3日目―命令だから―

「ディラくん、お昼ごはんデすよ」


ごく平和なお昼時の一軒家

メイドロボ ディラミスの声が響き渡る


「はーい」


返事をしたのはディラミスの主人たるディラ

遊んでいた携帯機器ゲームを中断し、台所へ行く


「わぁ、おいしそうだね」


いつも家に一人で留守番している彼は

母が買い貯めたレトルト食品などがいつものお昼ご飯なのだが

やはり手料理ならぬロボ料理の方が美味しそうに見える


「ありガとうございマす

 冷めないうちに召し上がってくダさいナ」


お言葉通りディラは早速料理をいただくことにした

とても美味しい

お母さん達がディラミスを

買ってくれてよかったなと思う瞬間だ


「ゴクッゴクッ……」


おいしい料理と飲む水がこれまた美味しい

まるで中年がお酒をのように飲み干し

ゴトっとテーブルに置く


「お水いれマすね」


気が利くメイドロボはすぐさま新しく水を注いでディラのもとへと置く


「ディラくんはいつも夕方まで一人なのデすか?」


突然ディラミスが質問してきた


「うん、そうだね

 友達と遊べるのはお母さんが休みの時だけかな」

「いままデ寂しくなかったのデすか?」


首をかしげて聞くディラミス


「寂しい……っていわれたらそうだけど

 慣れているし外は危ないから」


一般的な魔界の家庭では

両親は共働き、子供は一人で留守番という形が多い

特に学校も無ければ子供を預かる場所も無いのだ

かといって職場に子供を連れて行けば

迷惑がかかるのでそれも難しい


もちろんそれを知って子供しかいない家を襲う者も多くいるが

その場合は仕方ないと諦める


魔法世界、魔界とはいったものの

強い力をもつ者たちが溢れるこの世界は

悪魔世界、魔界と捉えられてもなんらおかしくないのだ


「学校はいかナいのでスか?」

「学校なんて無いよ?」


ディラも自分の住む町には学校が

ないことぐらい知っているし

だいいちあったとしても通うお金が無い

文無しなのも魔界一般家庭のよくある事情だ


「ねぇ学校ってそもそもなんなの?」


ディラが聞いた


「学校とは向上心のある者を収容し

 半強制的に教育を行ウ場所でス」

「?」


ディラミスはこたえるも

難しい言葉でディラにはいまいち通じなかった


「……ともおもわれがちでスが

 利用の仕方によっては確かに実力向上へ繋がりマす

 多くの出会いなども期待できるデしょう」

「ふーん……楽しいの?」

「なんトも」


そして昼食を食べ終えたディラは

ごちそう様といって

後片付けをテキパキとディラミスが行った

そのまま彼女は家の掃除を始める

おかげさまで家の中にはホコリが少ない


ディラはメイドロボのいるこんな生活に

徐々に慣れ始め、いつもどおり自室へと戻った



「よっと」


自分のベッドに大の字で飛び込む


ぼふっという音が立ち

ベッドが彼を優しく包み込んだ後

置きっぱなしにしていた携帯ゲームを手に取った


このままゲームをしたりテレビをみたり

子供の頃からディラはずっとこんな生活だ

羨ましくもあり、そんな毎日を過ごしている彼にとっては

子供ながらどこか虚しく、寂しくも感じている


「…………」


ほぼ飽きている馴染みのゲームを

つけっぱなしにして床に放り出し

天井をボケっとみつめる


「将来……」


一言だけ

ポツリと呟いた


それと同時に部屋の扉からノック音が聞こえる


「ディラくん、はいりマすよ」

「……あっ、う、うん」


ハっと我に返ったディラ


「ア」


部屋に入った直後、ディラミスは何かを見つけた


「携帯ゲームの電源がつけっぱなシですので消してオきますネ」

「あ!」


ディラが気付いたときには遅かった

善意でディラミスがゲームの電源をオフにしていたのだ

……それは3時間前からセーブしていなかった


「もう! 勝手に消さないでよ!!」


初めてだろうか?

ディラミスに対して思わず声を荒げてしまった


「消したらだメでしたか?」

「朝から進めてたのに! 余計なことしないでよ!」


ゲームのことでカンカンになるディラ

それしか楽しみが特にない彼にとっては仕方もないのだろうか


「申し訳ありマせん」


表情はいつもどおり真顔で謝罪するディラミス

プログラムであって心などあるわけがないし

それがなんだか余計にムカムカしてきたディラ


「もう部屋にはいってこないでよ! 僕の命令!」

「ハい、かしこまりマした ディラくん」


その言いつけどおりディラミスは

静かにディラの部屋から出て行った


バタン


扉は締められ、再び一人に


「……格安のポンコツだね」


心が無いのは誰なんだろうか

感情に任せて少年は聞こえるか聞こえないかぐらいの声でそう呟いた


「――最下級製品ですのでお許しくダさいネ」

「……!」


聞こえていたらしい

実は聞こえないでほしい、と思いつつも

聞こえていたことに少年はやっと罪悪感を感じた


だがお分かりいただけるだろうか

世の中にはつまらない意地というのがあるものである


「もう喋るな!」


心にもない言葉は連鎖するもの

それでもメイドは扉越しにハイ と単調に返事をし

それっきり声も音もしなくなった



――夕方



母が帰ってくる


「ただいまー!」


ディラの母は元戦士で体力もあって元気もいい

今は戦士の経験をいかして武器屋で売り子をして生計を経てている

いまいう事でもないが現役の戦士ディラの父は客として来店した時

そこで出会い交際が始まったというなり染めだ


……


「ただいま~?」


元気な母の声が疑問系に変わる

息子とメイドから返事が返ってくるものと

思っていたのにまるで静かなのだ


「あ、ディラミスちゃん」


なにか不安になっておそるおそる部屋を探していると

ディラの部屋の前でディラミスが棒立ちしていた

母をみてペコリとおじぎをする


「ねぇディラは? 部屋?」

「……」


ディラミスは何も喋らない


なんで喋ってくれないんだろうと母が疑問に思っていると

ディラミスの口からレシートのように紙切れがでてきた

そこには文字が書いてある


「……マスターから……喋るな……と命令されております

 ……えぇ?」


眉をひそめる母

それからピンとくるものがあったのか

ディラミスにどいてもらいディラの部屋へと入った


「ディラ! おかえりは?」

「……おかえり」


まだわけもわからずふてくされている様子のディラ

母はそんな息子の前に座った


「あんたディラミスちゃんにゲーム消されたんでしょ?

 それでスネてディラミスちゃんにこんなことしたの?」


母親の得意技とでもいえばいいだろうか

子供がゾっとするトーンに声を下げてディラに問う

察しがつくあたり、同じような事を

母も何度かしてディラがスネたことがあるようだが

それにしてもさすがは母親というものである


「……」

「楽しみにしてるゲームだもんね

 留守番してくれているからとやかくいわない

 でもディラミスちゃんにどうしてあんなこと言うの?」


なんでそれをしってるの? と、驚いた表情で母を見つめるディラ

そのあたりははぐらかす


「早くディラミスちゃんに謝ってバカな命令取り消しなさい!

 ディラっ!!」


母の厳しい口調と目線がディラの顔をあっという間にくしゃくしゃにさせた

思えばスネた理由はくだらないし馬鹿馬鹿しいが……

なにかでたまり続ける不満が爆発するとしたら

なんてことのない些細なことかもしれない


少年は母の言葉をうけて

おえつをあげながら涙ぐんでディラミスの前でこういった


「……ご…ごめんな゛ざい……っ

 うっ…んぐっ……しゃべっでもいい…ひぐっ……いいよ」



はイ、ディラくん



メイドロボは何一つ変わらない態度で声を発した

それが冷淡にみえるのか、温かく見えるのか……


ただディラは知らなかった



キカイは扉の前で

次の命令をずっと待っていたことに






3日目―命令だから―

まタ明日……

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