第58話 架ける俺
鉄の研究をしているうちに西南西方向、つまりあの村方面のの地図が着々と出来上がってきた。
ただ、問題が出てきた、そこそこ大きな渓流を渡らなければいけないようだ。そういえば廃村に向かうための街道を歩いている時に、橋を越えたような気がしたな。
測量人形が測ってきた地図を見ても、高低差や距離が書かれているものなので、実際の状況は把握しがたい。なので、俺の目で見ながら地図に情報を書き込み補強していく。その作業の中で、渓流沿いまで足を運んでみた。
渓流は見た目ではば4mぐらいであろうか。流れは早そうで、しかも崖になっていて水面まで5m近くある。これでは橋がないと渡るに覚束ない。しかし、当然橋なんて作ったことはない。これもやってみるしかないな。
どういった方法が考えられるだろうか。ドナドナが渡れるようにしなければならないので、ある程度の強度が必要だ。
向こう岸とこちらでロープをかけて吊り橋にしていくか。
――向こう側に渡るには一度街道まででてぐるっと渡ってこなければならないな。
信頼性がおけるロープの作成が出来ない。却下。
ロープでは無く木材を渡すか。
――下準備もなくいきなり木材を引っ張るのは難しいな。人手もないし。
先に簡易な橋をかけて補強していくか。
橋脚が建てられないので橋桁を一本物にしないといけない。まずは簡易な足場を作って行き来が容易にすることが重要だろう。
最初は対岸までの正確な距離が欲しい。こちら岸で簡易な橋桁を組んでしまって一気に架けたい。それが短かったり長すぎたりすると無駄になってしまう。
向こう岸とこちら側で大体同じ高さの場所を選ぶ。測量人形を木に登らせる。地面と木に登った人形の頭の距離を測る。そして向こう側の崖肩から1m入ったところのポイントを確認させる。そのポイントを見据えた角度を測らせる。その数値を計算させると観測ポイントからの距離、つまりは橋桁の長さが算出できる。
結果は4.68mと出た。
それを基にその長さの竹を2本、切り出す。その2本を平行に並べ、梯子状に板を植物紐で緊縛していく。これを仮の橋桁にする。
この橋桁を垂直に立てて反対側に一気に倒す。倒して向こう岸に着地させる。
仮橋の完成だ。
しかし、渡るのは怖い。4m以上の補強もない竹なので乗ると、ぐわんぐわん揺れる。手摺もない。
ロープを腰に括りつけ向こう側へと渡る。ロープをこちら側と向こう岸を腰の位置に張り、手摺代わりにする。
ここまで出来ると作業は捗る。
竹は乾燥すると割れてきてしまうので、耐久性が必要な箇所には使うのは宜しくない。
橋に使うなら硬い木が欲しい。ただ俺はもともとコンクリートジャングルに住んでいたシチーボーイなので木の種類なんて分からない。
だがしかし、俺には3年ちょいの否応もない実務経験上、木の特性が少し分かるようになってきた。
硬い木。ドングリの生る木だ。ドングリでも少し細長い実で葉っぱがギザギザになった木が硬い。切り倒すときに非常に苦労する木だ。また、大きくなる種類のようで大木になっているものも珍しくない。ただ、一本物で5m近くの真っ直ぐな木を見つけるのは難しい。
その昔、戦国時代に日本に来ていたガレオン船などの帆柱は30mの高さのものがあったらしい。帆柱は船底から伸びているので50m近くはあったのではなかろうか。勿論一本ものでは無く、数本の木を鉄の環で締め付けて作っていたらしいけれども。
鉄の環でね……
未だに製鉄技術は進歩はない。何をするにもボトルネックになる。
ないものねだりをしてもしようがない。
遠方まで見合う大木を探しながらあちこち探し回り、ついでに仮橋を架けた場所まで道を切り拓くことにした。
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