第四章 決意する俺

第99話 砦に辿り着く俺

 日が中天に差し掛かり、昼といっていい時間に砦に辿り着いた。


――あれ? 


 門番の鉄人が止まってる。確かに起動していたはずなのにどうしたんだろう? 今までこんなことなかったはずだけど?



 門扉を開け、中にはいるが弓人形も動いていない。


 燃料的なものか? 

 まあ燃料なんて入れたこともないが。


 しかし、人形が祝福だけで動くのかが良くわからん。物理の法則に反してる。そもそも俺は物理を良く知らんが。


 寝不足だし、腹が減ったし、喉も乾いた。とりあえずは一休みしないと何も始まらんな。


 疑問が晴れぬまま、家の扉を開ける。この家は土足厳禁にしている。日本人としては当然だな。

 靴を脱ぐためにしゃがむと、目の前に置いてあるテーブルから声が掛かった。


「お疲れさん。遅かったじゃねえか」


――えっ? 今、声がしたよね。


 靴に向けていた視線をテーブルに上げると見知らぬおっさんが椅子にふんぞり返って座っていた。

 テーブルの上には食べ物が食い散らかされた跡がある。

 おっさんの後ろにはガルとアルマがたたずんでいた。


「……うぇ? あれ? なに? これはどうなってるの? 」


 俺は挙動不審気味にきょろきょろとしながら。声を絞り出す。寝不足のせいないの糖分不足のせいなのか頭が働かない。


「どうした? まあ落ち着いて飯でも食えや。どうせ碌なもの食ってないんだろ。」


 見知らぬおっさんが俺に食い散らかされた食料を押し付けてくる。


――そもそも俺が備蓄してた食料なんじゃないの? このおっさんやアルマがなぜここにいるの? 警戒してた人形はどうした?


 思考停止状態に陥って動けずにいたが、時が経つにつれ頭が回り始める。


「……靴を脱げ」


 ちらと目に入った足元をみると何故かそんなどうでもよいことが口から出てきた。


「ん? 靴か? まあいいじゃねえか。そうそう自己紹介してなかったな。俺の名はサーリム。後ろのやつらは知ってるだろ?」

「……どうやってここまで入った?」

「ちゃんと玄関から入ったさ。何一つ壊してないぞ。まあ、食い物は少し頂いたが。教皇がお呼びになってるから付き合ってもらいたいんだがどうだろう。すぐに行くか? ちょっと休憩するか?」


 教皇の名前が出たところでぴくっと反応してしまった。ここまで追い込まれたってことか。


「なぜ? 」

「麓であのお莫迦ちゃんが説明してなかった? あの猪野郎には難しかったかな~」

「なぜ俺をつけ狙う。アルマ達も仲間だったのか」


 アルマを見ると、目を伏せ立ちすくんでいる。

 ガルが横から口を出してきた。


「儂らがどうだろうと、この地にラタール教が統べておる。教皇から呼び出されたとあらば出頭する。これが定めじゃ。悪いようにはせん。アルマにお前さんの世話をさせよう。どうじゃ。儂の孫は贔屓目なしでも器量良しだと思うがのう」

「そのガルの孫のアルマって家族設定は嘘じゃないのか? 」

「疑り深いのう。そもそも儂らがあの村にいたのはお前さんとは無関係じゃ。そのころにそんな話の作り込みなんてできないだろう。そして村に訪れたのはお前さんじゃ。巡りあわせじゃのう」


 ガルはそれ以上話すつもりもなく目を瞑った。

 俺は観念するように両手を上げる。


「分かった。飲まず食わずで寝不足気味なんだ。出発は明日でも構わんだろ?」

「……随分と聞き分けがいいじゃねえか」

 サーリムは目を細めて俺の顔を窺うと、アルマに向かってあごをしゃくる。

 アルマは俺の前に跪き、俺を見つめてくる


 「ご用件をお申し付け下さい」

 「……腹が減った。俺は一寝入りしたい。全員この家を出てってくれ」

 

 アルマは机の上を片付け、簡単な食事を作り始める。

 ガルは家から出ていった。家の扉の外で番をするつもりのようだ。


「あんたも出て行けよ。サーリムさんよ」


 俺はサーリムを睨みつける。

 サーリムは鼻を鳴らすと扉に向かって歩き出す。


――簡単には捕まるつもりは無いんだよ


 すれ違いざまに真言を唱える。ミトコンドリア暴走でサーリム諸共この家を燃やして逃走するつもりだ。


――あれ? 発動しない?


 サーリムがこちらを見てニヤッと嫌な笑みを浮かべる。


「そうそう。俺の祝福は相手の祝福を打ち消す能力でな、貴様のご自慢の人形達も動いてなかっただろ? ま。ゆっくり休憩してくれや」


 瞬間的にカッとしてナイフを抜き、打ち掛かるが簡単に制される。

 俺はサーリムに片腕を極められてテーブルの上でうつ伏せに押し倒される。


「じゃあナイフは預かっとくからな。外にいるから用があれば言ってくれ」


 ナイフを取り上げられサーリムは家から出て行った。

 家の中には俺と食事を作っているアルマだけが残された。 

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