第2話

 


 夕日が差し込む畳の部屋。木の香りなのか、畳の香りなのか心地よい香りが僅かにする部屋。和室だ。

 あれから転生を選んだ俺はアズマ家の嫡男として大事に育てられている。

 転生後一年間は普通の子として記憶がないまま育つように頼んだ事で俺は満一歳になった時に記憶を取り戻した。とは言えまだ一歳になったばかりなので二足歩行ができる距離も長くない。

 縁側と障子で仕切られた部屋の中で俺は立ち歩きの練習をしており、その姿を母親のコウが見守っている。更にコウの後ろには乳母のハルと侍女のサヨが控えている。


 コウは『お方様』とか『オコウの方様』とか呼ばれている一九歳の黒髪黒目の若妻だ。美人かと聞かれると微妙かなと思ってしまうが美人の基準は人それぞれなのでこの世界、この時代、の基準に照らすと美人かも知れない。もしお歯黒とかしていたらいくら容姿が良くても美人処の話ではなく俺の精神衛生上かなりのダメージを受けていただろう。ただ、少ないながら何人かの女性陣を見てきたがお歯黒はしていないので俺の精神衛生は助かっている。俺的には母親をコウちゃんと心の中で呼んでいる。


 乳母のハルはコウちゃんよりやや年上に見えるし事実二二歳だ。サヨはコウちゃんより若く見えるので一五歳くらいじゃないかな?と思っていたが一八歳だった。 皆見た目年齢相応の容姿でトテモ整った顔立ちをしているしサヨは乳母は関係ないと思うけど胸のボリュームが凄い! 俺、まだ一歳なんでたまにチュッチュとお乳を飲んでいたけどこっちが赤面しちゃうよ。


「キミョウマルは元気一杯ですね」

「はい、最近はお乳以外に薄粥も食されていますし、立ち歩きも頻繁にされ元気過ぎるくらいです」


 コウちゃんとハルが会話をしていると障子の向こうからドスドスと大きな足音が聞こえてきた。


「お方様、お殿様のお越しです」


 障子越しに縁側に控えている侍女から声が掛かるとコウちゃんは俺の父親であるキシンを部屋に迎え入れた。


「キミョウマルは起きておったか。どれ、父上のところに来るが良い」


 これが俺の父親キシン・アズマだ。キシン以外の男性はまだ見たことが無いけどキシンは口髭と顎鬚を綺麗に生え揃えたオヤジと言うより青年という感じのワイルド系イケメンだ。歳は二一歳だが男の歳などどうでも良い!


 俺を呼んだキシンの方に拙い足取りで進む。途中、ふら付いて倒れ尻もちをついたので立ち上がろうとしたらキシンはメッチャ焦った顔をして俺に近づいて抱き上げた。


「大事ないか、怪我はしてないか?」


 尻もち程度で怪我なんかしないわ。コイツ親馬鹿なんよ。だから俺はキシンの顔を両手でペチペチ叩いてやるのだが、それがキシンには嬉しいらしく破顔している。そんな光景を見て微笑んでいるコウちゃんたち女性陣。

 親馬鹿も良いが俺が成人するまでは俺を養育してくれよ。成人後は自分で何とかするし、育ててくれた恩は必ずかえすからね。


 暫くして俺は外に出る事が許された。外と言っても庭先なんだが、そこで砂いじりをして遊ぶ振りをする俺。

 あの白い空間で俺は色々な職業から好きな職業を選ぶ権利を貰った。職業は数千種類はあっただろう。その多くの職業の中には【覇王】とか【使徒】なんてものまであったが、俺が選んだ職業は【創造生産師】という生産系の職業だ。

 あの分厚い『職業大全集』を俺は最初から最後まで読み切ったのだ! それはそれは気が遠くなるほどの時間が掛かったと自分では思っているが、あの白い空間では時間の概念がないらしいので現実世界では一秒も経過していないらしい。お陰で俺は分厚い文字だらけの本を読破するに至ったわけだ。(遠い目)

 実を言うとこの【創造生産師】という職業は隠し職業らしく『職業大全集』に特殊な方法で記載されており俺がそれに気づいたのも奇跡的な偶然なのだ。

 普通の職業は『職業大全集』に辞書のように職業名が記載されその説明も併記されていたが、【創造生産師】は下側のページの横に一文字ずつ記載があったのを繋げて読まないと内容が分からないようになっていた。しかも記載があったのは数十ページに一文字しか記載していないので作者の底意地の悪さを伺わせてくれた。

 それまで能面のような表情のオバサンも俺が【創造生産師】の事に気が付いた時、かなり引きつった顔をしていたのを覚えている。


 【創造生産師】、これは生産特化の隠し職業!

 俺はその【創造生産師】を転生特典として貰いこの世界に生を得た。この【創造生産師】という職業の特徴は他の生産職と違い物理的な技術を必要としないのだ。

 例えば【鍛冶師】であれば炉で熱した鉄などの金属を金槌などで叩き延ばしたり曲げたり形を整えたりするが、俺の【創造生産師】は全てMP消費によってその物理的な技術の代用ができるのだ。


 職業はレベルが上がると職業由来のスキルが解放されるのだが、この【創造生産師】はレベル一で【鑑定】と【物質抽出】の二つのスキルが解放されている。

 【鑑定】は対象のステータスの詳細情報を得る事ができるスキルで、【物質抽出】はMPを消費して対象物質を構成する物質を抽出する事ができる、というスキルだ。

 【鑑定】の方はMP消費もなく使えるので俺は事ある毎に【鑑定】をして少しでも経験値を得られるように鑑定実績を積み上げている。そして【物質抽出】に関しては部屋の中でできる事自体限られていたので空気から酸素や窒素を始め、水素や二酸化炭素などごく少量の物質も抽出していた。

 この世界は気体の組成なんて誰も知らないし、無色透明の気体の抽出は経験値を得るのに都合が良いのだが抽出した先から空気の中に戻ってしまうのであまり抽出した実感が得られない。


 因みに職業は無い場合が多いのだが有る場合は先天性と後天性のものがあるそうだ。先天性の職業は俺の【創造生産師】のように生まれつき得られているが、後天性の職業はその人の努力によって身に付くそうだ。それと稀に神社で授けてもらえるらしいが、それほど多くはないそうだ。


 どうすれば職業を知る事ができるのか、それは「ステータスオープン」と念じるとステータスが空中に表示されるのだ。これは本人でも他人でも表示する事ができるのだが、他人が表示する時は本人が心を許した者でステータスを見られる事を了承する必要があるらしい。例外は両親で両親の場合は三歳までは自由に子供のステータスを見る事ができるそうだ。

 但し意思を持たない物に関しては当然の事ながら本人の了承は不要だ。つまり人物だけではなく物のステータスも見る事ができるのだ。俺のように【鑑定】スキルを所持していると物質の組成まで見る事ができるのだが、【鑑定】を使わないステータス確認では氏名、年齢(生年月日)、性別、身分、職業しか見る事ができない。こんな感じだ。



 氏名:キミョウマル・アズマ

 年齢:一歳(ロイド歴三八七〇年五月五日生まれ)

 性別:♂

 身分:ミズホ国守アズマ家長子

 職業:【創造生産師】



 ロイド歴というのはこのワ国で使われている歴らしいが細かい事は調べがついていない。因みに現在はロイド歴三八七一年六月二七日で季節は初夏だ。

 ミズホっていうのはワ国の中の一部の地域の事で、一般にはミズホの国とかミズホ国と言われており、このミズホの国を治めているとワ国の王から認められているのが国守の家柄であるアズマ家なのだ。

 残念ながらアズマ家は四代前に没落し今ではミズホ国のほんの一部を治める領主である。名家の家柄と言うのはそう簡単になくならないらしい。

 そして俺が【鑑定】を使ってステータスを見るとこうなる。



 氏名:キミョウマル・アズマ

 年齢:一歳(ロイド歴三八七〇年五月五日生まれ)

 性別:♂

 身分:ミズホ国守アズマ家長子

 職業:【創造生産師】レベル四(二四七/四〇〇)

 能力:HP一五/一五、MP三五/三五

 スキル:【鑑定】【物質抽出】



 見える情報が増えるのだ。


 職業の【創造生産師】の横にレベルと()が増えるが()内の数字は恐らく経験値だと思う。この経験値の左側の数値はスキルを使うと少しずつ増えているし、左側の数値が右側の数値分溜まるとレベルアップしているのでまず間違いないだろう。

 そして俺は最初のレベル一からスキルを使った事で経験値を得てレベルアップしてレベル四になっている。

 HPとMPは現在値/最大値が表示されている。HPは初期値の一〇からプラス五だが、MPは初期値の一〇からプラス二五でMPの伸びが良い。これは職業の特徴なのか、それとも俺が【物質抽出】でMPを使っているからだろうか、もしかしたらどっちも有りかも知れないけど今の俺には分からない事だ。


 このまま順調に成長し自分で商売できるまで家が滅びませんように!


 

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