第105話 連行される俺
「気付かれましたか」
失神から気付くとアルマが顔が目の前にあった。膝枕をしてもらってたようだ。
状況が掴めず呆けていると、アルマの眉間が寄せられる。
「お体の調子は如何ですか?」
それには答えず起き上がるとランプで照らされた薄暗い空間の中に閉じ込められているようだ。ゴトゴトと振動がするので何かに引っ張られて動いているように思われる。
アルマが心配そうにこちらを見ているがその心情を慮る余裕が無い。
立ち上がり外に出ようとするが出られるところが無い。鉄の格子に囲まれている。つまり幌を掛けられた檻の中にいた。
「アルマ。今どんな状況なんだ?」
「……強硬派。つまり司教枢機卿の手に落ちたようです。囚われて教会総本部に連れて行かれる途中です」
「教会総本部? 教皇はいないのか?」
「教皇様もいらっしゃいますが……教皇様は秘密裏に教会総本部の教皇様のお部屋にお連れするように指示がございました。そうしないと司教枢機卿の手に渡ってしまうと」
「教皇とやらも大したことないね。杜撰な計画ですこと」
「……教会内のことは司教枢機卿が取り仕切っておられるそうですので、教皇様直属の手はそれ程多くないようです」
まあ、教皇でも司教枢機卿とやらも俺にとっては違いは無い。無理矢理連行しようとするのは良くないよね。
最近は細菌を自重してたけど、そっちがその気なら、俺もやっちゃうよ!
……と考えたけど、幌が掛かってるせいでどこに人がいるのか分からない。空気感染で! とも思ったけど俺やアルマが先に感染しちゃうよね。この中で増殖させたら。増殖させながら除菌するなんてそんな器用なこと出来ないし。
「はぁ」
なんか疲れたな。失神して寝てただけだけど。
「シンゴ様。どうなされました? 」
「……いや別に。なんでこうなったのかね。俺は静かな生活をしたかっただけなのに。アルマの居た村に行ったのは一人じゃ不安定な生活になっちゃうからお互いに支え合えないかなと思っただけなのにね」
「そうですね……私も穏やかに暮らしたい。必要な物を必要なだけ収穫して。争いなんて無ければ良いと思います。でも……」
「でも?」
「私の両親は私の目の前で殺されました。偶に思い出すのです。そして思うのです。全て燃えて無くなってしまえばいいと」
ギョッとして思わずアルマを見るとアルマは虚空を睨みつけていた。
「……それは怖いな。無くなったらアルマも生きていけないじゃないか」
アルマは自嘲気味笑い首飾りをいじり始めた。
「私はこの国も教会もどうでも良いのです。ただ、教皇様は私の両親を弔って下さいました。その恩をお返ししたい。それだけです」
「俺が教皇と会ったらアルマはどうするんだ?」
アルマはふわっと微笑みながら俺を見つめてきた。
「……シンゴ様は一人でずっと暮らしてたのでしょ? 凄いですね。私にはできません」
「まあ独りでいるのは慣れてるからね。最低限生きていくだけの物はあったし」
「あの村はギスギスしてました。領主や教会から隠れてたので当然でしょうけど……。私達も辛く当たられましたね。優しくしてくれたのは外から来た人だけです」
「ふーん。あの村に外から来る人がいたんだ。行商人みたいな人? 」
アルマは何が可笑しいのかクスクス笑うだけで答えてくれなかった。
道が悪いのかゴトゴト揺れる檻の中でうつらうつらしていると。
幌の外が騒がしくなり檻が止まった。
「シンゴ殿。起きておられますか」
この声はオルハンか。
今度近寄ってきたら嫌がらせしてやる。前歯を虫歯でボロボロにして残念な笑顔にしてやる。
「到着いたしました。教会総本部ネストウスようこそいらっしゃいました」
幌が捲られると長大な城壁の向こうに背の高い建物が何塔も建っているのが見えた。
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