第46話 歩く俺

 その日は日が昇る前から行動を開始した。

 エバとドナドナを連れて街道を目指して歩いていく。

 今回目指すは廃村から飛び出していた道っぽいところの探索だ。


 道が出来たためにかなり歩きやすい。


 道なき道を歩くのは相当時間が掛る。

 俺の家の周辺はそうでもないが、山から離れるにつれ密林と言っていいほど鬱蒼たる草木が茂っている。

 その中を歩くと丸一日掛っても2km進めないこともある。

 なので、普段狩りを行うときには獣道や小川を歩いている。小川には草木が生えていないからね。

 そのため道は重要なのである。


 街道まではなんの障害もなく3時間程度で着いた。道が無い時の半分の時間である。

 途中、緊急用のシェルターも異常がないか確認してきた。


 街道沿いは特に変わり映えはない。この数時間内で誰かが通ったことは無いように感じられる。


 廃村を目指し歩いていく。

 どんよりと厚い雲に覆われていて蒸し暑くなってくる。


――天気の読みが外れたなこりゃ。


 廃村に踏み入れた頃にポツポツと雨が降ってきた。

 様子からすると今日一日は降りそうな雲行きである。


 雨の中の行動は碌な事がない。


 暑い中でも濡れっぱなしだと体温が低くなる。

 一度雨に降られて濡れっぱなしでいたことがあるが、寒気がして手足がしびれてだるくなって大変だった。

 恐らく低体温症のような感じになってたのだと思う。


 また、危険性物の気配もかき消されてしまう。

 今回の危険性物と言えば人のことも指す。視認される前に姿を消さなければならないが、それも難しい。


 こんな時には焦らず、倒木でシェルターを作り雨がやむまで体力を温存しないとね。


 あまり廃村の近くで休んできるのも良くないだろうと思い、廃村を展望できるちょっとした高台を超えた所にキャンプすることにした。


 ドナドナを連れてきたので大きな牛皮と倒木でテントを張る。

 テントの周りには溝を掘りテントの中に水が入らないようにする。

 床には大きな葉っぱを敷きこみその上に柔らかい鹿皮を敷く。枕は狼の皮。結構快適である。

 テントの中には一部穴を掘り、その中で焚火をする。

 あまり外に光を漏らさないためだ。


 干し肉を炙り、雨水を沸かし、ドクダミ茶で喉を潤す。

 体が暖まってくるとウトウトとしてくる。

 エバに周囲と廃村を警戒させているから、少し気を抜いても大丈夫だろうと思う。



 エバがテントの中を覗き込むように俺にゼスチャーしてくる。

 テントの外にでると当たりは暗くなってきていた。

 高台に出るとエバが廃村の中心部の広場を指さしていた。

 そこには200人ぐらいの人が白い天幕の様なものを組み立てていた。


 先だって見た軍隊のような人々ではなくもう少し平服っぽい感じのものを着ている人達だ。

 それと荷駄が数等と4頭立ての豪奢な4輪馬車が2台あった。


 天幕が組み上がると赤い絨毯が馬車との間に敷かれ高そうな服と杖を持った人物と他数名がその天幕に入っていった。

 他は周囲を警戒したり、食事の用意をしているようだ。


――あれはなんだろう…… 権威を持った人物御一行様って感じだが。


 俺が近寄っていっても相手にされなそうだ。

 なんといっても服はボロボロ。ヒゲはぼうぼう。頭は……。

 それはさておき、近寄ってもどこかのホームレスと間違われて追い払われそうだな。


 前の体の主の日記によると俺を追ったのが神父なら、大きな組織に近づくとあまり良くないことが起きるかもしれない。

 他人の祝福をどうやれば確認できるのか知らないが安易に近づいて俺の祝福の能力が漏れれば断頭台にのせられる恐れもあるしな。


 日も落ちてきたので気温が下がってきて雨に濡れたのでまた寒くなってきたのでテントの中に戻る。

 念の為にテント内の焚火を消し、俺の存在を気取られないようにしておく。

 焚火の中に石を放り込み温めておいたので土を被せ、その上に寝床を持ってくるとじわっと暖かくなってくる。


 雨の日はあまり動物も活発に動かないのでエバに見張りをさせておけば大丈夫だろう。

 ドナドナも一応、周囲警戒し多少の自衛が出来るよう命令してあるし。


 その日はあまり動かずに寝た。




 雨は夜半から小振りになり、日が明けると完全に上がって良い天気になっていた。


 あの天幕を張った偉そうな奴らの様子をじっと見ていたが朝飯を取ったら街道を西に消えていった。


 軍隊の奴らも偉そうな奴らも東から来て西に消えていった。

 さて、西には何があるのだろう。


 ただ俺の今回の目的は廃村から伸びていた微かな分かる程度の道の探索である。


 手仕舞いすると一度廃村に戻り、道を探し、それに沿って歩き始めた。



 

 歩き始めて30分。やはり人の手が入っている道だ。獣道ではない。

 枝が人の背丈で折れているし、鉈で刈り取られた様な切り口も散見される。

 足跡もある。大小幾つもあり子供から大人まで何人も通ったあとがある。


 どういった属性の人々だろうか。


 子供がいるってことは家族がいるのだろうか。あの廃村の生き残りがここを歩いたのだろうか。

 それとも村を襲い子供を連れ去った山賊がいたのだろうか。


 警戒をしながら歩いているとどこからか声が聞こえた。

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