第10話
ロイド歴三八八一年三月。
あと二ヶ月もすれば一一歳になるソウシンです。そして絶賛領地開発中のソウシンです。
取り敢えず、今年の秋の収穫が見込めない事から税の上納は免除された。アズマ家は六公四民なので六割が税として徴収されるのだが、アズマ家の家臣や俺の様に半独立したアズマ家の者の場合は六割の半分の三割をアズマ家本家に上納する必要がある。だから米の総生産の三割が俺たちに残るのだ。この三割で家臣やその使用人たちを養っているのだ。
「若、今日はイノシシが罠にかかりました!」
「若、キジを狩ってきました!」
「若、アユを取ってきましたぞ!」
お前らいつから猟師(漁師)になった!?
確かに【罠士】のエイベエの罠ならイノシシを捕まえるのは簡単だろうし、【狩人】のゼンジならキジを射落とすのも可能だし、【隠密】のリクマなら気配を消してアユを取る事もできるだろう、だからって何でお前たちは館の建築を手伝うことなく狩りをしているんだ?
「若、アヤツらに何を言っても無駄ですぞ。建築という緻密な作業には不向きです。寧ろ邪魔になりますので狩りをさせておいた方が世の為人の為というものです」
「キザエモンも毒をはくなぁ」
「キザエモンは融通がきかぬ、嘘がつけぬ、頑固、と三拍子そろっておりますから仕方がありませぬ」
「そういうダンベエも辛辣だがな」
俺の部下たちは仲が悪いのか良いのかわからん。少なくともキザエモン以外は俺の館の建築現場に居ても役には立たないと俺も思うけどさぁ。
オノの庄入りした俺は最初に自分が住む館を建てる事にした。
予定としては館を建て、堤を補修強化し、田畑を整備し、最後に村人たちの家を建てる、というものだ。村人たちの家を最後にしたのは被災後直ぐに建てた掘っ立て小屋があるので雨風は凌げているからだ。
俺の館はオーパーツと言われようが、俺のスキルを使い住み心地の良いものを建てるつもりだ。まず土台だが、硬い岩盤の上に鉄筋コンクリートで基礎を創りミズホ鋼の柱を立てる。あとはヒノキやスギなどの木材を惜しまず使い、外壁には耐熱煉瓦を積み上げる。
キッチンも土間ではなく普通に室内だし、トイレも洋式水洗、そしてヒノキの風呂も備え付けてある。当然ながら下水道も整備しているよ。
ミズホの国ではあり得ない家だが、俺は自重する気はない。
下水道は俺の館から川の手前の汚水処理施設まで伸ばす。処理施設で浄水して川に戻すのだ。
館、下水道、汚水処理場はセットで全て建築し終えるのに一八日もかかってしまった。
次は堤の補修だが、ただ補修しただけではまた決壊しかねないので、決壊対策を施す。
決壊対策としては決壊した場所よりも外側に新しい堤を創る。川幅を広げる感じだ。そして今までの堤を利用して信玄堤のような水の逃げ場がある堤を創っておく。このように二重の堤にしておけば簡単には決壊しないだろう。こんな感じに約五〇〇メートル程の堤を改修する。
次に取り掛かるのは田畑の整備だ。
鉄砲水が綺麗に家々を洗い流したし、田畑も土砂の下に埋もれている。だが、悪い事ばかりではない。
ミズホのというか、ワ国の田畑は大きさや形が不揃いなのでこれを一〇〇メートル四方の四角形にする為に真っ直ぐの畔によって仕切り、用水路を整備していく。
これで水の苦労も減るし稲を植えるのも直線で植えれるだろうから収穫量も増えるはずだ。念のため、稲を植える時に真っすぐに等間隔で植えれるように道具を創って渡しておこう。
最後に民家を建てる。折角田畑の区画整備をしたのだから民家だって区画整備の対象になるわけで、田畑を一〇〇メートル四方に区切ったのだから、その大きさを基準に民家を整備する。
下水道の上をメイン道路にして石を敷き詰める。そのメイン道路の脇には用水路を引いて綺麗な水を各家に引き込んでいる。イメージとしては飛騨高山の瀬戸川用水で家と道路の間に用水が通る。そうだ、鯉を放流しよう!
「ご、ご領主様! この様な立派な家をワシらに与えてくださるとは! 何とお礼の言葉を述べればいいだかわかりませぬ!」
民家の方はワ国では普通の家だ。特別立派でもないしハイスペックでもない。だからそんなに平伏しないでほしい。
あれから半年近く経っているので遅いと言われても甘んじて受け入れようと思っていたので逆にこっちが恐縮してしまう。
「事前に決めた家をそなたらに与える、名主は田畑の管理を怠るでないぞ」
『へへぇぇぇ!』
だからそんなに平伏するなよ。額に砂が付いていたぞ。
取り敢えず、田植えの時期には間に合ったようで、被災した農民の殆どに新しい田畑と家を与え引っ越しをさせる。各集落毎に名主を置き小作農たちを纏めさせる。
鍛冶屋などの物作りを生業としている者は工業区として整備した土地に上物を作らせている。流石に技術者たちの利便性を考えたりしながら工房を建てるなど面倒なので、普通に大工たちとそれぞれの技術者に任せている。工業区もそうだが商業区も作った。これまでは山裾の土地で農民が殆どの村だった事もあり常駐の商人は居らず行商の商人が月に一・二回立ち寄るだけだったらしい。だが、これからは俺がここに腰を据えるのだ、何も言わなくても商人の方から寄ってくるだろう。事実、ミズホ屋とイズミ屋は俺との窓口になる者をこの村に常駐させるらしい。
やっぱりこの二店には優先して商品を卸してやろうと思う。数年来の信頼もあるし、今回の物資調達にも快く協力してくれたからね。
被災した農民で他所の土地の親戚などを頼った者たちで避難先から戻ってこない農民も僅かだが居たが、その者たちを追いかけるほど俺も暇ではない。三月初めにこの地に赴いてきたが今は四月の下旬。ほぼ二ケ月の間、俺はまともに生産をしていないので、ミズホ屋やイズミ屋から催促が頻りにあるのだ。
ロイド歴三八八一年七月。
一一歳になったソウシンだよ!
青々とした稲が田んぼの中に等間隔に植えられているのを見ていると心が和む。生産の合間を領地経営の時間と領内の見回りの時間として殆ど使い切っている。農民の顔を見ると笑顔が絶えない。良い事だ。
そんな俺の元にキシンから呼び出しの手紙がきた。
今まで一度も帰っていない。てか、ミズホ屋やイズミ屋に手紙を預ければ週に一度の頻度で手紙が届くのでそれで良いかなんて思ってしまって本家から足が遠のいていたのは事実だ。
久しぶりにキシンやコウちゃんに会う事になるが、このクソ暑い中を一日ほどかけて本家に戻るのはキツイ。馬に乗っているとは言え楽ではない。
生産職とは言っても貴族の子供なので元服した男が馬に乗れないのは不味いとダンベエに言われ、キザエモンも同意したので無理やり騎乗の訓練を受けさせられた。お陰でいまではそれなりに様になっていると思う。
・・・でも暑い。
・・・・・・クソ暑い!
・・・・・・・・・自動車でも創ったろか!! エアコンバンバン利かせた自動車で乗り付けたろかぁぁ!!!
ハァハァ、いかん、イカン。いつも冷静なのが俺の売りなんだ、夏が暑いのは当たり前、冬が暑くないだけマシだと思え!
「若、何か悪い物でも拾って食べたんですか? 厠などありませぬからそこら辺で野g「違うわっ!」・・そうですか」
エイベエのアホめ俺を何だと思っている。誰が何を拾うんじゃボケ! こいつ絶対俺の事を主だと思ってないだろ!? 胸糞悪いわ! いてもぅたろか!
そんな感じで楽しく帰省したソウシン君です。
本家に帰るのも久しぶりだけど館は何も変わってない。変わったのは人の顔だ。顔と言っても整形しているわけじゃない。半年前では見なかった顔がチラホラ見て取れるってだけだ。領地が倍近くになった事で人も増えたのだろう。
「ソウシン様のご到着である」
門番も顔を見た事のない若者になっていた。新入りなんだろう。その門番にキザエモンが俺の到着を告げる。ゼンジが一時間以上前に到着して俺がもう直ぐ着くと先触れしていたので一切止められる事もなく館の中に入って行く。半年前なら我が物顔で出入り自由だったんだけどね。
「これは若、お帰りなさいませ」
内蔵助爺さんが俺を迎えてくれたが、これは偶然だろう。見た目はボケ老人だけどこれでも内蔵助爺さんは家老衆なんだし。そう思っていたけど本気で俺を迎えにきたのか? 俺と一緒にキシンの部屋まで来てそのまま入ってくる内蔵助爺さんはちゃっかり障子側の下座に座り込む。自然と俺は反対側、キシンの左側に座ってキシンに頭を下げる。
「只今戻りました」
「暫く見ない内に逞しくなったか?」
いくら俺が成長期の一一歳だからって数ヶ月では身長は三センチメートルも伸びていないからな。そんな嬉しそうな顔をしても何も出ないぞ。いや、酒を持ってきたんだった。後で飲ませてやるか。
「若、は成長著しいですな」
「自覚はありませぬが、父上と内蔵助殿がそう仰るのならそうなのでしょう」
何気ない会話から最近の近況を話し合う。
「そう言えば、ソウシンの領地は凄まじい発展をとげていると聞いたぞ」
「左様ですな。この老いぼれも棺桶に入る前に若の領地を拝みたいものですな」
お爺ちゃん、あんたその自虐ギャグは笑えないぞ。ほら、キシンも苦笑いしているぞ。
「いつでもお越しくだされ。出来る限りの歓待をさせて頂きます故」
「それは楽しみだ」
来なくていいから、社交辞令ですから!
「ソウシン。そなたを呼び戻したのは他でもない」
いきなりシリアスモードになったキシン君。何だ、何があった?
「ソウシンに縁談が来ておる」
「はぁ、エンダンですか」
ん? エンダン? 演壇? 縁談・・・俺に?
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