第64話 囚われる俺

「長老の家に行ってくる」


 と、貧しい朝食を終えるとガルが家を出て行った。


 長老とは何を話してくるのか……。話によっては俺の身が危なくなるがいかがしたものか。

 この場には俺とアルマしかいない。アルマを人質にして逃げるか。いや、この村の身の処し方としては身包み剥いで追放か。そうすると俺が逃げてこの村のことを周囲にバラす危険性を無視できないだろうな。身包み剥いでSATSUGAIか。俺としては身の潔白を表明して物々交換をして家に帰ることだが……。


 まずはアルマに取り行ってこちら側に歩み寄ってもらうか。


「アルマ。これを返す」


 頭陀袋からアルマから砂糖の対価として貰った首飾りを手に取る。


「……何故でしょうか」

「大事なものみたいだし。あとは俺の安全を買いたい」

「安全を買う?」

「味方になってもらいたい。俺は単純にこの村と良い関係になりたいだけなんだ。俺はずっと一人で生きてきた。教会に行って重罪人になりたいわけじゃない。つまりこの村のことを吹聴するわけじゃないってことを理解してもらいたい」


 アルマが俺の目を真っ直ぐ見つめてきた。


「……分かりました」


 アルマは首飾りを手に取りそれを首に巻いた。



 ドンドンドン


 ドアがノックされる。

 アルマがドアを開けると長老のハサンが居た。


「出てきてもらおうか」


 俺は身支度をしてガルの家から出ると村人の男たちに囲まれる。男に囲まれても全く嬉しくない。しかも老人ばっかりだし。


「目的はなんじゃ」


 ハサンは昨日の続きから始めた。


「駆け引きをするつもりはない。俺はここから森のなかを東にずっと進んだところに一人で住んでいる。一人で住んでいるので色々と不足しているものがある。それをこの村で解消したいと考えている。つまり交易したいだけだ」


 ハサンは目を細めて俺を顔を窺ってくる。


「俺は成人だ。この意味は分かるだろう? 教会には知られたくない。この村と一緒だ」


 囲ってる男たちがざわめいている。


「お前さんの言うことが真実かどうか知るすべは儂らにはない」


 ハサンが口を開く。


「儂らはお前さんを教会に突き出し儂らの立場を守っても良いのだぞ」


 俺を試すようにハサンの目が吊り上がる。

 もともと純朴な人々なのだろう駆け引きが下手だ。

 俺も初期の目的の情報もおおよそ手に入れたので身の安全を図ろうか。


「それだとお互いに利益が少ないだろう。俺の交易用の荷物の半分を手土産として譲る。それで判断してくれ。残りの半分はおたくらで決めてくれればいい。そのまま帰ってもよし。おたくらのレートで交換してもよし。さてどうする?」


 俺はドナドナから荷物を取り出した。

 塩や砂糖、野菜や穀物、鉄器などを並べ始める。


「これはどうしたんじゃ」


 やり取りを見守っていた鉄器を触りながらガルが口を開く。


「どうしたって……俺が作った以外なにがある?」

「この前お前さん、農道具がないと言っていたではないか。しかも儂が渡した野菜の種類もある」

「貰った種を植えて増やしたに決まってるだろ。鉄器は作った。貰った鉄器より品質は落ちるかもしれないが」


 ハサンとその取り巻きが少し離れた場所で打合せを始めた。



 打合せが終わったようだ。少し顔が険しくなっている。ハサンが見渡して頷くと俺を押し倒し後ろ手に縄を打たれた。

 エバとドナドナも俺の命令もない無抵抗なところを縄で縛り上げられてしまった。


「お前の言うことは信用出来ない。調べるのでそれまで牢に入ってもらう」


 縛り上げられてうつ伏せにさせられた俺の目の前でハサンが宣告した。


――少し頭にきちゃうよね。


 ちょっと荷物を見せすぎて眼の色変わったのが分かってヤバイかなと思ったけど。すぐに殺すつもりじゃなさそうだけどイラッときちゃうよね。


 目の前にいるハサンに向かって真言を唱える。

 お前はお腹ピーピーの刑だ!

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