2日目―初めて見るそれは―

ジリリリリリリ!!


と、でも本来は鳴ったのだろうが

そんな音は鳴っていない


早朝

聞こえてきたのは

騒音ではなく機械音声だった


「ディラくん、朝でス 朝デす 朝ですヨッ」

「ん…ん~~……」


女性らしくも機械的でリズムをもった声が

ディラを眠りから目覚めさせようとしている


寝ぼけ眼なディラは目覚ましが鳴ってると思い

手当たり次第に手を伸ばし始めた

もちろんそれは目覚まし時計のスイッチを探すためなのだが

彼のまわりに時計と思しきものはない


「お母様が朝食ヲ作ってすでにおマちです

 はやく起きまショう」


まだ寝ぼけているディラを揺さぶる機械音声の主

もといメイドロボ ディラミス


ディラがここまで寝ぼけているのも仕方ない

いつも彼は8時ぐらいに起きる習慣なのだが

ディラミスが起こしに来たのは7時

メイドロボを利用し ディラの習慣を

変えてもらおうという母の計画らしい


ディラくん朝でス―― ~ ――起きまショう


このくだりを6セット行ったところで

ディラはしぶしぶ目を覚ました


「お…おはよう」


こんなにも早く起こしにきたのが母親だったら

ふてくされの1つや2つはしただろうが

寝てド忘れしていたメイドロボの顔がそこに1つ

いや、2つにみえたかもしれない

だから目をこすって改めてみると

やっぱりそこにはメイドロボというより

知らない綺麗なお姉さんが立っていて思わず頬を赤らめる


「おキましたカ?」


中腰は上目遣いでディラを見るメイドロボ

着替えの服を腕にかけ用意は万端といったところだ


「うん、起きたよ

 ……まだ7時……」

「7時というのはどの世界でもすでに

 起床してイておかしくナい時間ともいえます

 ディラくんも、それにのっとリましょう」


半ばディラミスの変なペースにまきこまれ

ディラは寝巻きから着替えた後、台所へ移動した



すでに台所では

母が朝食を食べながらテレビをみている

そしてディラとディラミスに気付いたようだ



「お、さすがメイドさんね

 バッチリ起きたじゃない」


ご満足といったディラの母

食べている朝食を持ちながら続ける


「それにご飯も私のより美味しいよ

 これで最下級の子だなんて失礼ねぇ~」


どうやら目の前の朝食は

すべてディラミスがこしらえたようだ

美味しそうな魔鳥の卵焼きに

針猪のベーコンに食パン


シンプルだがいつも食べる母の料理に比べると

とても豪華である(だいたい食パンのみ)


「いえいえ、私は自他共に認める最下級製の商品でス

 超級の方々たちの足ノ爪先ニも及びマせん」


そんなディラミスの事実とも自虐とも捉えられる

発言を聞きながらパクっとご飯を食べるディラ

確かに美味しい だからこそ

超級だったらもっとすごいんだろうか? とか

ちょっと考えてしまった


「超級なんて千年働いても買えやしないよ

 でも超級とやらはどんなことができるの?」


やった

ディラが気になっていたことを

ちょうど母がきいてくれた

ご飯を食べながら聞き耳を立てる


「料理でシたら魔王様おつきのシェフに劣らない腕前

 ボディーガードもこなし、私のよウな

 聞き取り難い音声ではナく、より人らしク

 感情も豊かデ、恋愛、結婚、出産も可能デす

 まさしく万能といったトころでしょうカ」


もちろんディラミスが述べたのはほんの一部

主人の好みに顔・形すべてを完全にカスタムできたり

その内容は書ききれないほどで

至れり尽くせりの、もはや兵器

世界でも数台しかなく名だたる大富豪が所持しているとの噂だ


「確かにディラミスさんってカタコトで

 ちょっと変だよね」

「ハイ、しかたあリません

 私の声のデータとなるボイススタッフがイますが

 およそ無尽蔵の言葉を収録しきるニは人件費がかかりすギ――」


なにいってるかちょっとわからないディラであった

生々しいことをいっていたのは間違いない


「ところでお母様、ディラくんの

 基本的なスケジュールを教えていただきたいのデすが」

「ディラの? ん~そうねぇ…私はそろそろ仕事だから……

 ディラにきいてちょーだい」


この家庭はいつも朝7時半には母が

その1時間前には父がすでに仕事へ行き

夜までディラがお留守番という形になっている


「スケジュールって?」


ディラにはまだ聞きなれない言葉


「予定でス それによって私の行動をきめマす

 あるいはマスターから指示をいただきまス」

「ん、ん~……」


まだまだ幼い7歳

そんな子が明確に予定を立てることなどできない

そうこう悩んでいると母が仕事へと出発した


「いってラっしゃいマせ、お母様」


ぺこりとお辞儀をしてみおくるディラミス

それをみて母はハっとなにかを思いついた


「ディラミスちゃん、よかったら

 家のお掃除とかも頼める?」

「もちろんデすよー」

「お願いね!」


そして仕事へと出発した


「それではディラくん、特に予定がないようデすので

 私は掃除を始めたいとおもいマす

 なにか用事がでキましたらお申し付けくダさい

 留守番なども担当しマすので」

「う、うん わかった」


掃除を始めるらしいので

ディラは別の部屋へ移動することにした

…のように見せかけ、どんな風に掃除をするのか

興味がわいたのでチラっとディラミスの様子を覗く


「!」


ディラは目を疑った

ディラミスの腕がパカっと折れた…いや取れたのである!

壊れたのかと思って急いで声をかけようとしたその時


ギュィィィィイイン


聞き覚えのある吸引音が聞こえた

なんと取れた腕の切断面は掃除機の役割を果たすようだ

ディラミスは器用にもホコリだけを吸い取っていく


「ディラくん、なにかご用でスか?」


吸引を止めこちらを振り向いたディラミス

最初から気付いていた様子である


「いや、あの…すごいなって思って……」


正直な感想を述べるディラ

取り外した腕をカポっと組み直す様をみて

あぁやっぱりロボットなんだと実感する


「この程度で凄いと思うでスか?」


首をかしげながら問いかけてくる

うん ディラは素直に応えた


「それでは先ほど吸い取ったハウスダストの

 結末をおみセしましょウ どうぞ屋外へ」


ディラミスにそういわれて家の外に出てみると

自分より後ろに下がるよう指示された

そして


「メイドとしてゴミを残すわけにはいキません

 ゴミは――」


その言葉の後 取り外した腕から

先ほど吸引口にすいこまれたホコリが球体に圧縮され

そのまま上空へボンッと打ち出されたあと


ビビビビビビビビ


なんとも独特な音と共にディラミスの水色の瞳から

波打つ光線が発射された


「――滅するのミ」


そのお言葉通りビームによってゴミは完全に消されていた

燃えカスすら無い


これには言うまでも無いが

ディラは幼いながらにも腰を砕いて座り込んでいた


「楽しんでいただケましたか? おヤ?」


計算では興奮している姿を想定していたのか

実際は腰を砕いて座り込んでいるマスターを見て

首をかしげるディラミス


「このビームは人に向けて射出しまセん ご安心ヲ」

「う、うん……」


冷や汗タラリ

正直怖くなったのは言うまでも無い


「ですガ」


力強く感じるディラミスの声


「ディラくんを危機的状況に陥れるモノに対してハ

 躊躇なク排除しまス」

「あ、ありがとう」


ディラが思うに機人とは、ディラミスとは

とてつもなく恐ろしい力を持ったものなんだろうと感じ始めた

それが味方だとしたら十二分に心強いことではあるが……



ピピッピピピ……



ディラが色々と考えていると

機械音が耳の側で鳴る


「ディラくんの精神がゆれていまス

 何かご心配をおかケしましたカ?」


すでに何度か見た中腰の上目遣い

やはりこれには少しドキっとするディラ


「あ、いや……」


しかし内心ディラミスが怖い

とは相手がロボだろうが言い出しにくかった彼は

なんとか誤魔化そうと振舞う


そんな彼の戸惑う表情を見て

ディラミスは察したかのように中腰を戻した


「そレでは、クッキーをつくりまショう

 ディラくんは、クッキーすっきーですカ」

「クッキー? う、うん好き!」


子供にとって魔法の言葉ではないだろうか?

色んな不安をかき消してディラの頭を一瞬で

クッキー色に染めた


「腕にヨリをかけテつくりマすね」

「うん……! お願い」


これは驚いた

表情がないと勝手に思っていたディラミスが

笑顔を見せて家の中へともどっていったのである


機能性はまだ未知数……

しかし笑顔の表情をつくることぐらい

造作も無い話なのだろうが ディラにとって

初めて見る


お姉さんの笑顔は


とても不思議で


嬉しかった



少年は家の中へ入っていく


不安を忘れた微笑みで――






2日目―初めて見るそれは―

まタ明日……

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