ」

「右衛門にはミナミの動向に注視するように命じておきますればご安心を」


 四月になればキョウサに赴き船を造ろうと思う。それまではアワウミの水上輸送用の船も造って、そうだキョウサの港からアワウミに繋がる道の整備も必要だな。やることが一杯で困るよ。戦何てしている暇はない。


「そうじゃ、例の話、上手くいったぞ。他の十仕家は喜んでニバの国を貰っていったわ」

「ほほほ、毒饅頭とも知らぬは何とやらでおじゃるのぅ」


 二人は悪い笑顔だ。


 暫くして俺はアワウミの高島城に居を移した。この高島城からキョウサ街道が伸びておりキョウサで陸揚げされた産物はこの高島城の城下で船に乗せ換えられて南アワウミで陸揚げされ陸路で京の都に産物を運んでいる。

 だから港の整備と道路の整備、そして領内の関所の廃止を行ってキョウサの物量を増やしてやるつもりだ。


 

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