第56話 トラウマな俺

 洞窟内部に踏み込む。

 第一印象は臭い。すごい臭気を発している。

 そして、五月蝿い。洞窟内を流れている川の流れが反響して五月蝿いのもあるがもっと五月蝿い動物がいる。コウモリだ。


 ギィィィ バサッバサッ ギィィィ ギィィィ


 上を見上げると天井を埋め尽くす物凄い数のコウモリ。

 下を見ると水分を含んだ滑りやすいヌルヌルした床の上にコウモリの糞が積もっている。強烈な臭いだ。吐き気が止まらない。

 床が何やら蠢いている感じがして、松明を近づけると、ゴキブリが蠢いている。それも尋常な数ではない。コウモリが落とす糞にゴキブリがビッシリと集っている。

 俺の足元を見ると俺が踏みしめた地面にゴキブリが大量に踏み潰されている。ヌルヌルしたのはゴキブリの体液のようだ。


 ここで俺の精神は崩壊し、鳥肌が治まらずさっさと逃げ出した。




 酷い目にあった。正直トラウマものだ。

 コウモリは美味しいらしい。特に果物を食べている種は美味しいらしい。ここのコウモリは知らない。死んで落下したコウモリを蛇らしきものが咥えているところをチラッと見てしまったが。

 それとゴキブリも食べれることは知っている。貴重なタンパク源だろうとは思う。昔の人は漢方薬として胃薬とかにも使っていたらしい。ちなみに揚げるとサクサクっとして旨いらしい。


 ……ゴキブリの話題はもう良いだろう。



  ◆   ◆   ◆   ◆



 一つ発見があった。


 この洞窟は鍾乳洞ということ。

 ツララのような鍾乳石が伸びていた。鍾乳石の成分は石灰質から出来ている。つまり此処らにあった白い岩。これは石灰岩ってことじゃないだろうか。


 近代史を見ると石灰岩と共に歩んできていると言っても過言ではない!

 恐らく。多分。知らんけど。


 持ち帰れれば色々役に立つであろう。


 その日は洞窟には入らないところで仮眠をとり、石灰岩であろう白い岩肌の分布を見ながら帰宅した。


 家に辿り着くと何よりもまず風呂に。

 ただ、風呂を沸かすにも時間がかかる。

 川から水を引く。焚火をする。焚火の中に石を入れる。熱した石を風呂に投入する。

 平気で2〜3時間掛かる。火の番を人形には任せられないので自身でやらないといけない。


――待てよ。


 人形って木で作らなくても良くね?

 石灰岩は他の石より柔らかい。でも、柔らかいと言っても人形を掘るレベルで細工しようと思ったら、鉄のノミが必要となる。ハンマーはあるがノミはない。


――鉄か。


 鉄が手に入るなら石で作らなくても良くね?

 でも大量の鉄が必要になるし錆びるから石のほうが作りやすいかも。

 となると石だな。


 石灰岩で作らなくてもそれに適した形の石を組み合わせるか。他に加工しやすい石は……。

 黒曜石があったな。ただ鋭利になりやすいので使い所が問題だ。

 それと接合部分。この細工は俺の手持ちの道具では太刀打ち出来るレベルじゃないな。石と木のハイブリッドでも無理だ。鉄が手に入るまではお預けだな。



 閑話休題。


 風呂に入れる石を待っているときに、石灰岩と一緒に拾ってきた重曹鉱石を頭陀袋に一緒に入れて焚火の側に置いておいたら、重曹が変質してしまった。持ち上げると、皮膚が猛烈にヒリヒリしだした。

 もしかしたらと思って、廃油の中に入れてみたら廃油が乳化した。熱して重曹が苛性ソーダになったってこと? 化学には疎いので良くわからないが、昔彼女が手作り石鹸を作っている現象と似ていた。

いままでは重曹と糠でなんちゃって石鹸を作ってたが、これも実験だな。

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