第65話 余計な事を考える俺

 その夜。

 座敷牢の様な所に捕らえられた俺にアルマが食べ物を運んできた。


「ありがとう」

「……いえ。何もできずにごめんなさい」

「まあ、突然だったしな。で、村の様子は?」

「貴方が持ってきた荷物は村で均等に配られました。 ……村の男衆は貴方の家を探しに森の奥へ」


 まあ、見つからないと思うけどね。

 こんな事もあろうかと森をジグザグに歩いて跡を追いにくいようにしてあるし。森のなかは視界が効かないので地図がないと迷うし。見つかりやすいのは川に架かった橋だけ。でも、橋の両端には鉄人を配して俺以外の人が近づいたらロープで出来ている手摺だけ残して橋桁は落とすようにしてある。


「そうか。また変わったことがあったら教えてくれ」


 アルマは俺が返した首飾りをカチャカチャと鳴らしながら去っていった。


――そういえばアルマの年齢を聞いていないな。


 20歳はたち未満だと思うがこの世界に来てずっとぼっちなので比較対象がなく分からない。それに元日本人としては外人の年齢なんてなかなか判別しにくいもんだ。

 アルマの姿を思い返してみる。背は160㎝ぐらいか。スラっとしていてスタイルは良いが胸は控えめな感じだな。もうちょいあっても問題ないと思うが……。


 そういえば……。


 もっと重大な事実に気付いてしまった。あのおなご乳バンドブラジャーをしていない。


 俺のスカウターがピピピと反応している! 

 動くと控えめな胸が上下に動いている! 


 これは重大な事実だ。萌えるポイントとしては服にに浮き出るポッチが……。

 いや、止めよう。囚われて暇だと碌なことを考えないな。


 俺は常に行動していないと駄目なタイプで落ち着かない。普段の生活でも寝て覚めて直後から動き出さないとダメなタイプだ。布団の上でボーとしていると今日は会社に行きたくねえなとか考えてしまう。そんな余裕を与えず行動に移さないとマイナス思考のスパイラルに陥ってしまいがちだ。


 朝に捕らえられたまま、夜まで動けないと、思ったより弱る。食事を運んでくるアルマだけが今の潤いだ。

 アルマが屈むと胸ぐらから胸の谷間が覗き込めるのがちょっぴし嬉しい。座っている俺の姿勢がピンと伸びて、思わず上から見下ろす感じで目を細めてしまう。もう少し大きいともっと嬉しい。胸には男の夢とロマンが詰まっているとの至言を吐いた偉人は誰だったか。

 ブラジャーをしてないとわかった時のテンションを悟られなかったかどうかちょっと心配だが。


――また禄でもないことを考えているな。今日はもう寝るか。




 次の日の朝。朝食を持ってきたのは見たことのないガリガリなオバちゃんだった。


「えっと。アルマが運んでこないのか?」

「あの子は長老の看病してるよ」

「俺の面倒を見てくれるんじゃないのかよ」

「アルマの家は畑が小さいから色々しないと食べられないんだよ。あんたの面倒なんて見るより長老の看病したほうがよっぽど見返りはあるしね」


 オバちゃんは粗末な薄いスープをおいて座敷牢から離れていった。


 なんだよ。あんなくたびれたオバちゃんのノーブラ姿なんて見たくないんだよ。


――長老の看病だとさ。俺のお腹ピーピーの刑が効いてるみたいだな。まあ2〜3日患ってくれたまえ。


 それから一昼夜したが俺のもとに食料が運ばれることがなかった。俺忘れられた?



 捕らえられた日から3日目の夜。アルマが食事を運んできてくれた。さすがに殆ど食べられていないのできつくなってきた。ただ、キツイ俺よりアルマの顔がゲッソリとしていた。


「どうした? 調子が悪いみたいだけど」

「長老が寝たきりで起き上がれません。看病していた私も伝染ったみたいで……」

「え? もしかして吐いたり下痢したりしてる? 」


 アルマが目を開いて頷いてくる。


「そう……恥ずかしいんですが止まらなくて。お爺ちゃんにも伝染ったみたいだし他の村人にも……少しでも食べなくちゃいけないと思ってスープを作ってたら、貴方にも届けないとって思いだして」

「そ、そうか」


 俺はじっとスープを見た。俺が長老のハサンにお腹ピーピーの刑を処したときに、思い浮かべたのはノロウイルスだ。だって他にお腹が痛くなる病原菌が思いつかなかったんだもん。このスープの中にはノロウイルスがたっぷり混入されているってことで……。

 取り敢えずアルマに恨みがあるわけではないのでアルマからウイルス除去をしてみる。


「アルマ。もう少し近寄ってくれるか」


 頬がゲッソリしているアルマが小首を傾げながら座敷牢に近づく。

 真言を唱え、ノロウイルスを除去する。


「アルマ。胃腸が荒れてるんじゃないかな。俺の荷物に入っていた砂糖と塩を水に溶いて飲んでみて。カップに沸騰させた水、塩一摘みと砂糖一握りを入れて飲んでみて」

「そんな勿体無いこと出来ないよ」

「いや他の人はともかくアルマはやってくれ。使った分は俺がここから出られたらまた持ってきてやるから」

「……わかりました」


 アルマは覚束ない足取りで家に戻っていった。


 ノロウイルスはやり過ぎだったか。確か伝染性が強かったような……。

 まあ、彼奴等は自業自得ってことで。ちょっと流行するぐらいで死にゃせんだろうしな。

 いや、確か日本でも老人ホームでバタバタ死んでいたような記憶がある。ここは老人が多いし文明的には遅れてそうなこの地域だとやばいかも。


 ……ん〜。大丈夫、大丈夫。未開の地で不潔な環境だと逆に耐性ありそうだし。あのジジイ達も何でもバリバリ食ってそうだから大丈夫だろう。恐らく。知らんけど。


 アルマが届けてくれたスープを滅菌してから飲み干しいい加減見慣れた天井を見ながら寝た。

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