第88話 害獣ハンターな俺

 攻められた時の準備を着々と進める。

 戦力は三倍増になってるし、色々仕込んだ。全てが上手くいったわけではないが。そもそも俺の能力もそれほど高いわけじゃない。


 質素な生活を心掛けているが、何も無い中で楽しみといえば風呂と食事ぐらいしかない。

 ぼっちなので人と喋ることもない。人形には話しかけてるがまあお察し。ぼっち生活に必須なネットもゲームもマンガや本もない。自給自足生活も人形達がある程度やってくれる状況になると自由な時間が増える。つまり、余った時間の矛先が料理に向くのも必然であると言えよう。


 今、放牧しているのは山羊だけだ。牛もどきは何処かに行ってしまった。鶏はもとよりいない。豚が欲しいところだが、街にも村にも飼っているところを見たことがない。いないのかもしれないが猪はいる。畑がたまに荒らされている。彼奴等頭がいいのかゲリラ人形の警戒の穴を突いて侵入してくる。それも味をしめたのか何度も。恐らく同じ個体だと思う。

 獣害対策と共にそいつを狩ることにした。決して豚の生姜焼きを食いたいためではない。生姜はないしね。しょうがな……おおっと! 救いようがないことを言ってしまうところだった。

 猪に前回遭遇した時は恐ろしい目にあったが、今では護衛する人形もいるし、弓矢の使い方も習熟してるし毒矢もある。負ける気がしない。



 畑をパトロールし、新しい侵入跡を追走していく。藪をかき分け獣道を歩いていく。糞や足跡の状態がそれほど遠くまで行っていないことを教えてくれる。


 風向きが悪いな。


 進行方向に向かって風が吹いている。この先に猪がいた場合、既に俺の存在がバレているかもしれない。バレると猪が逃げてしまうし、いきなり飛び出してきてタックルされるかもしれない。そうなると危険なので進路をそらす。その前に獣道に罠を仕掛けるかね。


 この辺は背の高い木々が密集していて下草があまり生えていないので移動も比較的楽だ。藪を抜けると湿地になっている場所に出た。その辺の泥が掘り返され荒らされている。ここに猪がいたのだろう。所謂、沼田場ぬたばってやつか。ここで猪が寝っ転がって泥でダニとかを落としてる場所だな。


 それにしても沼田ってる場所が多くないか? 1、2、3…… 大小合わせて20箇所あるぞ? そんなにこの場所を好んでゴロゴロしてたのか?

 それとも群れか? 猪って群れるの?


 足跡を見ると集合して山側に向かって歩いているようだ。風もちょうど横薙ぎの風向きになったのでそのまま追跡していく。丘を登っていく感じで歩いて行くと、足跡が乱れてどっちに向かったかわからなくなった。

 一番大きな足跡を確認しながら斜面を登って行くと途切れている。周囲を見渡しても足跡が無い。仕方がないので戻って別の足跡を探す。 


 突然、足音がこっちに向かってやってくる。

 振り向くと猪が俺に向かって突進してくる。


「うわっ! 」


 叫び声を上げながら横転しながら避ける。ちなみに、久しぶりに声を出した。よかった。俺の声帯は生きていたようだ。

 ってそんなことどうでもいい。

 起き上がって猪が走り抜けた方向を見ると、方向転換をして突進しようとしている。

 たすき掛けにしていた弓を肩から降ろし矢を番えようとすると、別の方向からも足音がする。

 左手からさっきのヤツより少し小振りな猪が俺目掛けて突っ込んでくる。


「やべっ! 」


 死ぬ。垂直方向に走るが、絶妙に方向修正して突進してくる。誰だ猪突猛進なんて言った奴は。


 教訓。猪は曲がれます。直進しかしない馬鹿なやつではありません。


 昔、こんな光景を見たことがあるな。デジャヴ? いや、モンハンで見たな。猪の群れに絡まれてすっ飛んでた記憶があるわ。5、6匹いるとどうしようも無いので別のエリアに逃げていたっけな。

 あの状況を見ると、まだ2匹しかいないから余裕だよね。掛かってるのは俺の命だけど。ワンミスでゲームオーバーになるけど。

 2匹目の突進も辛うじて避けて辺りを見渡すと……。


 いや、もうね。大小とりどりの猪さんいっぱいですわ。


 弓矢を投げ捨て避けることに専念する。

 木の上に逃げようとしてもそんな隙が無い。


「やれっ! 」


 人形に命令を出す。随行していた猿飛サスケ人形とエバZERO號機と初登場【エバ壱號機】他12体で構成する【エバ拾参號機】までが動き出す。

 エバ壱號機がプ□グレッシブ・ナイフもとい普通のナイフを持ち、走ってきた猪の正面に立ち、カウンター気味にナイフを突き立てる。


 ドゥン!


 すごい音がして壱號機吹き飛んだ。頭や腕のパーツが四散している。……役に立たんな。


 そちらに気を取られてる内に他の猪がどんどんエバ達を吹き飛ばしていく。俺も狙われて避けるのが精一杯で、手の施しようがない。猿飛人形が木の上から吹き矢を吹いているのが横目で見える。

 エバ達で時間稼ぎが出来れば神経毒が効いてこの窮地は脱せるかもしれない。

 問題はエバが文字通り時間稼ぎにしかならないことだろうか。手足辛うじて残った人形はバタバタのたうち回っているので、猪が気味悪がっているのか近づかない。それを盾に逃げ場を確保する。



 ふぅ。終わった。

 なんとか逃げ回って18体全ての猪を倒した。全て猿飛が吹き矢で倒した。猪の皮が厚いのか何度も矢が刺さってもびくともしない個体もあったがどうにかなった。


 こんなに数は必要ないので子供の猪。まだ縞が残っているうり坊を一匹だけ持ち帰ることにした。

 大きい個体はまだ息もあるしそのうち蘇生するんじゃないかな? 

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