第16話狩る俺

 食糧事情は未だ良くならない。


 しかし、弓矢を試行錯誤しながら改良を続けた結果、鹿は稀に狩れるようになった。


 上手く風下で射線に入れた時だけ。

 初めて鹿を狩れたときは興奮した。矢が突き刺さった鹿はまだ生きていてなんとか逃げようと暴れまわってる。石で頭を殴ろうと近づいくと後ろ足で蹴ろうとしてくるし。必死で殴りつけようとすると生き物を殺すことを俺の脳が拒否反応をしめすのか、鳥肌が立つ。生き物を殺すことの恐怖心と言うか畏怖する心と言うかとにかくざわざわとする。

 しかし、俺も生きるために必死だ。鹿を殴り引っくり返ったところで、首にナイフを突き立てた。

 そして、鹿に触った時にはびっくりした。触ったところから黒い塊がワサワサと這い上がって来た。黒い塊はマダニだったけど。後から考えたら鹿の体温が下がったからマダニが伝染って来たんだと思う。不用意に触ると噛まれるし、ヘタするとマダニを媒介とする病原菌に伝染るかもしれないからね。


 狩った鹿は見よう見真似で持っていたロープで後ろ足から木に吊るして解体してみた。

 心臓が首の根元をナイフで切り裂いて血を抜いてみる。ある程度抜けたと思ったら、腹から割いてみる。内蔵がドベッとでてきて当たりに血の匂いが充満する。


――肝臓はどれかな?


 腸を引っ張りだして肝臓を探してみる。


――これっぽいけど生肉って危なそうだよな。


 一口齧ってみる。


――甘い。


 元の世界にいた時にはレバーは生臭くて、焼くとボソボソしてあまり好きになれなかったが、これは別物と感じた。


 もう一口齧ってみる。


――おえっ! 苦い!


 肝臓の中からにじみ出てくる汁が舌に触れた途端、猛烈で痺れるぐらいの苦味が口に広がる。


――肝臓は周りしか食べれんな。この中心部の体液が漏れでたらもう食えない。


 肝臓はあきらめ、消化器系や睾丸などを取り除いていく。

 心臓はまだピクピク動いている。


――心臓は最後まで諦めない臓器だな。


 心臓もナイフで薄く切り取って口に放り込んでみる。


――これもコリコリしていてうまいな。まだ口が痺れてる感じがするけど。


 肉は前足だけ切り分け持ち帰れる分をバナナの葉っぱぽい大きな葉で包む。


――これだけしか持って帰れないのは勿体無いな。


 この地域の気温だと保って1日だろうな。でも……

 何かの本で見た事を思い出し部位ごとに切り分け川に沈めてみた。


――これでダメならしようがないな。


 

 後日川から引上げ少量持ち帰り、焼いたり、煙で燻したり、肉に含まれる水分量を減らす努力をしてみたが、塩も残り少ないため保存に必要な分を用意できなく、長期間の保存はできなかった。


 「塩が欲しいな〜」


 久しぶりに声を出したと思ったら愚痴だった。

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