第4話
ロイド歴三八七五年一〇月中旬。
キシンが兵を率いて出陣した。隣りの領のオンダ家が兵を率いて攻めて来たらしい。俺が生まれてから初めての戦だ。
俺は出陣するキシンをコウちゃん、フジオウ、フジオウの母親、ソウコ、ソウコの母親、他多数と見送った。
キシンは笑顔で出陣していったし俺たちも笑顔で送り出した。本当は泣きたかった、キシンが戦争に行くなんて嫌で仕方がなかった。だけどコウちゃんに笑顔で送り出すのが慣わしだと何度も言い聞かせられたので泣かなかった。多分だけどコウちゃんも本当は泣きたかったんだと思う。
キシンは俺の創り出した『六鋼板当世具足』を身に纏い腰には『ミズホ鋼の長太刀』をしっかりと挿している。
これらを贈った時にはキシンが泣いて喜んでもう大変だった。特に髭面で頬ずりするのは止めてほしい。ジョリジョリして俺の白魚のような柔肌には痛いんだ。
どうか俺の代わりにキシンを守ってやってくれ。
そしてこの時初めて会った弟と妹。居るとは聞いていたが会う事もなかった俺たち三人が初めて顔を合わせた。
フジオウは聞いていた通りの我儘坊主だった。初めて会った弟っていうだけで特にこれと言って感慨深いわけでもないし親しみを感じるわけでもない。俺に懐くほどの時間があったわけでもないしね。
ソウコの方は聞いていたよりやや大人しい印象を受けた。キシンが何処かに行ってしまうと思ったのか目に涙を溜めていた。流石に慰めてやりたいと思ったが、どうもコウちゃんと側室には壁があるようでキシンの姿が見えなくなると声も掛けずに三々五々と散って行った。
しかし側室が五人も居るとは知らなかった。キシンめどんだけお盛んなんだよ。ハーレムがこんなに目の前にあるなて、何て羨ましい、じゃなかった、けしからん!
そりゃ~コウちゃんも機嫌悪くなるよ。キシンの野郎、いつかギャフンと言わせてやる!
氏名:フジオウ・アズマ
年齢:三歳(ロイド歴三八七二年二月一八日生まれ)
性別:♂
身分:ミズホ国守アズマ家次男
職業:【槍士】レベル一(〇/一〇〇)
能力:HP一二/一二、MP五/五
スキル:【槍術】
氏名:ソウコ・アズマ
年齢:二歳(ロイド歴三八七三年六月九日生まれ)
性別:♀
身分:ミズホ国守アズマ家長女
職業:【狙撃手】レベル一(三一/一〇〇)
能力:HP一一/一一、MP八/八
スキル:【遠見】【銃術】
本当に先天性の職業を持っていた。
それとソウコの【狙撃手】は弓ではなく銃の使い手だった。つまりこの世界に銃が存在するって事だ。とは言え残念な事にアズマ家は銃を所持していない。
ソウコが俺に懐いてくれたらいつか俺がソウコに銃を創ってやろう。【狙撃手】って事は拳銃ではなくライフルの方が良いだろう。
フジオウは【槍士】なので槍を扱わないと経験値が得られないが、ソウコはどうやら【遠見】を発動させて経験値を入手しているようだ。意識してなのか無意識なのか分からないけどソウコはスキルを使う事ができるわけだ。もしかしたら俺のような転生者の可能性もあるけど、それならもう少し使い勝手の良い職業を選ぶ気がする。あくまでも職業を選ばせてくれるという前提があるのだけど。
ロイド歴三八七五年一一月中旬。
一月に渡ったオンダ家との争いも気温が下がると共に決着がつく事無く終わりを迎えた。オンダ家は兵力一〇〇〇で攻め込んで来た、対してアズマ家は兵力六〇〇で迎え撃った。
兵力では負けているがキシンはあのオバサンが言っていたようになかなかの戦上手でオンダ家の兵を翻弄したようだ。只、兵力に差があるが故に決定打とまではならなかったそうだ。
それでもほぼ倍の敵を追い返すなんて、やるじゃないのキシン君。
「キミョウマルの創ったこの鎧のおかげで命拾いをしたぞ!」
キシンが帰ってきて早々口を伝って放った言葉がこれだ。
確かに脇腹付近に大きな傷が付いているので刀なのか槍なのかの攻撃を受けたのは間違いないだろう。てか、総大将が何戦っているんだよ!
「オンダ家のコウゲン・クノウの太刀を受けたのだが、クノウめの太刀がポッキリと折れおったのだ。お陰で命拾いしただけではなくクノウの首を取る事ができた。でかしたぞキミョウマル!」
ガッハハハハハとお声を上げて笑うキシンの機嫌はとても良いようだ。
キシンが言うコウゲン・クノウという者はオンダ家の重臣だったようで歳はキシンよりはるかに上で四〇代らしいが、このコウゲン・クノウがオンダ家では一番の武闘派だったらしい。
だからキシンも一太刀受けており、コウゲン・クノウの太刀が折れなかったらと思うとゾッとする。怪我がなかったので良いが下手をすれば大怪我を負っていた事も考えられるのでコウちゃんは少し不機嫌のようだ。
「殿、そのように笑っておいでですがキミョウマルの鎧がなければ大怪我をしていたかも知れないのです。少しはその事を重く受け止めて下さい!」
「あ、う、うむ、そうだな・・・」
コウちゃんの剣幕にキシンも少し冷静になれたようだ。
とは言え、オンダ家の前線指揮官であるコウゲン・クノウを打ち取ったのでオンダ家はかなりの痛手を負ったと言えるだろう。こういうのは兵の損耗以上に効いてくる事もある。
これで暫くは時を稼げると思う。
だからコウちゃんに叱られてシュンとしているキシンを励ましてやろう。
「父上! キミョウマルの創った防具を褒めて下さり、キミョウマルは嬉しいです!」
「おおお、そうか、嬉しいか! うむ、そうだ! キミョウマルに仕事を与える!」
は? 仕事?
「ワシの『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の長太刀』と同じ物をそれぞれ二つ創るのだ。今回手柄を挙げた者に褒美として下賜しようぞ!」
ふむ、褒美ね。・・・良い考えかもな。アズマ家の領地は狭いと聞いていたから褒美で領地を与えるわけにも行かないだろうし金銭と言ってもアズマ家はそれほど裕福でもないらしいから俺が創った『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の長太刀』なら今まで使っていた鎧や刀よりも上等な物だから褒美として与えるのも良いだろう。
只、問題がないわけではない。何と言っても五歳の俺が創った物だし、そんな物を貰って嬉しい者がいるのだろうか?
俺は気になったその問題点について聞いてみた。
「ガッハハハハハ! 問題などない! 皆、ワシの『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の長太刀』を頻りに褒めておったわ! 敵の太刀を寄せ付けぬ『六鋼板当世具足』に敵の鎧を紙のように切り裂く『ミズホ鋼の長太刀』、皆この二つが欲しいと言っておったわ! ガッハハハハハ」
豪快に笑うキシンにコウちゃんが視線鋭く睨みつけるとキシンはバツが悪そうに口をつぐむ。
俺の『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の長太刀』がそんなに評判になっているなんて思っても居なかったので俺自身も少し嬉しい。
何よりキシンが無事に帰ってきたことが嬉しい。
「分かりました、『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の長太刀』をそれぞれ二つずつですね、只、『ミズホ鋼の長太刀』は臣下の者たちには長すぎると思うので野太刀にされた方が良いと思いますが」
「うむ、キミョウマルの言う通りであるな。では野太刀を頼めるか?」
「はい、父上が出兵しておりました間にそれぞれ創り置きをしておきましたのでそれぞれ二つ、直ぐにでもご用意できます」
「おお、既に創ってあったか。・・・それでどの程度の数があるのだ?」
「はい、『六鋼板当世具足』が八着と『ミズホ鋼の野太刀』が一三振りです」
キシンは少し思案をするとポンと手を打つ。
「うむ、では『六鋼板当世具足』を三着と『ミズホ鋼の野太刀』を三振り貰おうか」
「褒美を増やすのですか?」
「褒美の数は変えぬ、だがワシに考えがある」
その後、キシンの求めに応じ『六鋼板当世具足』を三着と『ミズホ鋼の野太刀』を三振りを供出した。それと俺の作業小屋に警備の兵が付けられてしまった。キシン曰く機密漏洩を防ぐのと俺の護衛らしい。
年が明けてロイド歴三八七六年一月。
俺の作業小屋を訪れたキシンが俺に『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の野太刀』の供出を求めてきた。だから『六鋼板当世具足』を一〇着と『ミズホ鋼の野太刀』を二〇振り渡してやった。
そしたらキシンが俺に金を渡してきた。
「この金はキミョウマルの自由にして良い金だ。後日、出入り商人のミズホ屋を引き合わせよう。その金でキミョウマルの好きな物を買うが良い」
「有難う御座います」
俺は素直に礼を言っておいたが、これは恐らくミズホ屋と引き合わせるし金も使えるようにしたからもっと良い物を創れ、というキシンの思惑があるのだろう。
為政者としては決して悪い判断ではないだろう。しかし父親としてはどうなんだろうね?
まぁ良いや。後は自由に城下町に行けるようになるともっと良いのだけどね。
その後のキシンの話で最初に供出した『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の野太刀』をキシンは京の都の王に献上したと言っていた。
どうやら俺の創った『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の野太刀』の素晴らしさを天下に知らしめるために献上したらしい。そして試し切りをした『六鋼板当世具足』と『ミズホ鋼の野太刀』を見ていた王がとても素晴らしいと声を挙げて賞賛したらしいのだ。
お陰で京周辺の国守や貴族から問い合わせが来ているそうで、今回の供出に繋がったわけだね。
この二つを輸出するのは賛成しかねるけど、キシンは金策の重要性に気付いているようだ。没落した家を再び隆盛させるのは非常に厳しいだろうが、俺は応援しているぞ。
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