第36話 食の充実を図る俺

 身の安全に一段落ついたところで最近疎かになっていた食の充実を図ることにした。


 まず、手に入れた小麦を栽培条件を少しずつ変えて撒いてみた。

 収穫できるようになるには3ヶ月〜半年後か。

 パンとか麺とかにできるような種類だと嬉しいな。水を加えて加熱するとモチモチするような種類ね。


 畑も広がって嬉しいのだが害虫害獣が多い。

 特に鹿。鹿威しでも作るか、逆茂木でも作らないと。


 あとはネズミね。

 食料庫は高床式にしてねずみ返しをつけてみた。これも鋸を手に入れたために工作精度と速度が向上して比較的上手く言った。といっても小学生が夏休みの工作でつくったような犬小屋に毛が生えたぐらいの物だけど。

 畑のものも食われるがそれはおいおい対処していくしか無いね。どうやらネズミだけじゃない様子だし。もしかしてモグラも?


 それと街道から帰ってくるときに発見した植物。団扇のような葉をつけている背の高いヤシ科の木なんだけど、元の世界でタイに旅行に行った時に見たことがあるものとそっくりだったんだよね。お土産屋さんでこの実から作られた砂糖、パームシュガーやパームワインなんかが売ってたのを思い出した。


 ダメ元だけど採取して果汁を絞り煮詰めてみたら砂糖結晶が僅かに出来ていた。

 久しぶりの甘味に体の細胞が震えだした感覚だったね。

 ただ、相当な量の実を取ってこないと満足行く量が得られない。20mぐらいの立木に登るってかなり危険だよ?

 木の皮で作った帯を輪っかにしてヤシの木と腰に巻きつけて登って行くけど、下を見たら怖くなって動けなかった。足が震えるってよく聞くけど本当に震えてくるんだよね。


――よしよし、落ち着け俺。大丈夫だ。慎重に動けば怖くない。


 って自分に言い聞かせながら鎮めると治まってくるんだけど、やっぱり怖いって思っちゃうとまたブルブル震えてくる。震えると危ないから震えるなって考えても自分の身体がコントロール出来ないのって面白ね。

 まあ、このような場面こそ人形の出番か。


 それと狩り。

 狩りではないかもしれないが蛙がマイブーム。いっぱいいるし簡単に捕まえられる。ただ、毒を持っている奴もいるので無害なやつだけ狙う。両生類や爬虫類は唐揚げにすると大概旨い。


 あとのタンパク質としては牛や鹿。

 困ったことに牛を囲っている牛がみるみる少なくなっていく。俺が食っているのもあるが、どうやら逃げ場が少なくなったことにより、狼の餌食になっているようだ。死体が転がっていることがある。

 近いうちに、狼避けをしなくては。


 鹿狩りも上手くなってきた。

 気配を消しながらそっと歩くんだけど、最初はつま先から着地してたのよ。

 そうすると枝とか葉っぱとかで音が成るのよ。

 なので、差足さしあしは踵から着地。つま先で枝を避けながら体重を乗せる。抜くときもあまりつま先に体重をのせない。踵から抜く。抜き足差し足忍び足ってね。

 鹿の群れが好む場所やパターンを見つけて風下に回りこむ。射線を確保する。

 俺が姿を見せててもじっとしていれば逃げないが、動くと逃げていく。動くものを認識するようだ。あとシルエットでも判別するようだね。だから、頭に巻いたバンダナに草を刺しておくといいみたいだ。

 ここまで上手くできれば半分は上手くいく。

 弓矢の出番になる。



 牛や鹿の皮を鞣す作業に多くの時間が割かれていたのだが、ミョウバンが手に入ってからちょっとは楽になった。

 ミョウバンの水溶水に漬け込むことで脳みそを使わなくても良くなった。脳みそをペースト状にするのは臭いもさることながら精神的にくるものがあったからね。



 そうそう、大量に余っていたじゃが芋。

 そもそもじゃが芋ってアメリカ大陸が原生植物じゃないのかな。ここは別世界だから違うのか?

 それはともかく、じゃが芋を発酵させて見ることに。じゃが芋を煮て、冷めたところに俺の祝福【微生物学者】マイクロバイオロジストで麹菌を生み出す。ゼロから生み出すとかなり時間が掛かるのと同時に頭が重くなってくる。ある程度、麹菌を繁殖させると放っておいて、糖分がアルコールに変わるまで醸造させる。酒が出来るまでが楽しみだ。

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