第14話

 


 ロイド歴三八八一年一二月。


 オンダ家は甚大な被害を出して撤退した。

 かなりの猛攻だったと思う攻撃も開始されてから二日後の正午には撤退を開始する。

 鉄砲隊の中で特に優秀な二人には敵の指揮官と思われる立派な鎧を積極的に狙い撃つように指示していたのが良かったのか、射程内に入ってきた指揮官の多くを射殺している。

 前線を支える指揮官の不足は兵の不足よりも大きな問題になったはずで、たった二日でオンダ家が後退するという決着を見た。

 今回の件で俺はキシンに一つだけ城外で活動するように進言したことがある。それは撤退する敵の兵糧を奪取、もしくは焼き払うという物だ。折角なんで徹底的に嫌がらせをしてやろうと思っての事だ。

 これはあくまでも経済的なダメージを与える為のもので追撃で無用な被害が有ってはいけないと念を押しておいた。

 しかし無理な追撃は不要というキシンの命に背き脳筋が何名か部下たちを率いて深追いした挙句、オンダ家の殿を任せられていたコウザン・イブキに良いようにあしらわれてしまった。これがなければアズマ家の完勝だったのに無駄な犠牲をだして何が楽しいのだ、愚か者が。

 因みに兵糧は無事奪取できた、とういか放棄してあったので有難く頂いたし、武器や防具も入手できた。


「ソウシン、よくやった! 次は秋だな?」

「継続的に経済封鎖をして疲弊させ秋には美味しく頂きましょう」

「うむ、経済封鎖の方は任せたぞ!」

「お任せを」


 豊新城で戦後処理をし一月初旬に六乗山城の館に帰る。この六乗山城は今現在のアズマ家の本拠地で俺が生まれ育った場だ。小高い山の上に建てられているので防御力はそれなりに期待できるだろうが、山の上に建っているので本丸に行くのが一苦労で俺は好きではない。体力ないのよ。

 その六乗山城の館でコウちゃんや留守居役の内蔵助爺さんが俺たちを迎えてくれ、二日後に論功行賞が行われた。


 俺はキシンより褒められ褒美をもらう。今回の戦では領地を広げていないので基本的には金や物が褒美として与えられたが、ゼンダユウ・クサカのような命令無視をして敵の追撃を行い多くの兵を損なった者たちは肩身の狭い思いをしている。窮鼠猫を噛むって言葉をしらない脳筋たちには丁度良い薬になっただろう。


 でも何でか俺はコウちゃんに怒られた。理由は婚約者であるホウオウ家のアズ姫がもう直ぐ館に到着するからだ。俺はそこまで気にしていなかったのだが、それがコウちゃんには不満だったようだ。

 既にハルも六乗山城の館に入って居り、コウちゃんと一緒になってアズ姫の受け入れの準備を整えていた。

 だから俺とコウちゃんたちとの温度差が気に入らないのだろう。てか、アズ姫を見てもいないのに実感何て湧かないよ。前世でも結婚なんてしてなかったし、今世では一一歳だし。


 オノの庄の事はキザエモンとサヨに任せ俺は六乗山城の館でアズ姫を待つ事になった。だけど俺が居てもアズ姫の受け入れ準備には何の役にも立たない。それに直ぐにオノの庄に移るのだからね。

 そうだ、オノの庄に移動したらサヨに忍者について聞かないとな。





 ロイド歴三八八二年一月中旬。


 予定通りアズ姫が到着したと報告があった。俺が出迎えなくて良いのかとコウちゃんに聞いたら婚儀までは顔を合わす事はないと言われた。どうもコウちゃんによる教育が施されるという話らしい。その間、館の傍に建てられている迎賓館と呼ぶには質素な客用の別館に逗留するという事だ。

 その間、特にやる事がない俺は以前使っていた工房に籠る事にした。創るのはミズホ酒と麦焼酎だ。ミズホ屋とイズミ屋に約束した以上は今までよりも多くを卸してやらないとな。

 最近はというか、オノの庄の復興中に鼻血を出しながら限界までMPを使ったお陰かレベルが上がっている。



 氏名:ソウシン・アズマ

 年齢:一一歳(ロイド歴三八七〇年五月五日生まれ)

 性別:♂

 身分:ミズホ国守アズマ家長子

 職業:【創造生産師】レベル三一(四九七/三一〇〇)

 能力:HP一一七/一一七、MP二九九/二九九(五九八/五九八)

 スキル:【鑑定】【物質抽出】【化合物生産】【道具生産】【物質探索】【MP補強】



 【物質探索】MPを消費して周囲に存在する物質を探索できる。

 【MP補強】MP二倍、MP消費量削減、MP回復量増、MPによる補助材代替、有効範囲拡大。



 増えているスキルは共に良いものだが、特に【MP補強】は俺の生産活動に大いに役立っている。このスキルによって俺の作業量は飛躍的に上がっているし、何より必要な材料が全部揃わなくてもMPによる代替えが利くのが良い。材料をMPで代替えすると膨大なMPが消費されるが、その分経験値の入りもよいのでMPに余裕があれば代替えを行っている。


 大量のミズホ酒に麦焼酎を創り出し工房に所狭しと保管していく。調子に乗って創ってしまったので途中で用意していた酒樽が不足するというトラブルがあったが、そこは俺だ、最初の頃にしていたように原木から創り出す事で何とかした。

 オノの庄では俺の生産活動にともなって新しい産業が興っている。新しい酒樽の生産に中古の酒樽の洗浄も産業として成り立っているし、俺が創り出したミズホ鋼を使った太刀を鍛える鍛冶師も居るし鉄砲鍛冶師も居る。その他にも幾つもの産業が興りオノの庄の人口も増えてきているし、他国から流民を受け入れ農地を耕せているので今度の秋の収穫は更に上がる事だろう。今のところ順調だ。

 そう言えば俺ってあのオバサンに運を上げて貰ったんだっけ。そうなると順調にいっているのも運のお陰なのだろうか? ・・・運が良くても俺が考えなしに無謀な事をすればしっぺ返しがあると考えておく方がよいだろう。





 ロイド歴三八八二年二月初旬。


「おめでとう御座いますまする」

『おめでとう御座いますまする』


 ブゲン大叔父が家臣を代表し俺とアズ姫に祝いの言葉を述べ、家臣一同が復唱する。

 ここから宴会に入り俺とアズ姫は適当なタイミングで奥に下がる事になる。


 アズ姫は白無垢と角隠しで全身を包んでいる。終始俯いているし顔には白粉を塗っているので美人なのか不細工なのかよく分からない。できることなら普通以上であってほしい。

 背はそこそこ高く俺と変わらない。恐らく一五五センチメートルはあるだろう。俺も一一歳にしては背が高い方だが女性で俺と一つしか違わないのに一五五センチメートルは高い部類に入るだろう。実際、コウちゃんなんか俺よりもやや低いのだ。


「若、この年寄りの目が開いている内に若子を抱かせて下され」


 内蔵助爺さんや、それは気が早すぎるぞ。俺は一一歳で、アズ姫は一二歳。アズ姫に初潮が来ているか微妙な年齢だろ。


「内蔵助殿、気が早いですな。先ずはお二人の初夜が先では御座らんか! ガハハハハハ」


 セクハラをしているのはゴウキ・クサカだ。完全に酔っぱらっているな。世が世ならアウト!である。


「あまりソウシン殿に呑ませないでくださいな」

「お方様、若であれば問題御座らんでしょう。何せあのクロウに呑み勝ち平然としておられるのですから」


 俺の酒豪の噂は既に家中隈なく響き渡っている。クロウなど事ある毎に俺に負けたと触れ回っているようだし、家中で知らない方が少ないだろう。


「左京殿」


 コウちゃんが視線でゴウキ・クサカを射殺そうとしている。それを見てゴウキ・クサカも引き下がってキシンに絡んでいる。アイツの酒は絡み酒だな。


 家臣たちが次から次に俺に酒を勧めてくる。一人一杯なのでコウちゃんもダメとは言えないようだが、明らかに俺の飲みっぷりに驚いている。一切顔色を変える事がない俺に呆れているともいう。

 家臣たちの列が切れたのを見たコウちゃんがキシンと視線を合わせ頷き俺たちを下げる。

 アズ姫はここまで一切喋っていない。二時間ほど無言何て・・・俺もできるな。すまん、生産していると普通に朝から晩まで無口でいられるわ。


 奥に下がる、俺はコウちゃんに少し酒を覚ましてから部屋に向かうようにと言われたが、ハッキリ言って酔ってなどいないのでその必要は感じなかったが、素直に従いほとぼりを覚ましてから部屋に向かう。


「アズで御座います。幾久しゅうお願い申しあげます」


 アズ姫は三つ指をついて俺の入室を迎え、自己紹介をした。声はやや幼い感じがする。俺の一つ上の一二歳なんだからそんなものなんだろう。


「ソウシン・兵部少丞・アズマだ」


 俺、官位と官職を贈られたんだ。従六位上兵部少丞って言うんだ。

 そんな事は良い。さて、初夜をどうすれば良いのか。

 勘違いしないでほしいのは前世の記憶を持っている俺には今世の人々より男女間のプレイについての知識も経験も豊富だと言っておこう。俺が気にしているのは前世であれば明らかに犯罪になるであろう相手が若干一二歳という年齢なんだ。

 取り敢えず話でもするか。


「アズは私の事を何か聞いているか?」

「はい、とても頭が良くアズマ家にとって無くてはならないお方だと聞き及んでおります」

「それは母上から聞いたのか?」

「お母上様もそうですが、実家の父よりも聞かされておりました」


 ふ~ん、ホウオウ家は俺の事を調べたという事か。


「京ほど垢ぬけておらぬミズホの国に来て不安はないか?」

「不安は御座いますが、それは時が解決しましょう」


 アズ姫は俺の質問に淡々と答えるが、一切俺の顔を見る事はない。緊張しているのか、俺を嫌っているのか分からんが、あまりにもあからさまに顔を伏せているので気になる。


「顔を上げよ」

「・・・」


 アズ姫はビクっと肩を震わせ顔を上げようかどうしようか迷っているようだ。

 そんなに俺に顔を見せるのが嫌なのか? それとも俺の顔を見るのが嫌なのか? 理由はハッキリしないが顔を上げるのが嫌なようだ。


「・・・あ、明かりを・・・」

「ん? 明かりがどうした?」


 アズ姫はモジモジというよりは肩を小刻みに震わせているように見える。


「明かりを消して頂けないでしょうか・・・」


 明かりなど消したらアズ姫の顔が見えないじゃないか。その逆にアズ姫も俺の顔が見えない・・・はっ! 俺ってそんなに不細工だったのか!? 鏡が有るわけではないので水に映った自分の姿程度しか見たことがないが、容姿はそんなに悪くないと思っていたが、この世界では俺の容姿は醜いのだろうか?


「・・・私、うぅ、・・・ひっく・・・うううぅうぅぅ」


 え、行き成り泣き出してどうしたの?


「ど、どうしたのだ?」


 動揺してしまいどもってしまったが、俺はどうすればよいのだ?


 

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