第100話 未遂な俺

「お座り下さい」


 アルマが俺に椅子を勧める。

 なんだか得体の知れない煮物だかシチューだかが皿に盛られて目の前に置かれた。

 ここで言い争ってもしようがないので食い始める。


――まずい。


 俺が作れば良かった。味がない。調味料の使い方がわかっていないようだ。

 勿体無いので完食したが。


「……アルマ。明日は俺が作るから」

「お口に合わなかったでしょうか?」

「え〜と。……毒を盛られるかもしれないから俺が食うもんは俺が用意するわ」


 アルマは不服の表情だったがこれは聞き入れてもらいたい。

 ずっと体を洗っていなかったのでお湯を沸かし体を拭く。風呂に入りたいと思うが、ここには風呂を作るまでの時間が無かったからな。

 布で体を拭っているとアルマが布を取り上げ背中を拭いてくれた。


「……悪いな」

「いえ。身の回りのお世話が私に与えられた役割です。明日にはここを出ます。今日はお休み下さい」

「勝手だな。俺は俺のしたいようにしてただけなのに」


 一瞬、背中を拭うアルマの手が止まる。そして意を決したように強めに背中を擦りながら喋り出す。


「貴方は危険です。貴方の祝福も危険ですが、貴方自身を狙っている勢力も出てきました。教皇は貴方の祝福をご存知の様子でした。ひた隠しにされておられたようですが、どこかで漏れてしまったようです。サーリム様は少なくとも貴方を害そうとは考えておられません」

「……麓の家を襲った奴らは?」

「教皇の指示に従ったようですが、強硬派の息が掛かっています。」


 ん? なんかに巻き込まれてる?


「ラタール教も一枚板ではありません。……詳しくは言えませんが、一度教皇にお会い下さい。それで分かるはずです」


 それ以上は俺が話しかけても相手をしてくれなかった。

 体を拭いてさっぱりした。夜には少し早かったが眠さがピークになり耐え切れなくなった。


――寝てる時にブスッとされたりしないだろうな。


 寝台に横たわり目を閉じるるとすぐに眠りに落ちた。




 ふと目が覚めた。

 部屋の隙間から外を窺うと真っ暗になっている。

 寝台の横の床に誰かが寝ている気配がする。

 そっと寝台を抜けだして家の外に出ようと玄関扉を押すが出れない。重石をしているようだ。

 扉をガタガタしていたら外から声が掛けられた。


「なんじゃ?」


 この声はガルだな。


「ちょっと小便だ。家から出させてくれ」


 引きずる音が聞こえと、扉が開いた。

 ガルが扉から顔をだしあごをしゃくり、外に出るよう合図する。

 松明を持っているので足元には不安はない。

 靴を履きながらサーリムがどこにいるか確認する。


――このまま逃げ出すか


「無駄なこと考えるなよ?」


 サーリムが声を掛けてくる。

 ため息をつきながら用を足す。

 さっき靴を履きながら靴に仕込んでおいた暗器の苦無くないを握りしめる。


――サーリムだけを始末すればなんとかなる。


 部屋に足を向けると同時にサーリムに投げつける。

 この暗闇で投げられたら避けられないだろうと思ったらあっさりと避けられた。


「余計なことすんなって。バレバレなんだよ。貴様は武術を習ったことないだろ。体の動き方が雑すぎだ。それじゃ人は倒せんぞ」


 サーリムに呆れたように言われてやる気が失せた。


 部屋に戻るとアルマがこちらを見ていた。

 寝台の横で寝ていたのはアルマだったか。男の横に寝るのは関心しないな。オオカミさんに食べられてしまうぞ? ただでさえムシャクシャしてる男がここにいるってのに。

 扉を乱暴に閉めるとアルマにのしかかる。

 アルマは何も言わずにじっと俺を見つめている。


「……助けを呼ばないのか?」

「これも私の役目のひとつです」


 胸を鷲掴みにするが、依然としてアルマは見つめているだけだ。

 瞳には何も浮かんでいない。怖くないのだろうか?


「今だったらまだ間に合うぞ」

「私は初めてですが、これも女の努めです。お気になさらずに。それに……」

「……それに?」

「教皇は仰られました。シンゴ様は手を出さないだろうと」


 まるで俺が甲斐性なしの意気地なしみたいな言い草だな。俺もやる時はやるんだぞ。

 

「シンゴ様は優柔不断で意気地なしなのでこちらが誘ってもなかなか手を出してこないと」


 知ったように言うな。昔、幼馴染に言われた記憶が蘇るだろ。

 気持ちが萎んだので寝台に寝っ転がる。靴を脱ぎ忘れて転がりながら靴紐を解いていく。

 アルマはクスクスと笑いながら服を整えこちらを見ている。

 俺は視線から逃れるように布を頭から被り眠りにつく。

 アルマはまだ笑ってる。何が面白いんだ。


――しかし。ノーブラだった。柔らかかったな。惜しいことしたかも。


 少し悶々としたが、まだ体が休憩を要求していたのかすぐに眠りにつき、起きたのは日が登ってからだった。

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