結婚とミズホ統一

第11話

 


「ソウシン殿、アズ姫のご実家であるホウオウ家は私の実家であるカモン家と同格の名家です。アズ姫は今年で十二歳と貴方よりは一つ年上ですが気立ての良い姫だと聞いています」


 ソウシンから縁談が来ていると聞いた後、直ぐにコウちゃんがやってきて俺の縁談相手の事を聞いても居ないのにペラペラと喋りまくる。思うにこの縁談はコウちゃん絡みの、というかコウちゃんが仕組んでいるんじゃないか。


「アズ姫は詩を読むのが好きで陛下にも詩を献上したほどですよ」


 詩って俺はそんなもん知らんし。そういう雅な文化とは程遠い所に居るのがこの俺ですが何か?


「ソウシン、ワシは良い縁談だと思う。進めるが良いな」


 それって確認なの? それとも確定事項を報告しているだけなの? 多分後者なんだろうね。俺に拒否権などないのだと最初から言ってくれれば良い物をね。


「アズ姫は輿入れは何時頃に?」

「まぁ、ソウシン殿も乗り気なのですね! 順調に話がまとまれば年末にはお会いできますよ」


 拒否権がないと思い輿入れ時期を確認したんだけど、コウちゃんは俺が縁談に乗り気だと思ったみたいだ。全然乗ってませんからね!


「先方に良い返事ができる。これでアズマ家も繁栄する事間違いなしだ」

「そうですわね!」


 縁談を進めるだけで家が繁栄するわけないだろ、この馬鹿ップルめ!


「ただ輿入れ時期は年末は無理だろうから年が明けた一月か二月と言ったところだ」

「まぁ、遅いですわね?」

「領地が増え年末は色々忙しくなりそうでな」


 それよりどうしようか、俺結婚するの? てか、新居はどうするんだ? オノの庄の館で良いのか?


 取り敢えず頭を冷やすために自室に戻る。そしてキザエモンたちに縁談の事を話すと一様に「おめでとう御座います!」って祝福された。そうじゃなくて、俺はどう準備すれば良いのか聞いているんだよ!


「左様ですな、オノの庄の館に京風の奥を増築されるべきでしょうな。それと奥向きの者の増員と教育が必要でしょう。ホウオウ家と言えば十仕家の一家、アズマ家よりも格式が上ですから」


 十仕家と言うのは王家を除くとこのワ国の最上位の家柄の一〇家の総称だ。コウちゃんの出身家であるカモン家もこの十仕家であるし、ホウオウ家とカモン家の現当主は従兄弟同士だったはずだ。俺だってその程度の事は知っているさ、これでも貴族家の長子を一一年もしてきたんだからな!

 それは良いのだが、ホウオウ家は正三位大納言でカモン家は従三位中納言、そして我らがアズマ家は正五位上修理大夫ミズホ国守だが格式は圧倒的にホウオウ家やカモン家の方が高い。無駄に日本的な官位や官職だ。

 気位の高い嫁じゃなければよいのだが、難しいだろうな。俺にはそれなりに柔和な態度のコウちゃんでも側室とか不躾な家臣には良い顔をしない。それに家老衆のゼンダユウの娘がキシンの側室でフジオウを生んでいるが、この側室もかなり気位が高く他の側室にきつく当たっており、場合によっては物理的な嫌がらせをしているそうだ。

 コウちゃんは他の側室に危害を加えないだけゼンダユウの娘より良い。フジオウも選民意識が高いし今から矯正できるかな?

 それは兎も角、俺の嫁の事だ。


「後の事はキザエモンに任す!」


 面倒だからキザエモンに丸投げ! キザエモンも俺の事が分かっているのだろう、自分に丸投げされるのを予想していたようだ。


「では、縁談が決まりましたら直ぐに結納としてミズホ酒と干しシイタケ、それに金一〇〇〇カンを送りましょう」

「酒と干しシイタケは兎も角、金はあからさま過ぎないか?」


 結納の相場が分からないが、一〇〇〇カンと言えば一億ゼム。大金だ。


「ホウオウ家は家格は高いですから嫁入り道具にも金がかかるはずです。しかもホウオウ家は領地を領有しておりませんので台所事情は火の車のはずです。対してアズマ家は若のお力で膨大な金を儲けております。ですから金は多い方が良いでしょう」

「ふむ、何か金で嫁を買う様で気が進まんな」

「名家の子を金で買うのは良くある話です。それで官位も一緒に付いてきますから」


 世知辛い話やなぁ~。そんな事を表情も変えずに言うキザエモンの方が怖い。

 だが、俺にはどうしようもないので、後はキザエモンが本家と情報共有して上手くやってくれと指示しておいた。


 その日は俺が献上したミズホ酒で宴会となった。コウちゃんも久しぶりに俺に会ったせいかドウジマルよりも俺を構ってくる。そしてドウジマルもいつの間にか俺の膝の上でモグモグと俺の好物であるアユの田楽にアユの出汁焼きを食べている。俺はというとアユの骨を取ってドウジマルの給仕をしているのだ。可愛い弟の面倒を見る良い兄だろ?

 この宴会はキシンの家族と主だった家臣が集まってかなりの人数になっている。大広間が満員で縁側や庭先まで人と料理と酒で埋まっている。


 俺は帰省と共にミズホ酒、味噌、醤油、アユの一夜干し、イノシシ肉の味噌漬け、鹿肉などをキシンに献上している。これらは全て俺の領地の名産としてミズホ屋とイズミ屋に売り込んだ所、飛ぶように売れておりキシンも喜んでいた。

 特にミズホ酒は濁り酒しかなかったこのワ国では珍しいし、キシンが王に献上し好評だったので京では入荷するとアッという間に売れて在庫不足が深刻化しているらしい。しかし味噌や醤油は見た目的に良くないので京などでは受け入れられにくいと言う者も多く居るらしいのでミズホ酒程は売れていない。それでも作れば作っただけ売れるのはイズミ屋が味噌や醤油を北方の地域まで持っていってバンバン売りまくっているそうだ。北方は冬になると雪深いため保存がきく味噌や醤油は非常に重宝しているらしい。

 他にも麦で焼酎を創っているのだが、これも北方に持っていくと飛ぶように売れるそうだ。ミズホ酒よりも酒精が強いので寒い地域では特に人気があり冬に備えて備蓄しているらしい。

 他の特産物も長期間腐らないようにしてあり一般的な塩漬けより美味しいので売れている。


 キシンの家族は全員集合しているので側室も勢ぞろいだし、弟や妹も勢ぞろいしている。

 フジオウも居るが母親の横でイノシシ肉にかぶり付きながら時々俺を睨んでいたので無視だ。キシンの側室と妹たちにはそれぞれ簪や櫛を贈っておいたので、順番にお礼を言いに来た。

 さて、問題はソウコだ。今日も今日とて俺と話そうとしない。もういい加減機嫌を直せよな。ここは年上の俺から手を差し伸べてやるか。


「ソウコは八歳になったのだったな?」

「・・・」

「・・・これは私が創った着物の生地だ、ソウコに似合うと思って持ってきた。気に入ってくれると兄は嬉しいぞ」

「・・・あ、ありがとう」


 俺が贈ったミズホ染めをギュッと抱きかかえるソウコを見て思わず頭を撫でてしまう。可愛いな。む、キシンがなにやら俺を睨んでいるぞ。解せぬ。


「兄様、今度遊びに行っても良いですか?」

「勿論だ、ソウコなら歓迎するぞ!」

「はい、必ず遊びに行きます!」


 仲直りをした俺とソウコは暫く近況を話し合い、夜も暮れてしまいキシンの妻と子供たちは奥に下がる事になる。俺も下がろうとしたら何故か留め置かれる。俺も一一歳の未成年なんだが解せぬ。


「奥方様たちも下がり申した、飲み明かしましょうぞ!」

「うむ、皆の者、無礼講である! 飲めや唄えやぁぁゅ!」


 ブゲン大叔父とキシンが音頭を取ってドンチャン騒ぎの宴が始まった。どうも大人しいと思っていたらこいつらこれを待っていたのか。


「ソウシン、一人前の男は自分の酒量を知るものだ。前後不覚になるでないぞ」

「はい」


 キシンめ、コウちゃんが居なくなったものだから俺に酒を飲ます気だな? 俺は一一歳だぞ?


 呆れていた俺の所にブゲン大叔父が酒を進めに来た。だから俺は一一歳だっつーのっ!

 前世では大酒飲みというわけではなかったが、酒は嫌いではなかった。しかし現世では一一歳でありその俺に酒を進めるブゲン大叔父の気が知れん!


「飲んでおりますかな? ささ、一献」


 嫌いではないのだ。だから思わず盃を突き出してしまう。ははは、俺も一一歳の自覚がないな。

 ブゲン大叔父が注いでくれたミズホ酒は透き通り盃の底が普通に見える。それをマジマジと眺めていたらブゲン大叔父が「ささ」と飲めと促してくる。ゴクリ。一口で喉に流し込む。

 先ほどまで俺が酒に口を付けようとするとコウちゃんが「キッ」と睨んで来たので飲めなかったが、うん、美味いっ! 俺が創り出しただけはあるな! 自画自賛、何が悪い!


 ブゲン大叔父が俺に酒を勧めてから始まった行列。俺を潰そうと皆が俺の前に徳利を持って並んでいるのだ。ブゲン大叔父の次に家老衆でフジオウの祖父であるゼンダユウが俺にミズホ酒を勧めてきた。それも一息に喉に流し込んだ。その後も家老衆が続き内蔵助爺さんを最後に奉行衆のヒョウマが酒を注ぎだす。どうやら家臣の格で俺に酒を注ぐ順番が決まっているようだ。


 奉行衆を過ぎて各部局の次席や次々席くらいまでは順番だったが、それ以降は流石に格には関係なく注ぎに来た。そうしていると皆が俺を囲みだした。何だよ、そんなに珍しい顔ではないだろう?

 自分でも不細工ではないが美形でもない普通の顔だと思っているんだ。


「若はいつお酔いになるのだ?」

「ワシに聞くな、まさか若がここまで嗜むとは思ってもおらなんだわ」


 ヒソヒソと俺に聞こえないと思っているのか、こいつら俺を潰そうと思ってたのかよ。手荒い大人の歓迎ってやつだ。俺の前の行列が途切れた頃には皆の視線が俺に釘付けだった。そんな化け物を見たような顔をするなよ。

 俺は立ち上がるとキシンの前に座りミズホ酒を進める、他の者には返杯をしていたのでこれで全員に酒を飲ませたぞ、コンプリートだ!

 いや、全員にミズホ酒を飲ませるのが目的じゃないし。こいつらの思惑に乗るのが気に入らなかっただけなんだよ。


 その後、キシンを潰し、残っていたブゲン大叔父を始め家中の者どもに浴びるほどミズホ酒を飲ませた。内蔵助爺さんは俺が飲ます必要もなく早々に片隅で寝入っていたが、殆どの奴らは俺が潰してやった。

 そして残るは俺と他二人。意外や意外、奉行衆筆頭のヒョウマがその中に残っていた。しかも飲む量を加減していたわけではなく浴びるように飲んでいて残ったのだ。細面の優男だと思っていたがやるではないか、見直したぞ。

 だが、そんなヒョウマも夜明け前に轟沈した。そして最後に残ったのは家中随一の酒豪と以前から名前を聞いていたクロウ・オガワだ。

 ピンピンと跳ねた癖髪が特徴の馬廻組の四十代、筋肉質だが背が高いのでそれほどむさ苦しさはない。そんなクロウは俺とさしで飲みだしてから既に三升、それ以前にも飲んでいるはずだから本物の蟒蛇だ。

 俺も人の事は言えないがズルしているしね。

 俺の場合は口に入れる前に酒精だけ抽出して蒸発させているので飲んでいるのは酒ではなく酒風味の米水だ。これが意外と甘みがあり美味しいのだ。

 そうだ、今度果実水を創ろう!


「ぐっ、・・・わか・・さ・まは・・・ばけ・・・も・・ので・ご・・ざ・る・・・・・」


 クロウは俺を化け物呼ばわりしてそのまま後ろに倒れ込んだ。失礼な奴だ。

 何か腹は米水でタップンタップンなんだけど、コウちゃんたちが奥に下がってからは固形物を口に入れていないので腹が減ったな・・・うむ、キシンの前に昨夜のアユが残っているな、食っても良いよな。


 ・・・俺見られている!


 既に夜が明け宴会の後片付けをしようと侍女たちが広間に入ってきていたようだ。でもって俺がクロウとの飲み比べに勝ってクロウが潰れたのを見た侍女たちは可成り引いた表情をしている。

 ちょっとやり過ぎただろうか? まぁ、これにこりて俺に酒を勧める者が減れば良い程度に思っておこう。


「すまぬが白湯を持ってきてもらえるか?」

「は、はい。只今!」


 俺はキシンの前にあったアユの皿を取り自分の席に持っていく。そして既に冷たくなった玄米に近いやや黄みかかった白米のご飯をお櫃から茶碗に盛り白湯を待つ間にアユの身をほぐす。

 暫くして侍女の一人が白湯を持ってきてくれたのでご飯にかけその中にアユの身を放り込んで、更に味噌を少し加え即席の茶漬けを作って口に搔き込む。

 腹ごしらえも終わったので小便して寝るべ。


「正午までに起きなければ起こしてくれ。昼は母上たちと共に食事を頼む」


 俺は侍女にそう言い残し厠に向かう。

 俺の後姿を見送った侍女たちの視線が痛い。



 

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