第63話 アルマと話す俺
目が覚めるとアルマが朝食の支度をしていた。
「おはようございます。起こしてしまったようでごめんなさい。良く寝ていたようですね」
「ああ。おはよう。久しぶりに他に人がいるところで寝たな」
ガルはまだ寝ているようだ。窓から外を覗うと日は登っていないようだ。
「いつもこんな時間に起きているのか?」
「ええ。朝食の支度をしなくてはいけませんから」
アルマの手元を見ると少量の食材があるだけだった。
「この村は貧しいのかな」
「……さあ。わかりません。うちは1年前にこの村に来たばかりなので畑がまだ小さく痩せているので。村から助けては貰っているので贅沢はできません」
「これを使ってくれ」
俺は小麦と野菜を一袋ずつ渡す。
「こんなにもらえません」
「いや。一晩泊めてもらったお礼だ」
「……ありがとうございます。実はもう少しで食料が尽きてしまうかもしれませんでした」
「そんなに厳しいのか」
「もともとこの村は5年前に入植したときから少しずつ開拓を進めていました。1年前の出来事から入植者と同じ人数が村から逃げてきたのです。それも小さな子どもと老人が多く、働き手も少なく、畑も狭く食べ物の出来もよくありません」
アルマは窓の外を見ている。
「では、前に俺が来た時に食料の交換した物は貴重だったのか……」
「いえ。畑道具は使える人間が居ませんでしたし、ここには商人が来ないので塩が特に不足していたので助かりました。それとお砂糖も」
俺はふと思い出して聞いてみた。
「そういえばあの首飾りは大事なものだったんだろう?」
「……いえ。あの時のお砂糖で小さな子供達も久しぶりの甘みで喜んでましたし。孤児が多いんです。あの時の出来事で親世代が殆ど居なくなってしまったので」
「若い人が居ないのもそのせいなのか?」
「はい。成人の男は教会に徴用されてしまいますし……」
「では俺が街をウロウロしていると捕まるかもしれないのかな?」
アルマの視線が俺の顔と頭頂部をさまよっている。
視線を感じつつ俺は更に質問する。
「成人っていくつの事を指すの?」
「15才ですけど」
アルマが不思議そうに顔を傾ける。
「俺は19才か」
つまり15才に祝福を受けるために教会に行き、そこからこの体の両親があの家に連れて行き、俺が乗り移り今に至るのか。
「では教会にいかないと。徴用から逃げると重罪人として一生重労働を課せられると聞きます。それにこのことが教会に知られるとこの村の住人の連帯責任として罰せられます」
「う〜ん。どうしよう」
今更ながら俺の立場の脆さを実感してそわそわしてきた。
「この村は教会や領主に知られないようにひっそりと生きてきました。貴方のこともたぶん隠すと思います。ただ、これからはあまりここに来ないほうがいいと思います」
奥の部屋からガルが起き出してきた気配がしたのでこの話を打ちきった。
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