カモン家継承と上京
第26話
ロイド歴三八八五年七月
俺は正式にカモン家に養嗣子となり即日家督を継いだ。そして北陸のアサクマ家に身を寄せていた王から正四位下兵部卿が贈られることになり王からの使者が大平城を訪れた。
兵部卿っていうのは軍事関連の長官の様な役職で、日本で言う防衛大臣のような役職だ。その為、俺が統制する軍は全て王の軍であると言う事らしい。尤もらしい理由が付けられてしまった俺はドンドン逃げ道が無くなって行く。
俺の官位官職は元が従六位上兵部少丞だったので正四位下兵部卿になれたのは大出世だし、義父となった伯父のフダイ・カモンが中納言を辞すれば俺は自然と中納言に昇格するそうだ。
そして俺の直臣にも官位が送られているので最早官位のバブルだ。
氏名:ソウシン・カモン
年齢:一五歳(ロイド歴三八七〇年五月五日生まれ)
性別:♂
身分:十仕家カモン家当主 正四位下兵部卿
職業:【神生産師】レベル一二(三八七〇/一二〇〇〇〇)
能力:HP二一〇〇/二一〇〇、MP一〇五〇〇/一〇五〇〇(一〇五〇〇〇〇/一〇五〇〇〇〇)
スキル:【神眼】【神生産】【神育成】【神探索】【MP神補強】【神人形生成】【世界創造】
レベル一〇:【世界創造】任意の空間に世界を創造する。その世界は作成者の意志によって詳細が定められ消費したMPにより規模や条件に変動がある。また、作成後も修正が可能。
スキルの方もバブリーだぜ。
この【世界創造】によって創り出した空間はアイテムボックスのような空間から人が住める世界のような空間まで創れるのが分かっている。実際に試して恐ろしいほどのスペックだと言うのは良く分かった。
最近はこの【世界創造】で創り出した小さな世界を改修して膨大なMPを消費させている。ぶっちゃけMPが多過ぎて【神眼】【神育成】【神探索】ではMPを使い切れていないのだ。
だからと言って【神生産】や【神人形生成】は簡単に使えない。
【神生産】はMPを消費すれば何でも創れそうだが、だからと言って何でも創ってしまってはえらいことになってしまうだろうから自制しているし、【神人形生成】などはそれこそ人に見られるとヤバそうなので使っていない。だが、もしかしたらイシキ戦ではこの二つのスキルを使うことになるのかも知れない。
イシキと戦うには京の都の他にイシキの領地である三ヶ国を攻めることになるが、このイシキ家の治める三ヶ国の中に俺がどうしても領地にしておきたいキョウサの国がある。
このキョウサの国は前世でいう若狭と同じだと思って欲しい。
このキョウサの国はアワウミの国(前世の近江)を西に抜けることで入国することが出来るのだが、キョウサの国に行くにしても、京の都に行くにしてもアワウミの国を通らないことには話が始まらない。
しかしこのアワウミの国を治めているハッカク家は京の戦乱に不介入の姿勢を取っており国境を固めているだけで戦乱を収めようとは考えて居ないようだ。
カモン家の家督を継いだ俺は先ずこのハッカク家に俺の上京に従いイシキ、ミナミの乱を収めると共にイシキを討つべし、と使者を送った。
アズマ家が上京するのなら一緒に戦おう、的な表現になるけどカモン家としては格下のハッカク家を従えて上京するという表現になる。家の格だの権威だのと言うものは何とも面倒臭い。
「準備は順調か?」
「はい、予定通り七月中には出兵いたします」
「うむ、くれぐれも慎重にな」
「カモンの義父上もおります、それにソウシンは戦が得意ではありませぬ故、無理に戦うようなことは致しませぬ」
キシンは俺のことが心配のようだ。だったらキシンも一緒に上京してくれと思うが、ミズホも大詰めなのでそうも行かない。
それに隣国のビハリの国でも動きがありミズホとの国境付近が何やらきな臭いとカザマ衆から報告が来た。以前はマジマ家がビハリの国を抑えていたが、今はアズマ家がその役目を担う事になる。キシンがミズホから動けない理由の一つでもある。
今回俺が上京するにあたっての陣容はこのようになっている。
歩兵は一三〇〇〇人。指揮官は【闘槍士】のダンベエ・イズミ。
騎兵は二〇〇〇人。指揮官は【武士】のコウザン・イブキ。
弓兵は三〇〇〇人。指揮官は【狩人】のゼンジ・ウエムラ。
鉄砲隊は二〇〇〇人。指揮官は【罠士】のエイベエ・イズミ。
そして俺の相談役として体力が回復し俺に仕えることを決めてくれた【戦略家】のシゲアキ・マツナカと俺の周辺警備に【武忍】のコウタロウ・カザマ、情報収集は【上隠密】のダイトウ・タナカ率いるタナカ衆だ。
後は側近として【隠密】のリクマ・ナガレを配している。
鉄砲隊のエイベエは職業が【罠士】なので実戦指揮官としては向いていないかと思いきや意外や意外、距離を正確に把握し、部下たちの発砲から発砲までの時間をきっちり把握し、罠によって敵の移動を阻害し移動に時間を掛けさせる、などエイベエは鉄砲による弾幕を効果的に張る能力は非常に高いのだ。指揮官のエイベエが鉄砲を撃つ必要はないので自分が持っている職業や能力を戦闘に活かしていると言うわけだ。
他には【算術士】のキザエモン・ロクサキには物資の管理から補給手配・運搬まで補給に関する全てを任せている。
「殿、出陣のお時間で御座いまする」
シゲアキ・マツナカの声に俺は頷き全軍に合図をする。
結局、俺が豊新城を出立するまでにハッカク家の色好い返事は来なかった。ハッカク家とは戦闘になると見て進軍する必要がある。
俺の直轄城である不和城はアワウミの国との国境に近い城で、前世で言う不破の関だ。関ケ原と言えば記憶にある人も居ると思うし、歴史の教科書で出ていたはずだから分かる人も居るだろう。
その不和城で一泊した翌朝、七月なので朝と言っても日差しはとても熱く兵には水の補給とこまめな休憩をさせながらアワウミの国に足を踏み入れる。
「殿、ハッカクは長沼城の東に兵二〇〇〇〇を展開して我らを迎え撃つ準備を整えておりまする」
「戦は避けられぬか」
タナカ衆の報告でハッカクとの戦闘が回避できないのは明白となった。
ハッカクとしてはイシキとミナミの何方とも血縁関係があるので何方が勝っても、と言う打算があった所にハッカクとは無縁の俺が上京することになりハッカクの領地を通行する。これを許してはイシキやミナミに面目が立たなくなるので俺を阻止しようと言う腹積もりのようだ。
そんな目先のことしか考えられないのか、と腹立たしくもあるが、それを言ったら俺だって流れで出兵しているんだから余りハッカクを責められないな、と思ってしまう。ただ、俺の場合はキョウサの国(前世で言う若狭)を手に入れると言う目的があるので流れに乗ったと言う捉え方もできるだろう。
「二〇〇〇〇とは奮発しましたな。京側に五〇〇〇を配置して残りの全兵力を投入してきましたか」
最近伸ばし始めた顎鬚をなぞりながらシゲアキ・マツナカは楽しそうに目を細める。
こいつ意外と戦好きなのかもしれない。勿論、勝てる戦が好きなのだろう。
「どのように戦うのだ?」
「そうですな、兵力は互角ですが、ハッカクは後方の京の動向も気掛かり。しかも全兵力を投入した以上は短期決戦を仕掛けてくるかと存じます」
もう直ぐ九月だから戦を長引かせていると農民が米の収穫ができなくなる。ハカックの兵は傭兵も居るが多くは農民兵なので短期決戦を余儀なくされるわけだ。対して俺のカモン軍は全兵士が傭兵なので冬が来て寒いとか夏だから暑いはあっても米を収穫するから徴兵出来ないなんてことはない。
「そうすると陣を張りハッカクを迎え撃つが良いか?」
「ハッカクは殿の戦いを知りません故、最初は様子見をするでしょうが我らには時間が味方してくれましょう」
京の都を取り戻すのが第一目標だが、だからと言ってこのままハッカクを放置するわけにもいかない。ハッカクを降ろしアワウミを俺の支配下にしてから京の都を目指す必要がある。イシキと戦っていた処にいきなり後方から攻撃されるのは避けなければならない。
シゲアキの言うように長沼城にほど近い場所に陣を張る。
京の都は逃げないし、イシキとミナミの戦いも簡単に終わるとは思えない。それに京の都が荒れ果てているから早く解放して欲しいと言われても自分たちが危険になるようなことはする気はない。
「やはり我が方の出方を見ているようですな」
ハッカクは積極的に俺たちを攻めるような事はしなかった。しかし俺たちが陣を張ってから四日後にとうとう動きを見せた。
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