第25話

 


 ロイド歴三八八四年一二月


 金華城を落としマジマ家当主のアイノスケ・マジマを捕縛した後、僅かに抵抗を続ける旧マジマ家の家臣たちが治めるミズホ中部から東部にかけてのマジマ家残党の掃討戦が行われた。

 今のところクニシマ家には動きがないが、マジマ家が滅んだ今となってはクニシマ家の去就はアズマ家の最大の関心事項だ。

 俺は掃討戦には出る事無く豊新城に戻った。まぁ、俺がこれ以上戦功を上げてしまっては困る者が大勢いるようで頻りに豊新城に戻そうとしていた。それはそれで構わない。面倒が無くて良いし、何よりアズ姫とラブラブ(死語)できるのが良い。


 今回、マジマ家を滅ぼした事でアズマ家は五一万石の大領を治める大名となった。元々国守だったので戻ったと言うべきか。

 ミズホの国の総石高は六三万石。残りはクニシマ家が治める東部一二万石だ。もう直ぐでミズホ再統一が叶うだろう。


 そして掃討戦も終わったので大平城に来いとキシンから呼び出された。

 俺は褒美として六乗山城を貰った。オノの庄が六乗山城の領内にあるので丁度良いだろうとの事だ。それと六乗山城の隣の不和城も貰った。これで直轄五城、間接二城の七城が俺の支配下となった。

 だんだん人手が足りなくなってきたぞ。既に不足しているとも言える状態だ。これからは積極的に人材登用をしよう。それだけではいかんな。子供の内から教育を施し優秀な人材を育てる必要があるだろう。それに子供の内に育てれば俺が欲しい人材に育てる事ができるかも知れない。

 戦闘要員よりも文官的な人材が欲しいな。何と言っても俺の直臣で文官タイプはキザエモンしか居ないので頑張って育てよう。


「キザエモン、領内に孤児はどれくらい居るのだ?」

「……数えて居りませぬ故正確には分かりかねます。が、一〇〇では利かぬかと」


 そんなに居るのかよ。まぁ、傭兵を雇うよりも安く済むはずだから二〇〇でも三〇〇でもドンと来いだ。ただ、孤児が多いのは良くない事だけどな。


「孤児を集めて育てる。衣食住の手配を」

「はい? ……本気ですか?」

「私が冗談を言うとでも?」

「……畏まりました。……ただ、理由をお聞かせ頂いても宜しいでしょうか?」

「次代の家臣を育てる」

「次代? 家臣を育てるのであれば家臣の子弟を小姓にでもされれば良いのでは?」

「キザエモンは自分たちが優秀で下々の者が劣っている。そう思っているのか?」

「……」

「分かり易く言おう、二〇〇年前には京の都周辺どころか西国のほぼ全ての国が十仕家の領地であった。それが今では十仕家の領地などない。彼らはこのワ国中でも最高の官位を受け継ぐ大貴族だ。なのに今では領地もなく更には京の都を追われることとなった。何故だ?」

「……」

「私の言っていることが分からぬか?」

「……いいえ。若の仰っておられることは理解できます」


 俺の考えを理解はできるが、それを言ってしまうと自分たちの地位や価値がなくなるのではないかと思うわな。


「キザエモン、例え優秀な者でもその才能に胡坐をかいて努力を怠れば、何時か努力する平凡な者に追い抜かれるだろう。キザエモンの様に才能もあり努力する者ばかりではないのだ。だから孤児を保護し教育を施し優秀な者を私の家臣として取り立てる。優秀でなくても教育を施せば簡単な計算に読み書き程度は出来るようになるだろうから職には困らぬだろうし、そういった子供たちが働くことで私の領地は更に賑わうことになるだろう」

「孤児の多くは奴隷として売られることが多く、男は傭兵や農奴、女は娼館に売られることが多いはずです」

「は?」


 何だと! 奴隷制度なんかあるのか?


「ミズホではあまり見られませんが、東国などでは奴隷を得る為に戦争を起こす者もおりまする」


 あ、そうだ。前世でも武田信玄なんかが治めていた甲斐の国では米があまり採れないので他所の土地で略奪していたっけ、その時に奴隷もゲットしていたはずだし、上杉謙信なんか奴隷売買の音頭を自らとっていたって聞いたことがある。

 そんな戦国時代に似た今世では奴隷があってもおかしくはないか……そうすると九州あたりでは南蛮人に奴隷を売っていたはずだから、今世でもありえるのか……嫌な事を聞いてしまった。


「一五歳以下の奴隷を買い集めよ」

「買うと言われましても、数はどの程度でしょうか?」

「全てだ。少なくともこのミズホ周辺で売られている子供の奴隷は全て買うつもりで事に当たれ」

「……」


 キザエモンがポカーンと口を開けて俺を見つめている。


「よ、予算は……奴隷を購入する予算を計上しておりませぬが……」

「奴隷は幾らだ?」

「幼い子供であれば一〇〇〇ゼムから高くても五〇〇〇ゼム程度、十五歳であればある程度労働力として計算ができますので一〇〇〇〇ゼム程度かと」


 はぁ? たった五〇〇〇ゼムや一〇〇〇〇ゼムで人間を売り買いするのか? 本気かよ!


「予算計上は不要だ。私の私財から全て出す。購入する時には奴隷を売りに来た者を登録しろ。今後我が領内で奴隷の売買は登録商人以外が行ってはならぬ。そして奴隷の健康状態が悪い者には以後売買を禁止する。これを徹底させよ」


 取り敢えず一人当たり五〇〇〇ゼムだとして、一〇〇〇〇人集まっても五千万ゼム(五〇〇カン)だ、食料は安い小麦から作れるパンやうどんを織り交ぜて米の比率を下げれば良いだろう。

 衣食住の食は直ぐにでも用意ができる。そうなると衣と住だが、衣の方は俺のスキルで創り出せばよいだろう。住も俺が創っても良いのだが、以前オノの庄の復興の為に俺が鼻血を出しながら頑張って色々創った時、キシンはじめ皆にそれでは下々の者に金が落ちぬと言われたので下請けに出すとするか。






 ロイド歴三八八五年一月


 子供奴隷は順調に集まってきている。

 現在の子供奴隷の数は凡そ一〇〇〇人、豊新城の郊外に子供奴隷用の長屋を建て、その近くに教育施設を設置した。

 子供の奴隷たちは七歳未満の年少組、七歳から一一歳の年中組、一二歳以上の年長組に分けてそれぞれに教育を施す。

 年少組は午前中に無理せず体を動かさせ、午後はお昼寝をさせたら自由行動だ。

 年中組は午前中に朝昼の食事の準備を手伝うのと読み書き算術の勉強、午後は体を動かして夕食の準備の手伝いだ。

 年長組は午前中に朝昼の食事の準備と読み書き算術の勉強、午後は才能に合わせた勉強と体を鍛え、夕食の準備だ。

 基本的には子供の奴隷たちだけで生活をし、勉強以外では大人はあまり手を掛けない。年上が年下の面倒を見るのがルールだ。

 運営はキザエモンに任すが、俺も子供たちを時々見に行く。そして皆の能力を【神眼】で鑑定し職業を持っている子供にはその職業の特徴に合わせた勉強を勧める。

 あくまで勧めるだけで「やれ」とは言わない。本人がやりたくもないのにやらせても物にはならないだろう。

 まぁ、【神眼】を使わなくても「ステータスオープン」でも職業は見えるのだが、俺自身経験値を得る為に色々な子供を【神眼】で鑑定しているのだ。


「オイラは剣の才能があるだか?」

「ああ、お前の職業は『剣士』だからお前の努力次第で剣によって出世ができるだろう」

「本当だか?」

「死ぬ気で努力すればな」

「んだば、オイラは剣を習うだ!」

「おう、頑張れよ」


 こんなやり取りを何度も繰り返し職業が有る者には方向性を示す。そして職業のない者にはどんな職業に成りたいのか聞き【神育成】を使って成長させる。これも俺の経験値稼ぎになるし子供たちも希望の職業に就きやすくなる。勿論、俺の【神育成】を使っても職業に就けない者だっているだろう。

 それに向上心を持って努力する子と怠けようとする子では当然の様に差が出るだろう。






 ロイド歴三八八五年五月


 カモンの伯父上が俺を訪ねて来た。理由は聞いていないので取り敢えず会う。


「ほほほ、ソウシン殿は今年幾つになるのでおじゃるか?」

「今月で一五歳になりまして御座います」

「そうでおじゃるか、ソウシン殿のような跡取りがおりアズマ家も安泰でおじゃるな」

「私など未だ未だに御座いまする」

「ほほほ、その様に謙遜するものではない。謙遜もし過ぎれば嫌味となるでおじゃるぞ。ソウシン殿が居るおかげで今のアズマ家があるのだ。誇って良いでおじゃるぞ。麿もソウシン殿のような甥がおり鼻が高いでおじゃる」

「有り難きお言葉に御座いまする」


 本題前の雑談ってやつなのか、それとも本題への伏線か? 何れにしろ伯父上は武ではなく口でカモン家を支えてきたのだ、口では足元にも及ばないだろう。


「ほほほ、麿がソウシン殿を訪問した理由が知りたいでおじゃるか?」

「……お聞かせ頂ければ幸いです」

「ほほほ、素直なのは良い事でおじゃるぞ」


 さて、どんな話が出て来るか?


「キシン殿はのう、ミズホ統一が目前に迫っておるし、ミズホ統一が成っても暫くはミズホの仕置きが有る故動けぬだろう」


 まぁ、統一したと言っても今まで敵対していた家の領地だったんだ、アズマ家が武力で物にしてしまったのでゲリラ的な敵対勢力だって少なくない。そういった者たちを抑え込むには数年、下手をすれば十数年かかるだろう。


「ほほほ、その様に難しい顔をするものではないでおじゃるぞ。さて、続きなのだがのう、先日キシン殿と上京について話し合ったのでおじゃる」


 カモンの伯父上は早く上京したいのだろうが、アズマ家の周囲が収まらない限りアズマ家は動けない。

 そう考えるとカモンの伯父上ももどかしい思いをしているのだろうが、上京の話を俺にするってことはキシンではなく俺に京に上れ、とでも言うのだろうか?


「ソウシン殿にカモン家の家督を継いで貰いたいのでおじゃる」

「……え?」

「ほほほ、アズマ家の当主たるキシン殿は暫くミズホを離れることはできないでおじゃる。だが京の都の状況は最悪でおじゃる。故にソウシン殿に上京してほしいのでおじゃる」

「上京するのであれば何もカモン家の家督を継ぐ必要はないのでは?」

「ほほほ、上京するのであれば当主が赴かねば王に対し面目が立たぬでおじゃろう?」

「ならば私がミズホに残り、父上が上京すれば王への面目も立ちましょう」

「ほほほ、それではアズマは勝てぬ、とキシン殿は言っておられたでおじゃる」

「父上が?」


 今でこそ俺の生産成金チートでアズマ家が快進撃したが、キシンだって倍する兵を投入したオンダを退けるほどの戦上手だ、今のアズマ家であれば最低でも二〇〇〇〇の兵を投入できるのだからキシンであれば京の都を取り戻すこともできるのではないか?


「今の京はイシキとミナミが血で血を洗う戦いを繰り広げているのでおじゃる。どちらも引く気がないのはこれまでの戦いの激しさを見れば分かるでおじゃろう。特にミナミはイシキを滅ぼすまで戦いを止めぬほどの鼻息でおじゃる」

「イシキは三五〇〇〇、ミナミは四〇〇〇〇の兵を投入していると聞き及んでおります。当家がミナミと手を結び京の都を奪還すれば王の帰還も叶うのでは?」

「それは無理でおじゃる。ミナミが京の都を焼き払ってしまった事は周知の事実でおじゃる。その様な者が京を奪還したとしても王はお喜びにならぬでおじゃる」


 そんなことはどうでも良いじゃん。戦ともなれば町が焼き払われることだってあるだろう、戦が嫌なら絶対的な力を持って戦をさせないように抑え込むしかない。だが、王にはそんな力はない、今のワ国でそんな力が有る者などどこにも居ないだろう。

 おっと、いかんな、どうも好戦的な考え方になってしまう。これもこんな世の中に生きているせいかな?


「つまりアズマにイシキともミナミとも組せぬ第三勢力になれと?」

「ほほほ、少し違うでおじゃる」

「では?」

「第三勢力となるのはカモン家でおじゃる」

「何と・・・」

「それ故にソウシン殿に我がカモン家の家督を譲りたいのでおじゃる。幸か不幸か麿には息子が居らぬ故の」


 十仕家であるカモン家が京の都を奪還したとなればアズマが奪還するよりも王の機嫌はよくなるだろう、とは思うが、そんなことでカモンの家を俺に継がせるのか?


「麿はもうすぐ五〇に手が届くのでおじゃる。嫡男も居らぬ故、何れは誰かに跡を継がせることになるでおじゃる。ソウシン殿は麿の妹であるコウの子、麿とも血の繋がりが濃いし有能でおじゃる。何せ没落していたアズマ家をここまでにしたのはソウシン殿の経済力があればこそでおじゃるからな」

「……父上は何と?」

「ほほほ、キシン殿はソウシン殿に決めさせると言われたでおじゃる」


 俺がカモン家を継ぐとどうなる? アズマ家は俺の実家となり俺は十仕家の家長となる。家格はアズマ家よりも上だが領地は……そうだ、領地はどうなるんだ?

 ミズホ国内にカモン家の領地、この場合は荘園になるのか? 領地などどうでも良いが俺が育ててきた産業や人材はどうなるんだ?


「京からイシキを追い払った後はイシキを追撃する予定でおじゃる。イシキは三ヶ国を領有する大貴族。ソウシン殿にはその国を取って頂きたいのでおじゃる」


 おいおい、随分と無茶なことを言うもんだ。京からイシキを追い払うだけでなく全てを奪えと言うのかよ、無茶振りも良い所だ。

 だが、イシキが京の傍でのうのうと勢力を保っているのでは王も十仕家も枕を高くして眠れないってわけか。


 

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