第23話ソウルフードな俺

 我が故国ニッポンには世界に冠たる醗酵食品の文化があることをお忘れかな。

 そう大豆と醗酵。これを掛け算すると夢にまで見た醤油が出来るのだ!


――でも、醤油なんぞ作ったことないぞ。


 材料は……

 大豆、小麦、麹、塩。


「NO! 塩はない……」


 醤油が作れるほどの塩はない。もう親指の先ほどしかなくなってしまっている。これで失敗したら目も当てられない。

 初っ端から計画は崩れ去った。



――折角授かったこの能力が活かせない。塩がなければ味噌も作れんし。


「そうか。納豆か……」


 今までも納豆を作ってはいる。但し、失敗も多い。上手く糸を引かないことも多い。ここらで本格的に納豆を攻略してみるか。


 大豆を煮込む。柔らかくなってきたら大きな葉っぱに包み、納豆菌発生と増殖を祈念し真言を唱える。


 穴を掘っておき埋める。その上で焚き火をして地中の温度を醗酵に適した温度にする。囲炉裏でもいいと思うけど温度が安定しない。

 魔法を使っても醗酵を促進できる環境にしておいたほうが良さそうだしね。



 2日後取り出してみる。


 (おっ!糸引いてるじゃないの)


 醤油がないので少し物足りないが故国の味が再現出来て少し嬉しい俺だった。

 ちなみにその後採取した菜種油を少し入れても風味が出て美味しくいただけました。



 そしてさらに、研究を進める。

 ここでの生活の楽しみは食事。そう食事。

 仲間でワイワイってのは当然あるわけないが、一人で美味しい食事を研究するのも悪くはない。……と思いたい。そうあるべきなのだ。


 あの肉。牛もどきの肉。あれが固い。和牛になれなくてもオージービーフぐらいは目指したい。

 野生の牛と家畜を比べてもしかたがないので調理方法で近づけたい。肉を柔らかくするための努力は惜しまない。叩いてみたがまだ固い。タンパク質を分解できれば柔らかくなると思う。そこで俺の【微生物学者】マイクロバイオロジストの出番ですよ。


【微生物学者】マイクロバイオロジストをそのまま使っても意味がない。麹を使うのさ。麹を。

 大豆麹や麦麹。こいつらを増殖させて肉をつける。麹菌の分解作用で肉が柔らかくなると算段だ。算段なんだが……


 ……皿がない。深い皿がない。漬け込めるような皿がない。


 これも作らないと行けないのか。

 

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