第20話ビフテキを食う俺

 元の世界にいたときに見た牛とはかなり違う造形。

 角は前に突き出ていて攻撃的。

 肩が怒り肩でお尻に向けて細くなっていく。

 毛は短い。


 この中で若い雄牛を一匹だけ追い込んで早速絞めてみる。追い込むって言っても命がけ。お互いに。

 基本的に臆病な動物っぽいんだけど追い詰めると角で逆襲してくる。後ろ足で蹴ってくる。

 そこでロープを使う。ロープの端を輪っかにして引っかかると輪が縮まるようにしておく。カウボーイがやってるみたいに。……まあ、まさしくカウボーイなんだけど。

 ロープを角に引っ掛け立木にくくりつける。動きが制限されてきたら後ろ足も引っ掛けて転ばす。四足を全てロープでぐるぐる巻きにしてとどめを刺す。こんな感じ。


 こうして絞めた牛を捌いていく。あまり上手く捌けないないけど、皮、脂身、肉、骨、その他臓器に粗方分けてみる。

 脂身は煮込んで油だけ抽出して、照明の燃料や調理用の油にする。

 骨は骨角器としての材料。

 臓器は食えないことはないだろうが大変なのでパス。


 そして血。昔、アフリカの民族が血を飲んでいたのを思い出して飲んでみた。寄生虫とか心配だけど牛は生食出来てたし大丈夫だよね、と思ってぐびっと行ってみた。


 ……まあイケる。


 塩分やミネラル分が不足しているのは体が知っている。塩はどうしても残り少ないので控えめに。でもこの熱帯性気候で汗をかく。汗をかくってことは塩分を垂れ流してるってことだな。

 生臭さは思ったより感じなかった。でも、美味しいものではない。鮮度が命っぽいな。


 皮。

 皮は当然皮革材料として。

 鞣す作業が殊の外大変。

 末端部分の処理は大変なので大きな面だけ残しチョキン。

 四隅を引っ張り吊るす。

 残った肉や油をナイフでこそぎ落としていく。ナイフは油が回ったら切れなくなるので、お湯を沸かしながらナイフについた油を溶かす。切れなくなったら研ぐ。これ以上取れないってところまでこそぎ落としたら、皮の内面を洗剤代わりの燕麦のふすまをこすりつつ水洗い。腕がバキバキに筋肉痛になるし、握力はなくなる。ナイフを握った格好から指が離れない。


 ここから相当気持ち悪い。牛から取り出した脳みそをグチャグチャにすり潰しペースト状にして皮の内面に塗りつける。

 半分に折りたたみ乾かないように一日放置。まあ、臭いね。

 で川で洗い流して、竈の上に吊るして、燻してやる。

 本当は何度もスクレイピング(こそぎ落とす作業)と脳みそアタックをするといいみたいだけど、自分だけしか使わないし、これで良しとする。



 肉。

 肉はね、筋張って固かった。

 でも、これぞ肉って主張してくる感じで悪くは無かった。顎がすんごい疲れたけど。噛んでも噛んでも噛み切れない。調味料があればねもう少し美味しくいただけたかも。

 それにしても一頭を一人で食い切んない。燻製状にして置いておくけど4日過ぎた当たりからやばそうな匂いがしたんだよ。

 日本人の勿体無い魂に火がついてね。表面を切り落として中心部分をよく焼けば行けんだろうってね。


 当然こうなるわな。

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