第28話
ロイド歴三八八五年八月下旬
六陽城を包囲して一ヶ月以上が経過した。奴らは引き篭もって城から出てこないのでそのまま包囲を続け補給を潰している。そろそろ奴らも限界が近いだろう。だが、まだ攻撃はしない。九月に入って日中の温度が下がって過ごしやすくなってから動いても良いだろう。
だけどカモンの義父殿はヤイノヤイノと俺を急かしてくる。義父殿としては早く京の都を取り戻したいのであろうが、無理をしたくないのでユックリと六陽城を包囲してハッカクが自滅するのを待つ。
ロイド歴三八八五年九月上旬
六陽城に立て篭もるハッカクは限界を迎えているようだ。毎日のように兵が逃げ出してきており保護をしているし、中にはそれなりの身分の者も居る。
そしてその身分が高い者から齎された情報によるとハッカクは起死回生を狙い冒険者を雇ったそうだ。冒険者六人に大枚一〇〇〇カンを払うらしい。
冒険者の仕事は魔物の討伐がメインで有名処の冒険者は年間数千カンを稼ぎ出すと言う。確かに魔物の部位がオークションに出品されると落札する為に多くの商人や貴族が競るので価格が天井知らずに上がるとミズホ屋やイズミ屋から聞いたことがある。
そんな冒険者を雇用するには最低でも一〇〇〇カンが必要だったのだろう。
このワ国で魔物が生息している地域はそれほど多くはない。ミズホには魔物の生息域はないが近場では京の都があるヤマミヤの国に一ヶ所ある。だから京の都には冒険者が多く居たらしいのだが、今は京の都が焼け野原になっているので方々に散っているとのことだ。
「さて、冒険者を雇ったとなると一筋縄では行かぬでしょうな。何かしらの対策を考えておかねばなりますまい」
「冒険者というのはそれ程危険な者なのか?」
「大枚一〇〇〇カンも支払う冒険者であれば恐らく上位の者たちとなりましょう。そんな上位の冒険者が狩る魔物は一般兵が攻撃しても皮を僅かに傷つける程度で致命傷を与えることができませぬ。戦闘職でも高位の職業で高レベルの者でなければ魔物に致命傷を与えるどころか生き残れないでしょう」
「高位と言うとダンベエの様な『闘槍士』のようなものか?」
「はい、ダンベエ殿の『闘槍士』は『槍士』の高位職となります。他に『魔法使い』も必要だと言われております」
お、魔法使いに会えるのか!?
「『魔法使い』というのはそれほど強力か?」
「魔物討伐において『魔法使い』の居ない討伐はあり得ないと言われるほどに」
シゲアキ・マツナカとコウベエ・イブサが交互に俺の質問に答えて表情を曇らせる。
「当家も冒険者を雇えば良いのではないか?」
「冒険者と言われましてもピンキリで御座いまして、ハッカクが雇った冒険者に対抗できうる冒険者となると簡単には雇用できますまい」
「ならば仕方あるまい、冒険者を見たら無理をせず後退をさせよ」
「しかしそれでは包囲が崩れてしまいまするが・・・」
「構わん。死ぬと分かっているところに兵を留めるような愚は犯すな。まぁ、贅沢を言えば鉄砲隊の射程に引き込んで十字砲火で殲滅したい所ではあるがな」
「了解しました。その様に手配致しましょう」
それから三日後に冒険者による被害が報告された。
冒険者によって開けられた包囲網の穴によって補給物資が六陽城に運び込まれたようだ。そしてその日から毎日のように冒険者による被害の報告を受けることになる。
だからではないが、冒険者という者たちがどれほどの者か見てみたい。有用なら冒険者からも積極的に登用を考えよう。
「なりませぬ! 報告にある冒険者は何れも手練れで御座いますれば危険この上ない者たちで御座いまする!」
「そう目くじらを立てるでない。安全な場所から見るだけだ」
「・・・では、もう暫くお待ち下れ。冒険者どもの殲滅をご覧いただけましょう」
止めるシゲアキ・マツナカに対し殲滅戦を俺に見せてくれると言うコウベエ・イブサ。どうやらコウベエ・イブサには冒険者たちを罠にかける算段がついているようだ。シゲアキは「まったく」などとブツブツ呟いているので許してくれたのだろう。と勝手に解釈しておこう。
翌日、俺はコウベエに連れられて陣を離れる。コウベエに暫く待つようにと促されて三〇分ほど待つと少し離れた場所が騒々しくなる。どうやら冒険者が現れたようだ。
コウベエは良く見える場所を用意してくれたようで、少し小高い丘の上に俺は陣取って双眼鏡を覗く。この双眼鏡は俺が創り出したこの世界ではオーパーツになるだろう物で遮る物がなければ一〇キロメートル先の物でもかなり詳細に見ることができる物だ。
「ほう、あれが冒険者か?」
「左様で御座いまする。あの者どもは京の都でも最上位の冒険者で『巨人の剛腕』というパーティーだと調べがついております」
ほう、パーティー名まであるのか、ファンタジーぽいなぁ。
双眼鏡の先では槍を持った背の高い男が一度に四人の兵を薙ぎ払うのが見えた。馬鹿力だ。更に大きな盾を持った縦にも横にも大きい男が右手にもった斧で兵を真っ二つにしている。スプラッターだ。
他に四人の冒険者の姿が見える。合計六人のパーティーだ。その内、二人は女性で一人は魔法使いなのかマントを羽織って杖を持っている。
パーティー構成としては【剛槍士】【盾斧士】【狩人】【剣闘士】【薬師】【風魔法使い】の六人だ。バランスは良いように見える。魔法使いに回復職もいるし、盾に剣、槍に弓、綺麗に纏まっていると言えるだろう。それに【剣闘士】が後衛を守るように立ち回っているのも好感が持てる。
しかも【風魔法使い】の放つ風の刃はよく切れる。見えない刃で兵士の胴体が腰から上下に別れてずり落ちる。こいつら一切手加減なしだ。
「どれほど高名な冒険者なのだ?」
「恐らく年間一五〇〇〇カンは稼いでおります。某より遥に金を稼いでおりまする」
最後にははは、と小さく笑うコウベエ。それは無視しよう。功を上げればもっと稼がせてやるさ。
「ほう、それほどか。して、どのように収拾をつけるのだ?」
「そろそろで御座いまする。実際に見て頂ければと」
俺はコウベエに促されるまま双眼鏡を覗き込む。
冒険者たちは兵たちを追い立てる。何時ものように魔物を狩っている感覚なんだろうな。だけどこれ対人戦なのよね、魔物のようには行かないと思い知らせてやりたいな。
「かかり申した」
コウベエは一言呟くと冒険者が倒れた。その次の瞬間、バババーンと数十丁もの鉄砲の発砲音が鳴り響いた。俺が居る場所からそこそこ離れているので音が後から聞こえたようだ。
倒れた冒険者に兵が殺到する。止めを刺すのかと思ったら手には縄を持っている。どうやら生け捕りにするようだ。前衛の物理担当たちはかなり抵抗しているが、後衛はそれほど抵抗もせずに縄をうたれていた。
鉄砲の鉛玉を何発も受けて尚生きている彼ら、そしてそれでも抵抗を止めない前衛たち。レベルが高い為にHPが高いこともあるのだろうがこいつら本当に人間なのか? てか、人のことは言えないな、と思わず苦笑いをする。
「どうかされましたか?」
「いや、何でもない」
その二時間後には俺の前に冒険者六人が雁首を揃えていた。
「キザエモン、この者どもの罪状を述べよ」
「は、その方らはカモン家家臣五七名を殺害し、一六九名に重軽傷を負わせた」
「それでは死罪か?」
「は、六名全員死罪が妥当で御座います」
鉛玉を何発も食らったのだ、生きているのも不思議ではあるが、言い返す力はないようだ。魔法使いに関しては詠唱ができないように猿轡もされている。
「では、首を撥ね見せしめとして六陽城の門前に晒すとするか」
「んんんんんん!」
猿轡をしている魔法使いが何か言いたいようだ。鉛玉を三発しか食らっていないので他の者と比べると軽傷の部類なので話すだけの力があるのか、まぁ、最後の言葉くらい聞いてやろう。但し詠唱を始めたら直ぐに首を撥ねることが出来るように抜刀した部下を配置する。
「命だけはお助け下さい!」
ここまでしておいて命を助けろ、か。如何しようかな? シゲアキとコウベエの顔を見る。
「助けるにしても無条件では話になりますまい」
「マツナカ殿の仰る通りで御座いまする」
「ではどうするのだ?」
俺の意見を通す必要がある場面なら兎も角、そうで無い場面では家臣の意見を聞き決断するのが俺の役目だ。
「左様ですな……この者どもには死傷者への賠償とカモン家へ弓を引いた罰金を科しましょう」
「そうで御座るな。死んだ者の家族にも生きる為の金が必要で御座る故、精々高額の賠償を請求しましょうぞ」
こいつら悪い顔をしている。この冒険者たちの尻の毛まで抜こうと考えて居るようだ。
「賠償金の額はどの程度であるか?」
「そうですな、一人当たり一〇〇〇〇カンで宜しかろうと」
シゲアキが即答しやがった。しかも一〇〇〇〇カン何ていくら何でも多すぎるだろうと俺でも思う金額だ。
「そ、そんなにっ!」
金で片が付くと思って魔法使いだけではなく他の冒険者も顔が少しホッとしていたが、シゲアキから金額を聞かされて真っ青になった。
「払えぬと言うのであれば死罪に処せばよろしかろうと存じまする」
コウベエもシゲアキに乗っかって冒険者たちをいたぶる。こいつらSだ!
「一人につき一〇〇〇〇カンの支払いを命ずる。払えぬ場合は死罪と処する」
「そ、そんなっ!」
いくら稼いでいる冒険者と言えど、一〇〇〇〇カンの蓄えがあるとは思えない。冒険者たちの顔を見ていてもそれが分かる。まぁ、五〇人以上殺したのだからこの程度の恐怖は与えても良いだろう。俺も人のことは言えないので、これは俺が負けて捕まってから味わう恐怖だと肝に命じておこう。
「一〇〇〇〇カンは働いてお支払い致しますので、どうか死罪ばかりはっ!」
俺が手を差し伸べてやろうと思っていると魔法使いが自分から働くと言ってきた。
「ふむ、一〇〇〇〇カンは払えぬか?」
「そんなに蓄えがありません! 武具・防具に家財を売り払ってもそんなには用意できません!」
分かっていたから殊更驚くこともない。だがここで金額を下げては冒険者たちが俺を甘く見るだろうから下げもしない。
「であるか。……ならば奴隷しか生き残る術はないぞ」
こうして彼ら冒険者六人は俺の奴隷となったのである、めでたし、めでたし。
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