第3話

 


 ロイド歴三八七五年七月初旬。


 俺は五歳になった。

 それといつの間にか弟と妹が出来ていた。と言っても二人とも腹違いの弟妹だ。日本でも江戸時代以前の大名とかには側室が何人も居たので理解できるけど実際に自分の傍にそういう光景をみると何故か微妙な感じがする。


 弟はフジオウと名付けられ、妹はソウコと名付けられた。

 フジオウはやんちゃな子で俺よりも活発に動き回り奥の者たちもフジオウから目が離せないようだ。そしてフジオウは先天性の職業の【槍士】を得ていた。

 この【槍士】は比較的ありふれた職業だが、先天性であれば後天性の【槍士】より能力が高くなる傾向があるし無いよりははるかに良い。戦国乱世の世の中では生産職の俺より寧ろ期待がされている。

 わけの分からない【創造生産師】である俺よりも家中では期待されているようだ。

 まぁ、俺は貴族の子として不自由なく暮らせる環境を欲したわけで、将来成人した後も貴族になりたいと思ったことは一度もないのでフジオウが家督を継ぐのに否は無い。俺は金儲けさえできれば領地などに興味はない。


 ソウコも活発な子で先天性の職業で【狙撃手】という珍しい職業を得ている。

 俺は【狙撃手】と言えば銃または弓を思い浮かべ遠距離攻撃のスペシャリストだと知っているが、家中の者でこの【狙撃手】のことを知っている者は居ないようだ。

 そもそも弓を使う者であれば【弓士】や【狩人】のような職業が一般的だし、銃はこの世界に存在しているのかも分からないし、存在していてもそんなに広まっていないようだ。

 だからソウコの職業も俺同様家中ではあまり期待されていない。


 先天性と後天性の職業。

 ワ国では先天性の職業は貴族階級のステータスシンボルとなっている。つまり高貴な血には先天性の職業が現れると云われている。

 馬鹿らしいと一笑に付することもできるが、恐らく事実だと思う。前世での競馬がそうだ、同じ先祖を持つ牡馬と牝馬掛け合わせることでスピードだったり持久力だったりといった特徴を引き出していたはずだ。だから先天性の職業を持つ者同士を掛け合わせることで先天性の職業を持つ子供が生まれやすいとかあるんじゃないかな?

 だから貴族の家では先天性の職業を持つ者が多く生まれ、もっと言うとそういう子を多く成せば強い家となる早道なのかも知れない。それを何となくだけど貴族は分かっているんだと思う。


 日差しがめっきり夏らしくなってきた昨今の俺は裏庭に造った作業小屋の中でそんなことを考えたり作業をしたりと多くの時間をこの作業小屋で過ごす。

 俺の職業が生産職だというのは家中でも知られており、キシンもそれをふまえて俺に作業小屋を造ってくれたんだ。ただ、暑いんだここ。

 冬は寒く夏は暑い。俺は生産職と言っても火や道具を使わない。使うのはMP、後は材料となる物があればそれで事足りる。だから部屋の中で生産だってできるのだが、コウちゃんがキシンに頼んで俺の為に作業小屋箱物を造ってくれた。そりゃぁ、部屋の中に鉄鉱石を持ち込んだりして散らかしていたらコウちゃんじゃなくても嫌だわな。うん、俺が悪いんだけどね。


 今の俺の【創造生産師】のレベルは一五だ。五歳でレベル一五の職業は滅多にいないらしいが、所詮は生産職と家中では俺を蔑む者も居る。

 相変わらずHPの伸びが悪くMPはグングンと伸びている。そんな俺も四歳になった時に始めた木刀振りのお陰か最近は少しHPの伸びが改善されている。あくまでも少しだけどね。

 木刀を振って体を鍛えればHPが伸び、MPを消費して生産をすればMPが伸びる。もはや確信に変わったこのことを踏まえ生産職と言えども体力をつける為に毎朝木刀を振っている。



 氏名:キミョウマル・アズマ

 年齢:五歳(ロイド歴三八七〇年五月五日生まれ)

 性別:♂

 身分:ミズホ国守アズマ家長子

 職業:【創造生産師】レベル一五(九八三/一五〇〇)

 能力:HP四〇/四〇、MP一三〇/一三〇

 スキル:【鑑定】【物質抽出】【化合物生産】【道具生産】



 レベルが一〇に上がった時に【化合物生産】が解放され、レベル一五に上がった時に【道具生産】が解放された。この二つのスキルが解放されたことで俺は材料とMPがある限り何でも創れるのだ。

 とは言え、創り出した物が俺の目指していた品質になるかは俺の熟練度によるようで恐らくイメージが大事なんだと思う。

 明確なイメージを持って創り出した物は品質が良く、逆にイメージが固まっていないと粗悪な物ができる。

 これは【化合物生産】、そして【道具生産】を使って散々失敗作を創り出したので身に染みてわかっていることだ。




 最近、アズマ家の周辺状況があまり良くないらしく、キシンも色々頭を悩ませていると聞いている。

 どうやら近々戦がありそうな雰囲気で家中がピリピリしているらしい。俺は表に出ることはないので家中のことは乳母のハルや侍女のサヨが噂話をしているのを盗み聞きして知ることができるのだ。

 だからキシンに鎧をプレゼントしようと創作に勤しんでいる。

 材料となるのは鉄鉱石、俺が手に入れることができる鉄鉱石は磁鉄鉱という酸化鉄の一種で組成がFe3O4だ。この組成から鉄(Fe)を【物質抽出】で抽出し、木片から抽出した炭素(C)と混ぜて【化合物生産】を発動させる。

 炭素の含有率が一パーセント程度になるように含有させて鋼のインゴットを創り出す。本当はクロム(Cr)やニッケル(Ni)などが有れば良いのだけど今は手に入らないので基本的な物で比較的簡単に手に入る鉄と炭素で鋼のインゴットを作る。

 この鋼のインゴットを【鑑定】してみるとミズホ鋼となっていた。ミズホの国で初めて作られた鉄を主成分とした金属、と【鑑定】君が言っているのでそうなんだろう。何故俺の名前ではないのだろう?

 更にこの鋼のインゴットに向けてMPを注ぎ込み【道具生産】を発動する。この【道具生産】が一番MPを消費するので俺のMPが満タンでも三回しか使えないのだ。【道具生産】はドンドン俺のMPを消費していく。

 ピカッと光り鋼のインゴットが鎧のシルエットに変わる。これまで二十回以上も見てきたエフェクトであり、同じ回数だけ失敗を繰り返してきた。今回は成功したのか結果がとても気になる。

 恐る恐る出来上がった鎧の胴体部を手に取る。マジマジと見入って細部まで確認していく。見た目は成功のようだ。コンコンと叩いてみる……音で分かったら世話はないな。



 銘:六鋼板当世具足(胴)

 作者:キミョウマル・アズマ

 年齢:〇歳(ロイド歴三八七五年七月三日生まれ)

 能力:HP一〇三〇/一〇三〇、MP〇/〇

 スキル:【耐刃】【耐衝撃】



 これが鎧の胴体部を【鑑定】で確認したステータスだ。人物に比べるとステータスの情報が少ないが道具だとこんなものだ。素材になるともっと情報が少ないしね。

 それは兎も角、これが良い物なのか、悪い物なのか、は奥にあるキシンの部屋に飾られている鎧と比べれば分かるのだが、かなり良い出来だと思う。



 銘:重張当世具足(胴)

 作者:ミズホノクニヨイチ

 年齢:七歳(ロイド歴三八六七年九月二〇日生まれ)

 能力:HP六二〇/七六〇、MP〇/〇

 スキル:なし



 比べるのはHPとスキルだが、キシンが現在使っている鎧よりもはるかにHPが高く、キシンの鎧にはスキルがないのに俺の創った鎧にはスキルが二つもある。

 これで悪い物だって言われたらオイラ泣いちゃうぞ。

 今の俺が創れる最上級の物を創った自負がある。最初は形にもならなかった。だから設計図を描いて創ったら少しは良くはなったけど大したステータスではなかった。更に設計図を描き直しその都度修正と詳細な形状などを加筆し大分マシな物が出来上がるようになった。

 だが、これで納得はしなかった俺は鎧を構成する鋼板に改良を加えることにした。そして行き着いたのがハニカム構造の鋼板で鋼板の中が六角形の集合体で軽量化と強度補強を兼ね備えた鋼板を作り上げることに成功したので、このハニカム構造の鋼板で鎧を創り出したのだ。

 こんな感じで他の部位も創っていく。設計図を何度も書き直しているので数日かかってしまったが、創っていく内にコツが分かったので後半は設計図の直しも少なく済んだ。

 そして完成したのが『六鋼板当世具足』一式が一着だ。


 鎧が出来たら次は武器だ。

 キシンの主武器は太刀だが、刀身が一一〇センチメートルもあり一般的な太刀に比べると三〇センチメートルほど長い物を使っている。

 キシンは大柄なので刀も大きな物を使っているようだが、俺なんかでは鞘から抜くことも出来ないような刀だ。五歳なんで当然だけどね。


 刀は刀で設計図を描いてみた。

 しかしなかなか良い物ができない。だからキシンに刀を見せてほしいと頼んだが子供が触って良い物ではないと親馬鹿のくせに断ってきた。

 やっぱり武人にとって刀という物には色々思い入れがあるのだろうか?

 仕方がないので試行錯誤を繰り返す、只々繰り返す日々を送った。最初はミズホ鋼を素材として何の工夫もせずに創ったので硬いのだが弾性がなく直ぐ折れてしまった。そんな感じで色々な工夫をし行き着いたのが芯にハニカム構造の鋼板を使い芯の周囲と刃の部分にミズホ鋼をコーティングするようにしてみた。そして出来上がったのがこれだ。



 銘:ミズホ鋼の長太刀

 作者:キミョウマル・アズマ

 年齢:〇歳(ロイド歴三八七五年七月三〇日生まれ)

 能力:HP一四〇〇/一四〇〇、MP〇/〇

 スキル:【斬撃強化】【刺突強化】



 ふむ、鎧よりもHPが高いのだけど……鎧の方を改良するべきか?

 自分で作っておいて何だが良い物が出来たと思う。

 芯に弾性があるハニカム構造の鋼板、刃を硬いミズホ鋼にしてみた甲斐があった。


 

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