第41話 虚脱な俺

 その夜は村外れのブッシュに隠れて様子を見守ることに。

 あれから人一人通る気配は無かった。


 この村は宿場っぽい建物もあったので、この街道の宿泊する間隔の村だったのだろう。

 そこへ昼前に軍隊がここに来て食事休憩を取ったってことは、前の宿場までは20kmぐらいかな。まあ、勝手な憶測なので間違っているかもしれないが。


 村外れの森の中とは言え、火も焚けないと危険だし食い物にも不自由する。食料も心許ないので明日は村をもう一度グルっと回って帰るとするか。


 エバに周囲を警戒させて、俺は木に寄りかかりながら仮眠を取ることにした。



  ◆   ◆   ◆   ◆



 気付くと俺はベッドの横においてある椅子の上に座っていた。

 目の前には俺の高校生の姿の幼馴染の女が寝ていた。


 そう、俺はこの光景を知っている。

 俺が高校生のときに病気で入院している幼馴染を見舞った時の光景だ。


 俺の幼馴染。優子が酸素マスクを付けられ体中からスパゲッティが伸びているかのように色々なチューブを付けられてベッドに括りつけられている。

 優子の両親と一緒に聞いた医者の一言が俺を打ちのめしていた。


『余命一ヶ月でしょう』


 ついこの前まで元気にしていたのに、少し体調を崩した時に病気で検査したら緊急入院。

 あれよあれよと言う間に衰弱していった。

 一度手術したが手の施しようがなくてそのまま閉じてしまったと言っていた。


 優子は手術する前に死期を悟ったのかもしれない。

 お互いにモジモジしていた感情をさらけ出し、俺と恋人同士になった。

 その頃にはもうまともに歩けなくて車椅子でしか動けなかったが、1日だけ帰宅を許された時、優子と体を重ねた。

 優子の体を見た時はガリガリでする前に泣けてきてしようがなかった。


 医者の言う通り1ヶ月後。優子は旅立っていった。


 それから俺は20年間近く彼女はできず。

 母親も「昔のことは諦めて彼女の一つでも作ったら? 」繰り返し言っていたが、25歳を超えてからは何も言わなくなった。父親は物心ついた時にはいなかった。そして母親も10年前には事故で両親とも亡くなってしまった。


 そうか俺はこの世界に来る前からぼっちだったんだ。

 会社の人達とも深く付き合うことはしなかったし、特別な縁を紡ぐこともしなかった。


 そうか、この世界でぼっちでもそれほど苦痛を感じなかったのはそういうことだったんだな……。



 世界が揺れている。



 肩が揺すぶられている。


 目を開けるとエバが俺の肩を揺すって指をさしている。


――夢か。優子の夢なんてここ数年見なかったのに。夢うつつの状態だと潜在意識が顕在化して……。

 エバの指している方向を見ると肉食獣っぽい目が光ってこちらの様子を伺っていた。

 手近にある石や枝を投げてやると、一声唸って何処かへ消えていった。


 夢を見たからだろうか。虚脱感に見舞われてあまり動く気にはなれなかった。

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