第57話 鉄な俺

 鉄が欲しい。

 鉄器が欲しい


 この世界ではあまり鉄が流通していないようだ。村で交換してもらったものも道具についている鉄が必要最低限しかついていなかった。


――あの村が貧しいだけかもしれないが。


 俺が拾った道具達はかなりお高いものだったのかもしれないな。


 よしんば鉄の流通があっても、金が無いし、街にいくと危なそうだ。俺の風貌に目を付けられる要素があるのかもしれないし。

 少なくとも村でもう少し情報を聞き出してからじゃないと危ない。街の在処もわからないし、街道沿いに歩いて行けばいいのかもしれんが、またあの連中と遭遇するかもしれない。


 それで鉄の材料。前に山に登った時に赤茶けた石がゴロゴロしていたところがあった。上手くいけばそれに鉄が混じっているかもしれない。それに家の側を流れている小川を辿って行くと大きな川に出る。そこの川砂に砂鉄が混じっている可能性もある。

 採取の容易さを考えると川だが。大きな川に行くと街道の側を歩くことになるので、発見される恐れもある。


 となると山だな。



 山に登って目的の場所につく。

 断層があり地面から4mぐらいの所に赤茶けた断層があり、足元にそこから崩れてきたと思われる石が落っこている。それらを拾い、草の皮で編んだ籠に入れていく。それを家に集めてとっておく。

 これに鉄が含まれているようであれば足場を組んで本格的な採取に取り組む。

 ただ、本格的な採取にはツルハシが必要になる。ツルハシは鉄で出来ている。しかし、鉄はない。なんとかするしかないだろうが……。



 次に石灰岩。

 採掘場に赴き、石で穴を等間隔に穿ち木で作ったくさびをハンマーで打ち込んでいく。ヒビが入り、上手に割れる。それをドナドナに積み込み家へ持ち帰る。



 次は木炭を作る。

 木炭の作り方はTVで見たことがあるのでなんとなく解る。少なくとも鉄鉱石から銑鉄を取り出すよりかは知っている。

 陶器を作っている釜に木を詰め込み、釜の入口で火を炊く。


――と、まあこれで上手くいく訳はない。


 一度試したが、中にある木が全て焼けてただの焚火に。それも山火事になる勢いで火事に。雨に濡れないように小屋掛けしておいたのだがそれも当然燃えた。

 意外に難しい。職人さん達が簡単そうにやっていることって大概難しかったりするんだよね。


 炭化するには、空気を遮断して加熱をする必要があると。

 前回は釜の口を開けっ放しにしたので豪快な焚火になってしまった訳だね。


 なので、前回同様、釜に木を詰め込む。釜の入口で火を炊く。釜が十分に熱くなったら日干し煉瓦で入口を塞いで空気が入らないように目張りをする。

 1昼夜おいて釜が冷えたら入口の日干し煉瓦を壊して釜の中を窺う。


 ピン……ピン……ピン…………。


 炭化した木が鳴いている音がする。

 残念ながらムラがあり全てが木炭にならなかった。これも研究が必要だ。


 木炭を作っていて気づいたことがある。大量の薪が必要になる。これを続けると木材資源がどんどん無くなってしまうのではないだろうか。


 家の周りの森も段々と削られてきている。

 畑を拡張することもそうだし、木を使って柵などや道具を作っていることもそう。人形の製作にも当然使う。

 

 森は天然の要害になっている。これ以上俺の家の周りの森を削っていってしまうのは問題なんではなかろうか。


 これも今後の課題だ。



 さて、鉄作りの材料が揃ったところで高炉の作成だ。

 ただ赤茶色の石も鉄鉱石かどうか分からないのでパイロット試作版だ。

 斜面の一部を削り、その中に煙突状に直径30㎝の円柱の空間をあけ、長方形に切り揃えた石灰岩を積み上げていく。下に開口部を作り、下から上に空気が抜けるようにしておく。開口部には漏斗状に削った石灰岩を切り揃え中央部は溶け出た鉄を受けられるような器状に削った岩を置き、取り出せるようにしておく。

 高炉の出来上がり。


 そしてその中に材料を入れていく。一番下にはドーム状に硬い岩を組む。その上に木炭、割揃えた赤茶色の石を交互に入れていく。



 全ての準備が出来た朝、火を入れる。

 最初は下の開口部から全体に火が回るまで焚火をする。火が回ったら焚火を取り除き、石で出来た受けの器を置く。

 そうしたら、ふいごの出番。この鞴は板を合わせて間に皮革を張り、上下の運動で一方方向から空気が出るようにしてある。

 そしてひたすら吹く。高炉の熱で汗だくになろうが吹く。一度力尽きてエバに変わってもらった。そしたら高炉の熱でエバの身体が炭化してきた。

 最初は木炭が焼けてる臭いかと思ったらエバが焼けてた。


 この作業は人形には危険だと判断した。しかも、俺も皮膚が焼けて痛くなってきた。

 高炉を本式に作る場合は掩蔽しないとダメだな。


 そうして鞴と格闘すること2時間。木炭が燃え尽きた。

 ……残念ながらすぐには結果は分からない。器を引っ張り出す予定の鉄線が溶け落ちていた。これも改善が必要だ。



 炉が冷めて、触れるようになってから器を取り出してみる。

 少量の鉄が採取できた。


 純度が低いのか柔らかくボソボソした感じだ。

 問題は山積みだ。高炉もいちいち解体、積み上げしないといけない。木炭ももっと大量に必要になる。一応、鉄鉱石のようだがあれだけ持ってきたのにこれだけにしかならない。しかも足場も組み立てなければならない。不純物を取り除いて純度を高める工夫が必要になる。


 ともあれ、鉄鉱石から銑鉄を採取するプロセスが上手くいったことは間違いない。

 今度は銑鉄から鋳鉄製品や錬鉄、鋼鉄へと昇華させていくことだ。

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