第32話 爆音を聞く俺

 日課である狩りに行ってた時にそれは起こった。


 南の方角に探索ついでに獲物を探していた時のこと。

 運良く鹿の群れを見つけて息を殺して待ち伏せしていた。


 突然ドゥンと爆発音が遠くから聞こえ、それに怯えた鹿は散り散りに逃げてしまった。


 晩飯を逃した悔しさと謎の音に対する恐怖心と僅かな好奇心を原動力として原因を確かめるべく音のした方へ2時間ほど歩いて行ってみると道に出た。あれだけ人に、文明に触れ合いたかったのだが案外呆気なくその欠片に触れてみると感慨も沸かない。

 あるのは他人がいることの恐怖心だ。


 道を見渡してみる。

 舗装はしていないが道幅2m程度で東西に走っている。

 草はあまり生えておらず轍のような痕もありそこそこの人通りはありそうだった。


 「意外と近くに道があったんだな……」


 家から片道6時間。距離はどれぐらいだろう。直線距離で10kmちょっと程度。

 そろそろ戻らないと日があるうちに家に帰れないが、久しぶりに触れた文明の香りが気になり離れがたい気もする。そして、道沿いを歩いてみると凄惨な現場があった。


 死体がそこかしこにある。数えてみると21体。焼け死んでいるか又は刺殺されている。

 まだ、死んでそれほど経っていないようで、血が固まらず川のように低いところに集まって溜まっている。


 道の中心部が黒く焼け焦げて、そこを中心に放射状に焼けた人間が倒れている。

 タンパク質が焼けた臭くそしてどこか食欲を湧かせる臭いがそこはかとなく嗅ぎ取れる。だが圧倒的に悪臭が充満している。内蔵物や汚物が焼ける臭い。そして血の臭いだ。


 全ての死体を確認したが生きている人間はいなかった。

 誰かが頸か胸を刃物で刺してトドメをさしたようだ。

 全員男で成年のようで、インド人っぽい顔した人たちだった。


 呆然としてなにをすれば良いのかよくわからないまま時間が過ぎていった。



 1時間も過ぎたところだろうか。

 ふっと我に戻り、使えそうなものを死体から剥ぎ取り家の戻った。

 でも、死体を見てもそれほど嫌悪感やなんかを感じなかったのはなぜだろうか。





 家に着いたのは日が落ちてすっかり暗くなったところだった。

 あと1時間もあの場所にいたら迷子になって野獣にやられてたかもしれない。


――どうするか。


 持ち帰った道具を整理しながら考えた。

 ナイフが9本。鉈が3本。これらは幾らあっても困らない。元から持っていたナイフは砥ぎ過ぎでかなり短くなってきていたし。


 剣が2本。使わないし、使う技量もないが鉄器は貴重なので持ち帰ってきた。


 弓が1張。残骸は結構落ちていたけど焼けたり折れていたりして無事なのがこれだけ。軽く引いてみたけど俺の自作より出来がいい。当然だろうけど。


 そして嬉しいのが麦が一山。地面にバラ撒かれていたのを集めて頭陀袋に入れて持って帰ってきた。そして少量の塩。大部分は血に浸っていたが、岩塩だったので血糊は削って落とした。


 ほかは武器の数も少なかったし、食料もちゃんとした形で残っていなかったのは略奪された痕だと思う。

 硬貨類の影も形もなかった。この世界で貨幣経済が存在しなければそれもそうなのであろうが、轍もあったし、ナイフや剣の規格が揃っているってことはそれを生産する集団がいるってことだ。物々交換も考えられるが着ている物もまあまあ洗練されているし、俺の日記によると貴族だったらしいからある程度の貨幣経済はあるのだろう。つまりお金から先にチェック、奪取していったってことだろうな。


 賊に襲われたか。20名を殺害できるってことは恐らく20名対20名以上の戦闘だったんだろう。

 そして火器が使われたと。一発を集団の中心部に山なりに打ち出したのかな?

 小銃ではああはならないので、砲のようなものがあると。

 でも破片もなかったしな……。


 まさか魔法?


 馬鹿な俺ってばファンタジーの読み過ぎ! ってここは魔法のある世界だしな。


 そうするとファイヤーボールを一発撃って蹂躙したと。


 なんかすげぇな。


 問題はその襲った奴らに見つかったとして俺に敵対してくるか否かだ。

 賊とすれば9割襲われるか身ぐるみ剥がされるだろう。


 街道? まで10kmある我が家までは来ないと思うが用心するに越したことはなさそうだな。


 明日現場にもう一度行って調査してみっか。


――でも危険かな。

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